親友と歩くはずだった道
- 2023.07.18
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:2人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、ファンタジー、シリアス
■キャスト
レオ 26歳
アイザック 26歳
■台本
玉座の間。
玉座の間にはアイザックが一人、座っている。
ドアが開け放たれて、レオが入って来る。
アイザック「来たか、レオ」
レオ「……アイザック」
アイザック「10年ぶりだな。いや、まさか、10年で俺の前に現れるなんて思っていなかったよ。20年……いや、もしかしたら、たどり着けない可能性も考えていた」
レオ「なぜだ? なぜ、こんなことをした?」
アイザック「こんなこと? どれのことだ? 故郷の村を潰したことか?」
アイザックが立ち上がる。
アイザック「貴様の団の約半数をだまし討ちしたこと、貴様の親を殺したこと、貴様の兄弟を殺したこと、貴様の婚約者を殺したこと……。仲間、親友、家族。貴様からは様々なものを奪った。どれのことを言っている?」
レオ「……その、全てだ!」
レオが剣を抜いて、斬りかかる。
アイザックも剣を抜き、レオの剣を受ける。
アイザック「ふむ……。もう少しで、貴様から『国』を奪うことができたのだがな。惜しいことをした」
レオ「なぜだ、アイザック。なぜ、こんなことを……?」
アイザック「だがな、レオ。俺が一番欲しいのはそんなくだらないものではない」
レオ「……くだらないもの、だと?」
アイザック「俺が一番欲しいのは、レオ、貴様の命と心だ!」
レオとアイザックが切り結ぶ。
レオ「アイザック! 何が、お前をそこまで狂わせた!?」
アイザック「狂わせた張本人がよく言う」
レオ「……俺が……狂わせたというのか?」
アイザック「俺が元々狂っていたという点は否定しない。だが、きっかけは貴様だ、レオ」
レオ「なら、なぜ、俺を殺しに来なかった? お前ならもっと早く、簡単にできていたはずだ」
アイザック「言っただろう? 俺が欲しいのは、お前の心もだ。命だけもらっても意味をなさない」
レオ「……お前に忠誠を誓えば気が済んだのか?」
アイザック「(ため息)やはり、お前は何もわかっていない。何もな」
レオ「……」
アイザック「お前は覚えているか? ユウナのことを?」
レオ「忘れるわけがない」
アイザック「そうか。覚えているか。それなら、我が妹も、あの世で喜んでいるだろうな」
レオ「……」
アイザック「お前にとって、ユウナはなんだ?」
レオ「大切な人だ」
アイザック「……大切な人。ふふ。実に便利な言葉だな。親友にも家族にも仲間にも、知り合ったばかりの者にだって使える」
レオ「……そして、恋人にだって」
アイザック「……貴様が、ユウナを愛していたというのか?」
レオ「当然だ」
アイザック「それだよ、レオ」
レオ「……?」
アイザック「貴様の言葉は軽い。ユウナを愛していただと? なら、なぜ泣かなかった? 目の前で無慈悲に殺されたのに」
レオ「悲しんでいたさ。心が張り裂けそうなくらい」
アイザック「ふざけるなっ! あの、平然とした顔で悲しんでいただと?」
レオ「泣くことだけが悲しむことじゃない」
アイザック「詭弁だ。本当に悲しかったのなら、涙は自然と出るものだ」
レオ「泣くことよりも、前に進むことがユウナにとっての……」
アイザック「黙れ! ……お前の正論なんてどうでもいい。正しさなんてものは、感情によって簡単に覆る。人間とはそういうものだ」
レオ「……」
アイザック「だからだ。だからこそ、俺は貴様の感情を見たかった。本当の感情を……な」
レオ「……」
アイザック「だから、この国に入り込み、のし上がり、掌握した。お前から大切なものを奪うためにな」
レオ「俺が……ユウナが死んだとき、涙を流さなかったから。だから、こんなことをしたのか?」
アイザック「もちろん、憂さ晴らしや恨みの感情もなかったと言えば嘘になる。だが、一番の根底にあるものは、興味だったよ」
レオ「……興味?」
アイザック「お前から、何を奪えば、お前が涙を流すのか。……ただ、それが知りたかった」
レオ「……たった、それだけのために?」
アイザック「俺にとってはすべてをかけるに相応しいことだったんだ」
レオ「……くっ」
アイザック「だが、お前はついに一度も涙を流すことなく、俺の前に立った。多くの大切な者の命が奪われていく中でも、泣くことなく前に突き進んできた。……ユウナが死んだときのように」
レオ「(歯ぎしりをして)アイザック」
アイザック「憎しみの感情は表に出すのにな。なぜ、悲しみは出さない? 随分と興味深かったが、もういい。俺は疲れた。お前の心などいらん。命だけくれ」
レオ「アイザック!」
レオが再び、剣でアイザックに切りかかる。
その剣を弾くアイザック。
アイザック「ユウナよ。お前の死は無駄だった」
レオとアイザックが激しく切り結ぶ。
レオ「アイザック!」
アイザック「レオ!」
レオ「うおおおおおおおおおお!」
アイザック「はあああああああああ!」
激しい打ち合い。
そして。
剣が弾かれる音と、ドスッと剣が体を貫く音。
アイザック「ぐっ……」
レオ「はあ、はあ、はあ……」
アイザックが倒れる。
アイザック「負けたか……。まあ、いい。どうせ、お前を殺した後、俺にやるべきことや残るものなど何もないからな」
レオ「アイザック……」
アイザック「さあ、止めを刺せ。それとも、すぐに楽にするのは癪か? 苦しめと言うなら、死の直前まで潔く、受け入れよう」
レオ「……どうしてだ、アイザック」
アイザック「理由はすべて話したつもりだが?」
レオ「一緒に歩くことはできなかったのか?」
アイザック「……どうだろうな。妹かお前か。今回はたまたま妹を選んだだけだ」
レオ「俺があのとき、ユウナを救えれば……」
アイザック「そこは気に病む必要はない。あの状況はどうしようもなかった。お前も俺もな」
レオ「……」
アイザック「……お前と道を共に歩んでいたらどうなっていただろうな。子供の頃の夢のように、世界を平和にできたかもしれん」
レオ「……俺は、お前と共に歩みたかった」
アイザック「そっちも、楽しかったかもな」
ポタポタと涙が落ちる音。
アイザック「……レオ?」
レオ「アイザック……俺は……」
アイザック「なぜだ? なぜ、涙を流してるんだ?」
レオ「……親友を失ったんだ」
アイザック「ふっ。ふはははははは。なんてことはない。……俺が……俺が死ねばよかったんだな」
レオ「……アイザック」
アイザック「ありがとう、レオ。親友でいてくれて。……もう、心残りはない。……ユウナ……いま……い……く」
レオ「アイザック? アイザック! アイザーック!」
終わり。