【声劇台本】寄り道だらけの一路な恋路

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■概要
主要人数:4人
時間:10分

■ジャンル
短編シナリオ、ボイスドラマ、学園、コメディ

■キャスト
新井 新之助(16) 学生
古池 美羽 (16) 新之助の幼馴染
今川 亮太 (16) 新之助のクラスメイト
東条 麗子 (16) 一年生の憧れの存在
その他

■台本

○ シーン 1

新之助(N)「それは、いつの頃からか、ハッキリとは思い出せない。気が付いたら、そうなっていたわけで……。こんなことは、漫画とかアニメでしかないと思ってたのに、どうやら現実でも王道らしい。俺は、どうしようもなく、幼馴染の美羽のことを好きになってしまったのだ」

○ シーン2
 騒がしい昼休みの教室内。
 パンと、頬を手のひらで叩く音が響く。
 その音で教室の雰囲気が、凍りつく。
  顔を真っ赤にした古池美羽(16)が叫ぶ。

美羽「ば、馬鹿じゃないの!」

  恥ずかしそうに小走りで走り、教室のドアを開けて、出ていく美羽。
  呆然と佇む、新井新之助(16)。

新之助「……痛ぇ」
女生徒1「(囁くように)あ~、また新之助君と、美羽ちゃん?」
女生徒2「何であの二人、付き合わないの?」
女生徒1「新之助君が、馬鹿だからでしょ?」
女生徒2「なるほどねぇ~。まあ、確かにあんな方法でデートに誘われたら、ひくよね。美羽ちゃんもあれじゃ、OKできないか」

  新之助がツカツカと歩き、今野亮太(16)の机の前で立ち止まる。

新之助「(バンっと机を叩き)おい、亮太、失敗したぞっ!」
亮太「ああ。知ってる。見てたからな」
新之助「今回の『プロジェクトG』もダメだったじゃねえか。これで、また美羽に嫌われちまったぞ」
亮太「……ふむ。バラの花束を渡して映画に誘う……。オーソドックスで、いいと思ったんだがな」
新之助「やっぱり、教室でってところがダメだったんじゃないか?」
亮太「馬鹿言うな。教室じゃないと、俺が見れないだろ」
新之助「お前に見てもらう必要ねえだろ」
亮太「何を言ってる。何が、どう駄目だったか、今度はどうすべきか、ちゃんと助言をするには、その場の雰囲気を見ないとできないだろ」
新之助「うーん。まあ、そりゃそうか。でもさ、体育館裏とかでも、お前が来てくれればいいんじゃないか?」
亮太「教室の方が面白い……いや、俺もあまり暇じゃないからな。教室以外だと、立ち会えん」
新之助「ちぇっ! お前って、そういうところ、融通が利かないよな」
亮太「プランを立ててやるだけでも、感謝しろ」
新之助「……まあ、それは感謝してるけどよ」
亮太「ところで、新之助。『プロジェクトH』を思いついたんだが、どうする?」
新之助「聞かせてくれ!」

○ シーン3
 放課後の廊下。
トボトボと歩く、新之助。

新之助「ホントにこんな方法で上手くいくのかよ……って、おっと、このクラスか」

  新之助が立ち止まり、少しだけドアを開ける。

○ シーン4
  教室の奥。
  数人の女子が、東条麗子(16)をおだてるように話している。

女生徒3「麗子さんの持ってるそのカバン、すっごい素敵ですね。どこで買ったんですか?」
麗子「別に、大したものじゃないのよ。お父さんの、パリのお土産なの」
女生徒4「えー、それじゃ、同じもの欲しくても、買えないじゃないですかぁ」
麗子「でも、あなたの、そのカバンも素敵だと思うわよ」
女生徒4「そんなことないですよ。麗子さんのセンスには、全然適いません」
麗子「(苦笑い)でも、別にこれは、私が選んだわけじゃないから……」
女生徒3「あーあ。私も、麗子さんみたいなお金持ちの家に生まれたかったなぁ」
女生徒4「何言ってんの。あんたが、麗子さんの家に生まれたって、意味ないよ。美人で、頭が良くて、運動も抜群。誰にでも優しい麗子さんだからこそ、輝いてるんだよ」
女生徒3「むー、それはそうだけどさー」
麗子「それじゃ、そろそろ帰ろうかしら」
女生徒4「あっ、それじゃ、私も一緒に帰ってもいいですか?」
女生徒3「私も、私も~」
麗子「では、行きましょうか」

  麗子と、女生徒たちが、新之助が覗いているドアの方に歩いて来る。

新之助「うわっ、やっべー」

  慌てて、数歩下がる新之助。
  と、同時に麗子たちがドアを開けて、教室から出てくる。
  そして、新之助の前を通り過ぎて、廊下を歩いていく。

女生徒3「あの、麗子さん。帰りにマッキ―バーガー食べに行きませんか?」
麗子「え?」
女生徒4「あんた、馬鹿じゃないの? 麗子さんが、そんなジャンクフード食べるわけないでしょ」
女生徒3「あ……、それも、そうか」
新之助「お、おいっ」
女生徒3・4「ん?」

  新之助が、意を決して走り、麗子たちの前に立ちふさがる。

新之助「俺と一緒に映画に行かないか?」
麗子「……」
女生徒4「……何言ってんの? あんた」
女生徒3「君みたいな、平凡な男の子が、麗子さんと一緒に映画なんて行けると思ってるんですか?」
新之助「別に、あんたらに言ってるわけじゃない。東条麗子、俺とデートしてくれ」
女生徒3・4「はぁぁぁ?」
麗子「(にっこりと)ごめんなさい。そういうお誘いは、ちょっと……」
新之助「そ、そうか……」
女生徒3「そうですよねー、麗子さん。さ、帰りましょ」

  三人が、廊下を歩いていく。

新之助「……まあ、そりゃそうだよな」

  佇む新之助。

○ シーン5
 教室のドアをガラリと開ける、新之助。
教室には、亮太しかいなく、外から微かに運動部の練習の声が聞こえている。
亮太が座っている机に向かって歩く新之助。

亮太「ああ、新之助、早かったな。で? どうだった?」
新之助「ダメだった」
亮太「ふむ、まあ、そうだろうな。それより、ちゃんと名乗ったのか?」
新之助「……あっ! やっべ、忘れてた」
亮太「(深いため息)それじゃ、意味ないだろ」
新之助「なあ、亮太。あの、東条麗子をデートに誘うことに、何の意味があるんだ?」
亮太「いいか、新之助。恋愛というのは、ただ押せばいいというわけではない。時には引いてこそ、相手の気を引くことができるんだ」
新之助「引くって言われてもな……。東条とデートすることが、どうして引くことになるんだ?」
亮太「女子いうのはな、今まで自分を追っかけていた男子が、急に他の女子を追っかけはじめると嫉妬するものなのだ」
新之助「……嫉妬」
亮太「つまり、お前が東条麗子を狙い始めたという噂が流れると、古池美羽は、気が気じゃなく、お前を意識し始めることになる。そうすれば、あちらから、お前を映画に誘うようになるさ」
新之助「おおっ!」
亮太「(肩をすくめて)だが、お前は東条麗子を誘う時に、名前を言わなかった。だから、変な男子が、いきなり東条に告白したという、よくある噂が流れるだけになるな」
新之助「ああっ、しまったぁ。よし! ちょっと待ってろ。今度はちゃんと言ってくる」
亮太「……もう手遅れだと思うがって、おい、待て」

  新之助が教室のドアを思い切り開けて、勢いよく走り去っていく。

亮太「……まったく。でも、まあ面白いからいいか」

○ シーン6
 賑わっている、夕方の商店街。
 人の間を縫うように走っている新之助。

新之助「(息を切らせて)くそ、どこに行った? ……確か、マッキ―に行くとか言ってたよなって、ああ……。東条は、あんなところには行かないとも言ってたな」

  大きく息を吐いて、歩き出す新之助。
  荒い息を整えるように、深呼吸する。

新之助「……諦めるか? ……いや、ダメだ。絶対に成功させて、美羽の気を引くんだ」

  気を引き締めるように言うと同時に、新
之助のお腹が、グゥっと鳴る。

新之助「……腹減った。ちょうどマッキ―も見えてきたし、ハンバーガーでも食うか」

  トボトボと歩く新之助。

○ シーン7
  マッキ―バーガー店内。割と混雑状態。

店員「お待たせしました。チーズバーガー三つとポテトLです」
新之助「……どうも」

  紙袋を受け取り、歩き出す新之助。

新之助「ちょっと、買い過ぎたか?」

  出口に向かって歩く新之助。
ウィーンと自動ドアが開く。
  入り口で、ドンと人にぶつかり、両者とも尻餅をつく。

女の子「きゃっ」
新之助「痛ってぇー。おい、どこ見て歩いてるんだ……って、あれ? 東条?」
麗子「……あなたは、さっきの」
新之助「おい。お前、どうしてこんなところにいるんだ? ファーストフードなんて食わないんじゃなかったのか? それに、どうしてサングラスなんかしてるんだよ?」
麗子「……あっ、しまった。(立ち上がって)ちょっと、あんた、来て!」

  麗子が、新之助の腕をつかんで引っ張る。

新之助「お、おい。引っ張るなよ。……わかったって。今立つから、ちょっと待てって」

  立ち上がる新之助の腕をつかんで走り出す麗子。

新之助「うわっ、どこに連れてく気だよ」

  新之助も、麗子に引っ張られ、走り出す。

○ シーン8
 街の路地裏。人気はなく、遠くから街の雑踏が聞こえる。

新之助「で? こんな路地裏で、どうする気だ?」
麗子「お願い、黙ってて欲しいの!」
新之助「何を? ……って、もしかして、マッキ―に来たことをか?」
麗子「そうよ。……私が、あんな物を買いに来たって、みんなが知ったら……」
新之助「……まあ、いいけどよ」
麗子「ホント?」
新之助「……ああ。誰にも言わない」
麗子「よかったぁ……」
新之助「……そうだ! なあ、誰にも言わない代わりに、一つ、俺のお願いを聞いてくれないか?」
麗子「(警戒して)な、なに?」
新之助「一緒に映画に行ってくれないか?」
麗子「……あなたとお付き合いしろってこと?」
新之助「あっ、いや、一回でいいんだ。それで、俺はお前にもう、一切関わらない」
麗子「うーん。一回だけ? ……それなら」
新之助「よし! それなら、明日の十時にスミネ座の前で、待ち合わせでいいか?」
麗子「いいわ。でも、本当に一回だけよ」
新之助「わかってるって。……それにしてもさ、どうして、マッキ―に来たことを隠すんだ?」
麗子「だって。私、みんなの前じゃ、お嬢様で通ってるでしょ? みんなが私に求めてるのは、神聖なお嬢様像よ。それを崩したら、私には、誰も見向きもしなくなるわ」
新之助「んー、そんなもんか? でも、好きなんだろ? マッキ―のハンバーガー」
麗子「分からないわ。食べたことないもの。みんなが、美味しそうに食べてるから、気になっただけよ」
新之助「じゃあ、食ってみるか?」

  ガサガサと紙袋を漁る、新之助。
  バーガーを一個だして、麗子に渡す。

新之助「ちょうど買い過ぎたからな。ほらよ」
麗子「え? でも」

  新之助がもう一つ出して、食べる。

新之助「うめえぞ、チーズバーガー」
麗子「じゃ、じゃあ……」

  包みをとって、ぱくりと食べる麗子。

麗子「あ……。美味しい」
新之助「だろ? 結構評判なんだぜ」
麗子「でも、私がこんなの食べてるところ見たら、みんな、ガッカリして離れていくわ」
新之助「そんなんで離れていくような奴、友達じゃねえだろ。大体、そんなこと気にしてたら、疲れるだけじゃないか?」
麗子「……うん。すごく、疲れるわ」
新之助「だろ? もっと気楽に生きろって。その方が楽しいに決まってる」
麗子「……それもそうね。それじゃ」

  麗子が歩き出そうとする。

新之助「あっ、明日、十時にスミネ座な」
麗子「ええ。わかったわ」

  麗子が軽い足取りで、駆けていく。

新之助「何だか分からんが、上手くいったな。あっ、そうだ一応、報告しておくか」

  新之助が胸の内ポケットから携帯を出す。
  ピッ、ピッと操作して電話をかける。
  発信音の後に、ガチャッと取る音。

新之助「あっ、亮太か? 聞いてくれ上手くいったぞ」

○ シーン9
 映画館、スミネ座の前。
 休日で、賑わっている。そんな中、ひとりぽつんと待っている新之助。

新之助「……東条の奴、遅いな。もう、十時になるぞ」

  そこに、複数の足音が近づいてくる。

新之助「ん? おっ、東条……? あれ?」
麗子「お待たせしました」
女生徒4「待ち合わせしてるって、こいつ?」
新之助「お、おい。東条、どういうつもりだよ。友達も連れてきたのか? チケット二枚しか、買ってないぞ」
麗子「心配いりません。チケットは必要ないですわ」
新之助「ああ。なるほど。こいつらとは、ここで別れるのか?」
麗子「いいえ。別れるのは、あなたとですわ」
新之助「は? どういうことだ?」
麗子「私、これから、みんなとマッキ―バーガーに行くんですの」
新之助「……え?」
麗子「マッキ―を食べたら美味しかったって言ったら、みんなに、一緒に食べに行きましょうって言われたの」
新之助「……」
女生徒3「さ、行きましょ、麗子さん」
麗子「もう、麗子って呼んでって言ったでしょ。それに敬語で話すのも無し」
女生徒3「あ、そうだったね。ごめん」
麗子「と、いうわけだから。私が、あの時、マッキ―に来たことは、隠さなくてもいいのよ。だから、あなたと一緒に映画に行かなくてもいいってわけよ」
新之助「……」
麗子「それじゃ、ごきげんよう」

  麗子と、女生徒たちが楽しそうに話しながら、行ってしまう。
  呆然とする新之助。そこに大爆笑。

美羽「あっはっはっは」
新之助「なっ、み、美羽。お前、どうしてここにいるんだよ?」
美羽「亮太くんに聞いたんだよ。ここに来れば、面白いものが見れるって」
新之助「……あいつ」
美羽「うん。面白かった。振られた時の、あんたの顔」
新之助「い、いや、あれは……」
美羽「さ、早く行こう。映画始まっちゃうよ」
新之助「え?」
美羽「チケット。無駄になっちゃうでしょ」
新之助「あ、ああ」
美羽「ほら、走って、走って」

  美羽が、嬉しそうに駆けだす。

新之助「ちょ、待てよ、美羽」
美羽「(小声で)もう、普通に誘ってくれれば行くのに」
新之助「え? なんか、言ったか?」
美羽「べーつに。なんでもないっ!」

新之助(N)「亮太のプロジェクトは失敗に終わった。でも、こうして美羽と一緒に映画が見れる。これは、これでよしとするか」

おわり

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