【ラジオドラマ短編シナリオ】誓いを胸に

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人物表

セシル・アルベール(16)皇女

エリク    (23) セシルの近衛兵

レオン    (23) セシルの近衛兵

ジョルジュ (31) 山賊

〇 シーン1
息を切らせて歩く、セシル、エリク、レオン。

レオン「セシル様、大丈夫ですか? 少し休みましょう」
セシル「ありがとう。レオン。でも、今日中に森を抜けないと……」
エリク「そうだ。こんな所で足踏みしてると敵に追いつかれる」
レオン「おい、エリク! 少しは皇女の身も考えろ。半日も歩き通しだ。見ろ! 顔色も悪い。少し休ませるべきだ」
エリク「馬鹿か。皇女の身を考えてこそ、だ。王が自ら囮になって稼いでくれた時間を無駄にする気か?」
レオン「いや……それは……」
セシル「大丈夫です、レオン。私のことは気にしないで。エリクの言う通り。先を急ぎましょう」
レオン「セシル様……」

  森を歩く三人。
  セシルの息が荒くなっていく。

セシル「はあ……はあ……はあ」

  セシルが倒れる。

レオン「セシル様! おい! エリク、止まれ。セシル様が倒れた」
エリク「なに?」
セシル「……うう」
レオン「セシル様! セシル様!」
エリク「あまり揺らすな。どこか木陰で休ませよう」

〇 シーン2
  夜。
  セシルが目を覚ます。

セシル「う……うん」
レオン「セシル様? 大丈夫ですか?」
セシル「え? ここは?」
レオン「山合(やまあい)の洞窟です。エリクが見つけました」
セシル「……私、倒れたんですね」
レオン「無理もありません。ずっと歩き通しでしたから」
セシル「エリクは? 姿が見えませんが」
レオン「今、マキを拾いに行ってます。ここなら、火を焚いても目立たないからって」
セシル「……怒っていたでしょうね。私、情けないです」
レオン「(笑って)すっごく心配してましたよ。あの慌てよう、セシル様にも見せてやりたかったです」
セシル「……私、思うんです。私なんかより、エリクの方がずっと王家の人間らしいって。剣も強いし、頭も良いし……格好良いし」
レオン「あんな仏頂面が一国の王だったら、俺は嫌ですけどね」
エリク「誰が仏頂面だ!」
セシル「……エリク」
レオン「早かったな。で? どうだった?」
エリク「遠くからしか見てないから正確なことはわからん。が、随分と静かになってる。恐らく陥落したんだろう」
セシル「お父様……」
エリク「とにかく、今日はここで一夜を過ごそう。敵も疲れてるだろうから、すぐには追ってこないはずだ」
レオン「よし! 今度は俺が行ってこよう」
エリク「何をする気だ?」
レオン「明日に備えて、精の出る物を食べないとな。猪でも狩ってくる」
エリク「気をつけろよ。敵兵もいないとは限らないからな」
レオン「ここにいた方がよっぽど危険だ。なんせ、馬に蹴られて死んじまうからな」
セシル「え?」
エリク「早く行け!」
レオン「へいへい」

  レオンが歩き去っていく。

エリク「(優しく)大丈夫か?」
セシル「……ごめんなさい」
エリク「いや、無理をさせた俺の責任だ」
セシル「私にもっと体力があれば……」
エリク「(微笑んで)ふふ」
セシル「なんですか?」
エリク「お前はホント、王家の人間ぽくないよな。普通は家臣に謝ったりしないぜ」
セシル「……私、皇女になんか生まれたくなかったです。普通の女の子だったらって、何度も思いました」
エリク「……」
セシル「エリク。神帝国に行くのは止めませんか?」
エリク「え?」
セシル「神帝国に行けば、私、王子と……」
エリク「……セシル」
セシル「何もかも忘れてひっそりと暮らすんです。そうすれば私、エリクと一緒に……」
エリク「お前は皇女で、俺は護衛兵。それは変わらない。この先もずっと……」
セシル「……エリク」
エリク「だから俺がお前を守ってやる。どんなことがあっても」
セシル「(涙を拭って)……はい。絶対ですよ。約束です」
エリク「ああ。約束だ」

〇 シーン3
  森を歩く三人。

レオン「いやあ、晴れて良かったですね、セシル様。雨でも降ったら歩きづらいですから」
セシル「そうですね」
エリク「馬鹿。それは敵も同じだ。大体、お前は気を緩め過ぎ……ん?」
レオン「どうした?」
エリク「静かに!」
レオン「……」
セシル「……」
エリク「くそっ! 囲まれてる」
レオン「何? 何も聞こえないぞ」
エリク「行くぞ! 走れ!」

  森を走る三人。

レオン「(走りながら)おい! ホントに囲まれてるのか?」
エリク「気配の消し方から見ると、きっと山賊の類だ。恐らく報奨金狙いだろうな」
レオン「それなら、こっちが金を出せば、引いてくれるんじゃないのか?」
エリク「馬鹿か。あいつらが交渉なんかに応じると思うのか?」

  前からジョルジュが出てくる。

ジョルジュ「それはそうだろう。お前らを殺し、有り金奪って、さらに聖将王国から報奨金をもらう。どう考えてもこれがベストだ」
レオン「なっ!」

  三人が立ち止まる。

ジョルジュ「まだ運には見放されてないらしい。残党刈りしていたら、まさか、皇女が網にかかるとはな」
エリク「くそっ!」
レオン「いやいや。お前は最高に運が悪いと思うぜ。なんせ、これから俺にノーテンかち割られるんだからな」
ジョルジュ「ふん。随分と威勢の良いガキだ」
エリク「(小声で)おい、レオン。どういうつもりだ?」
レオン「(小声で)ここは俺が囮になる。お前はセシル様を連れて逃げろ」
エリク「(小声で)馬鹿か。そんなことできるわけねえだろ」
レオン「(小声で)ここで足止めくってたら、ドンドン敵は多くなる。セシル様を守りながら戦うのは無理だ」
エリク「くそっ!」
ジョルジュ「大人しく皇女を差し出すなら、お前らの命は助けてやってもいい」
エリク「セシル! 行くぞ」
セシル「え?」

  エリクがセシルの手を握って、走り出す。

ジョルジュ「くそ! 逃がすか」
レオン「おっと! お前の相手は俺だよ」

  エリクが走りながら叫ぶ。

エリク「レオン! 絶対に追いつけよ!」
レオン「……ああ、必ず追いつく」
セシル「レオンは。レオンは……どうするのです?」
エリク「いいから、走れ!」
セシル「そんな……レオン!」

  走っていく、セシルとエリク。

〇 シーン4
  森の中を走る、セシルとエリク。
  そして、セシルが転ぶ。

セシル「きゃっ!」
エリク「セシル! 大丈夫か?」
セシル「は、はい。平気です……痛っ!」
エリク「足首が腫れてる。転んだ時に捻ったみたいだな」
セシル「……」
エリク「ほら、肩につかまれ」
セシル「このままじゃ、敵に追いつかれます。エリクだけでも逃げてください」
エリク「馬鹿。それじゃ意味ないだろ。俺はお前を守るためにいるんだ。それに約束しただろ。お前をずっと守るって」
セシル「……エリク」
エリク「さあ、頑張れ。この山を抜ければ、同盟国の神帝国だ」
セシル「は、はい」

  セシルがエリクの肩に捕まって、ゆっくり歩く。

エリク「もう少しだ。頑張れ。もうすぐレオンも戻ってくる」
セシル「……あの、エリク」
エリク「なんだ?」
セシル「ありがとう」
エリク「……なんのお礼だ?」
セシル「色々ありますけど……一番は……」
エリク「ん?」
セシル「(微笑んで)一緒にいてくれて、です」
エリク「馬鹿。それは俺の台詞だ」
セシル「神帝国に着いても……」
エリク「ん?」
セシル「一緒に……側にいてくれますか?」
エリク「そう、約束しただろ」
セシル「はい」

  その時、後ろから走ってくる音。

エリク「遅いぞ、レオ……」
ジョルジュ「どうやら、まだ、運は俺に向いてるようだな」
エリク「お前は……」
セシル「……どうして? レオンは? レオンはどうしたんです!」
ジョルジュ「聞きたいか?」
エリク「セシル。俺から離れてろ」
セシル「え?」
ジョルジュ「もうすぐ部下がやってくる。貴様らの負けだ。大人しく投降するんだな」
エリク「(剣を抜いて)やってみないとわからんさ」
ジョルジュ「(ため息)騎士というのは、死にたがりの集団なのか?」
エリク「うおお!」

  エリクとジョルジュが剣を交える。
  そして、お互いの胸に剣が刺さる。

ジョルジュ「ぐぅ……俺としたことが……相打ちとは……」
エリク「くっ……」
セシル「エリク!」
エリク「(息も絶え絶えで)行け」
セシル「え?」
エリク「国境は……すぐ……そこだ」
セシル「嫌です! 約束したはずです。ずっと一緒って」
エリク「敵が来る……。行け」
セシル「ダメです。最後まで着いてきてもらいます」
エリク「俺やレオンを……無駄死にさせたいのか……」
セシル「いや……いや……エリク」
エリク「国を……復興させるんだ。俺たちが……出会い……育った……あの王国を」
セシル「お願いです。死なないでください」
エリク「頼んだぞ……。俺は……ずっと見守って……る…から……」
セシル「エリク! エリーーク!」

セシル(N)「エリクが死んでから五年後。私は神帝王国の第二王子の后になりました。アルベール王国からの難民を受け入れることとなり、少しずつ復興の道を進んでいます。でも私の戦いはまだまだ終わりません。いつの日か、レオンとエリクと三人で過ごした、あの場所を取り返すまで……」

終わり