平和な世界に

〈前の10枚シナリオへ〉  〈次の10枚シナリオへ〉

〈声劇用の台本一覧へ〉

■概要
人数:3人
時間:5分

■ジャンル
ボイスドラマ、ファンタジー、シリアス

■キャスト
エヴァン
セリス
イザヤ

■台本

剣で魔物を切っていくエヴァン。

エヴァン「はああああ!」

ザシュっという音。

モンスターの断末魔。

エヴァン「はあ、はあ、はあ……」

セリス「エヴァン、大丈夫?」

エヴァン「ああ。セリスも怪我はないか?」

セリス「うん」

エヴァン「それにしても……」

セリス「いよいよね」

エヴァン「ついに、ここまで来たんだな」

エヴァン(N)「世界は魔王の手により侵略され、荒廃していた。人々は魔物に追い詰められながらも、団結力を高め、魔王に対抗していく。そしていつしか、勇者と呼ばれる英雄が現れる。勇者は見事、魔王を倒し、世界は平和になった。だが、平和というものは長くは続かない。勇者が現れるのと同じように、魔物側の英雄、つまり魔王が現れる。そして、また人間たちに牙を剥くのだ。そんなことを延々と繰り返していく。そして、今回は俺の番が回ってきた。それだけのことだ。だが、この負の連鎖を、俺の代で断ち切ってみせる」

場面転換。

魔王の城内を走るエヴァンとセリス。

セリス「……ねえ、エヴァン」

エヴァン「ああ、妙だな」

セリス「罠……かしら?」

エヴァン「そうじゃないと説明がつかない。魔王の城に入って、一体の魔物にも遭遇していないんだからな」

セリス「……一旦、出直す?」

エヴァン「……いや、もしかすると城の前に全ての魔物を配置していたのかもしれない」

セリス「そ、それもそうね」

エヴァン「お前は俺が絶対に守る。……だから信じて、ついてきてくれ」

セリス「うん。わかった」

2人が走る。

エヴァン「ドアだ!」

2人が立ち止まり、ドアを開ける。

2人が魔王の部屋に入る。

セリス「……誰もいない」

エヴァン「どういうことだ?」

そのとき、コツコツと何者かが歩いてくる音。

エヴァン「現れたか」

イザヤ「……ついに来たか」

セリス「え!?」

エヴァン「……」

イザヤ「お前が今回の勇者か」

セリス「どういうこと? エヴァンとそっくり」

イザヤ「ふむ。なるほど。そうかそうか」

エヴァン「説明しろ。どういうことだ?」

イザヤ「簡単なことさ。お前は俺の子孫ってことだろ」

エヴァン「貴様の子孫だと?」

イザヤ「それしか考えられんだろう」

エヴァン「……ということは、俺の祖先が魔族に堕ち、魔王になったということだな?」

イザヤ「……」

エヴァン「ふふ。ちょうどいい。一族の恥をさらさずに済んだ。俺がここでお前を始末する。そうすれば、このことは世界に知られることはなくなる」

イザヤ「半分正解で、半分外れだ」

エヴァン「なんだと?」

イザヤ「俺は魔族に堕ちていない。人間のままさ」

セリス「そんなわけない! 魔王が現れてから、もう100年は経っているのよ」

イザヤ「100年か……。もう、そんなに時間が経っているのか」

エヴァン「……」

イザヤ「そんな目で見るな。ちゃんと説明してやる。お前にも関係することだからな」

エヴァン「関係する?」

イザヤ「ああ。なんぜ、次の魔王はお前になるんだからな」

エヴァン「ふざけるな! 俺は魔族に堕ちる気はない」

イザヤ「最初から説明しよう。俺は200年前、勇者として魔王の城に攻め込んだ」

エヴァン「勇者として……だと?」

イザヤ「ああ。今のお前のようにな。そして、そこで、先代の魔王……つまり、勇者に会った」

エヴァン「どういうことだ? 話が見えないぞ」

イザヤ「お前は魔王を倒せば、世界は平和になると思うか?」

エヴァン「当たり前だ」

イザヤ「……俺も、最初はそう思っていた。だが、違っていたんだ」

セリス「違っていた?」

イザヤ「魔王や魔物がいなくなったとき、人間はどうすると思う?」

エヴァン「戦う必要がなくなるんだ。平和に暮らすだろ」

イザヤ「魔物がいなくなったあと、人間は……人間同士で争い始める」

セリス「……っ」

エヴァン「そんなわけない!」

イザヤ「そう言った俺に、先代の魔王はこう返した。『お前の目で確かめるがいい。もし、人間たちが平和に過ごす世界になったのなら、魔王を止めるがいい』と」

エヴァン「……わかった。今度は俺が役目を引き継ごう」

セリス「エヴァン!」

エヴァン「大丈夫だ、セリス。俺は……人間たちを信じている」

イザヤ「……では、お前と……セリスと言ったか、お前の時間を止める。そうすれば、今のままの肉体を維持できるだろう」

エヴァン(N)「こうして、俺は魔王から、魔王の力を引き継いだ。そして、魔王が消え、世界は平和になった。人間は今まで魔物たちのせいで止まっていた時間を取り戻すかのように、発展していった。まさに、人間たちの世界になる。……俺が魔王の力を引き継いでから50年後」

場面転換。

エヴァン「いくか、セリス」

セリス「ええ」

二人が歩き出し、魔王の城のドアを開く。

終わり。

〈前の10枚シナリオへ〉  〈次の10枚シナリオへ〉