ビターテイスト

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■概要
人数:4人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ

■キャスト
昭人(あきと) 小学3年生
母親 46歳
櫻(さくら) 小学3年生
男子生徒 小学3年生

■台本

テレビのコマーシャル。

タレント「コーヒーの苦みが大人の渋さを演出する。ブレンドコーヒーネオ。新発売」
昭人「おおおー! 格好いい!」

場面転換。
キッチンに走って来る昭人。

昭人「ねえ、お母さん。コーヒー飲みたい」
母親「え? うちには無いわよ。それに、昭人があんな苦いの、飲めるわけないじゃない」
昭人「いいの! 僕は渋くて格好い大人なんだから」
母親「大人って……。あんた、まだ小学生じゃない」
昭人「だから、コーヒー飲んで大人になるの!」
母親「んー。その考え方がすでに子供なんだけど……。まあ、いいわ。美味しいの作ってあげる」
昭人「美味しいのじゃなくて、苦いのがいいの!」
母親「……はいはい」

場面転換。
ズズズと啜る音。

母親「どう? それなら、飲めるでしょ?」
昭人「お母さん……これ、ココアでしょ」
母親「え!?」
昭人「コーヒーがこんなに甘いわけないもん!」
母親「な、何言ってるの、コーヒーだって砂糖を入れたら、甘くなるわよ」
昭人「なんで砂糖入れるのさ! 入れないで作って!」
母親「……はいはい」

場面展開。

母親「はい、どうぞ」
昭人「わーい」

ズズズと啜る音。

昭人「うえー……。苦いー」
母親「だから言ったでしょ」

ズズズと啜る音。

昭人「うう……苦い……」
母親「砂糖入れれば?」
昭人「嫌だ」

場面転換。
学校内。

昭人「はあ……」
男子生徒「どうした、昭人? ため息なんてついて」
昭人「いやさ。今、コーヒーを飲む練習してるんだけど……」
男子生徒「ええ? コーヒー? お前、よくあんな苦いの飲めるな」
昭人「苦いんだよ。本当に……」

そのとき、櫻がやってくる。

櫻「え? 昭人くん、コーヒー飲むの?」
昭人「あ、櫻ちゃん。う、うん。最近、ハマっちゃってさ」
櫻「へー。私もコーヒー好きだよ。美味しいよね」
昭人「だ、だよね」
櫻「嬉しいな―。みんな、コーヒーって聞くと嫌な顔するんだもん。ホントはもっとコーヒーの話したいのにさ」
昭人「そ、そうなんだ。これからは僕としようよ。コーヒーの話」
櫻「うん」

場面転換。
昭人の家。

昭人「ううー……。苦い―」
母親「いい加減、諦めれば?」
昭人「嫌だ! ううー。苦いおかわり」
母親「……はいはい」

場面転換。
教室内。

櫻「ねえねえ、昭人君」
昭人「ん? なに?」
櫻「今度の日曜日に、昭人くんの家に遊びに行っていい?」
昭人「え? う、うん! いいよ!」
櫻「ホント? じゃあ、日曜日に行くね」
昭人「わ、わかった」

場面転換。
昭人の家。

昭人「はあ、はあ、はあ……。もう少し」
母親「なんか、今日は随分と張り切ってるわね」
昭人「まあね。……よし、大分、苦いのにもなれてきたぞ」
母親「……」

場面転換。
ガチャリとドアが開く音。

櫻「へー。昭人くんの部屋、綺麗だね」
昭人「え? ああ、うん。いつも掃除するようにしてるんだ」
櫻「偉いねー」
昭人「……へへへ」

そのとき、ドアが開く。

母親「昭人、おやつ持ってきたわよ」
昭人「ありがと」
母親「(小声で)可愛い子ね。頑張りなさい」
昭人「(小声で)う、うん。わかってる」
母親「(小声で)あんたの注文通りだから。苦めにしておいたわよ」
昭人「ありがと」

昭人がお盆を受け取り、部屋の中に戻る。

昭人「お待たせ。じゃあ、先におやつ食べない?」
櫻「ありがとー。あ、もしかして、これ、コーヒー?」
昭人「そうだよ。僕がいつも飲んでるやつ」
櫻「へー。昭人くん、どんなの飲んでるのか、興味あったんだよね。もらっていい?」
昭人「うん」

二人がズズズと啜る。

櫻「……」
昭人「どう? 美味しいでしょ?」
櫻「すごーい。私、初めてかも」
昭人「え? なにが?」
櫻「こんなに苦いの」
昭人「で、でしょ? 僕、苦いの好きなんだ」
櫻「でもさ、これ……」
昭人「なに?」
櫻「ココアだよね?」
昭人「へ? そ、そんなことないよ! だって、ココアは甘いよね?」
櫻「ううん。ココアでも苦いのあるよ」
昭人「……え? どういうこと?」

回想。

昭人「ねえ、お母さん。コーヒー飲みたい」
母親「え? うちには無いわよ。それに、昭人があんな苦いの、飲めるわけないじゃない」

回想終わり。

昭人「……あっ!」
櫻「どうしたの?」
昭人「う、ううん。なんでもない」

ズズズと啜る音。

櫻「苦いね、このココア」
昭人「そ、そうだね……」

終わり。

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