【シナリオブログ】龍は左手でサイを振る⑥

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〇 同
  凛と龍鬼が向かい合っている。
  二人の目の前には盆茣蓙(ぼんござ)があり、その上にサイコロとツボが乗っている。
龍鬼「では始めよう。ツボは好きなのを使っていい」
凛「私はこれで」
  新兵衛が使っていた普通のツボを持ち上げる凛。
新兵衛「(心配そうに)凛さん……」
凛「黙って見とけっての」
龍鬼「では、俺から……」
  龍鬼がツボを振る。
  変則的な金属音が響く。
龍鬼「半か丁か?」
凛「グイチの丁」
龍鬼「……なに?」
  ツボをあげる龍鬼。
  サイコロの目は『五』と『一』。
龍鬼「ば、馬鹿な! なぜわかる!」
凛「(ため息)馬鹿はテメェだ。さっきの勝負と今で、五回もそのツボでの音を聞かされたんだぜ。嫌でも分かるさ」
龍鬼「(愕然として)そんなはずは……この俺でさえ読めないのに……」
凛「次は私の番だな」
  ツボとサイコロを掴む凛。
浩蔵「ちょ、ちょっと待った!」
凛「あん?」
浩蔵「不公平だ。この勝負、待て」
凛「はぁ?」
浩蔵「こっちの手を見た、あんたが有利過ぎる、そ、それに賭け金も、つ、釣り合わない。こっちが不利だ」
凛「(呆れて)賭け金はすでに合意したはずだろ。……まあ、いいや。どうしたいんだ?」
浩蔵「この一回で勝負を決める。引き分けでも、こっちの勝ちとする」
町人「ふざけんな! そんな条件飲めるか!」
浩蔵「黙れ! 私が胴元だ! それで気に食わないなら、この勝負自体、無しだ。この小僧の右腕を切り落とす!」
凛「つまり、私が振って、こいつが当てられたら、そっちの勝ち。当てられなかったら私の勝ち……ってことだな?」
浩蔵「ああ、そうだ」
凛「その条件を飲めば、勝負は続行だよな?」
浩蔵「あ、ああ……」
凛「いいぜ。受けた」
新兵衛「ちょっと、凛さん!」
凛「いいから、黙って見とけって言っただろ」
龍鬼「ふ、ふん。馬鹿め。お前はそのツボを使うって言ったんだ。今更変えられんぞ」
凛「分かってるって。じゃあ、いくぜ」
  凛がサイコロをフワと放る。
  そして、素早く包み込むようにツボでサイコロを囲う。
  そして、そのままツボを畳の上に置く。
凛「半か丁か?」
龍鬼「……なるほど、無音か」
新兵衛「え?」
龍鬼「私が音に特化していると踏んで、一切音を出さないようにして振り、サイコロの目を読ませない。そういうことだな?」
凛「(ニッと笑う)」
龍鬼「(ニタリと笑う)この龍鬼。音だけで、この世界をのし上がったと思うのか? 良いんだよ。目も……な」
新兵衛「……(息を飲む)」
龍鬼「確かに音を出さなければ、サイコロがどう弾けたかは分からない。だが、逆に、最初に振る時のサイの目さえ見ていれば、そのままの目だということだ。こんなに簡単なことはない」
新兵衛「そ、そんな……」
浩蔵「いいぞ、龍鬼」
龍鬼「ちゃんと見ていたぞ。……サブロクの半だ」
凛「伝説のツボ振り師、龍鬼は右手の甲に龍の刺青があるのは有名だが、手の平にも刺青があるっていうのを知ってるか?」
龍鬼「……なに?」
凛「おやぁ? その顔だと、知らないようだな。それはまずいんじゃねーか? 龍鬼の兄ちゃん?」
龍鬼「……」
凛「龍鬼の手のひらには珠の刺青が入っているんだ。不思議な力が宿った、珠の刺青が」
龍鬼「……」
凛「あんたの手のひらを見せてみろよ。そんな刺青あるか?」
龍鬼「何が言いたい?」
凛「いやいや。別に。あんたが偽物だってバレたらヤバイんじゃないかって思ってさ」
龍鬼「……」
凛「今、降参すれば、許してやるぜ?」
龍鬼「……ふふ。はは。あっはっは。これはこれは、なるほど、随分と肝が座っているな。脅しをかけて、負けをひっくり返そうというのだな? まあ、悪くはない戦法だ」
凛「……」
龍鬼「が、それは俺が偽物だった時にしか通じない方法だ。確かに、俺の手のひらには、そんな刺青はない」
  龍鬼が手のひらを見せる。
龍鬼「だが、そもそも刺青の話が嘘だ。なぜなら、俺は本物の龍鬼だからだ」
凛「そうかい。せっかくの好意だったのにな。残念だ」
龍鬼「いいからツボをあげろ」
凛「サブロクの半……だったな」
龍鬼「早くしろ!」
  凛がツボをあげる。
  サイコロの目は『四』と『六』。
凛「シロクの丁だな」
  龍鬼が目を見開く。
龍鬼「ば、馬鹿な! そ、そんなはずは」
  場がザワザワと騒がしくなる。
浩蔵「い、イカサマだ! イカサマに決まっている。その右手の包帯の中にサイコロでも隠し持っているのだろ!」
龍鬼「そ、そうだ! 貴様、イカサマだな」
凛「やれやれ。そんなシケたイカサマなんかするかよ」
浩蔵「いいから右手の包帯を取れ!」
凛「はいはい……」
  シュルっと包帯を取る凛。
  しかし、何も出てこない。
龍鬼「そ、そんな……なにも無いなんて」
  凛の手の甲には龍の刺青が彫ってある。
龍鬼「え?」
浩蔵「そ、その刺青……」
凛「あと、珠の刺青ってのは、これだ」
  凛が手のひらを見せるとそこには、珠の刺青が彫ってある。
凛「な? あるだろ?」
龍鬼「な……。で、ではお前が」
凛「んー、龍鬼ってのは、『鬼』って字を当ててるだろ? けど、本当は『姫』って字なんだぜ。……まあ、どうでもいいけどな」
龍鬼「(目を見開いて)龍鬼は振った後のサイの目も自在に変えることが出来る……」
凛「この勝負、私の勝ちでいいんだよな?」
浩蔵「え? あ……」
凛「さてと、次の勝負にいくか」
浩蔵「つ、次だと?」
凛「賭けるものはそのまま。さらに今取り戻した新兵衛の右腕と賭場を上乗せする」
浩蔵「その賭け金に見合う金を持ってない」
凛「じゃあ、しゃーねーな。(ニッと笑って)あんたの右腕でいいや」
浩蔵「いっ!」
凛「さ、続けようぜ。相手は引き続き、あんたでいいのか?」
龍鬼「ひっ! お、俺はもう降りる!」
  龍鬼が逃げ去っていく。
浩蔵「あっ! 貴様!」
凛「あれ? 代理人がいなくなったぜ。なら、あんた自身がやるしかねーな」
浩蔵「勘弁してくれ!」
  浩蔵も逃げていく。
凛「……あー。くそ、儲け損なった」
新兵衛「凛さん……あなたが」
凛「(苦笑いで)ま、そーいうこった」

〇 町外れ
  凛と新兵衛が立っている。
  凛は旅支度を整えている状態。
新兵衛「凛さん、本当にありがとうございました」
凛「貸しだ。いつか取立てにくる」
新兵衛「いつでも。お待ちしてます」
凛「ん、じゃあな」
新兵衛「あ、そうだ」
凛「あん?」
新兵衛「……教えてくれませんか? あの最後の賭けの時、サイコロの目をどうやって変えたかを?」
凛「ああ。あれか。これだ」
  凛が懐から細くて見えにくい糸を出す。
新兵衛「糸?」
凛「この糸を左手の小指に結んでおく。で、逆の先端の方を舐める」
  凛が糸をペロっと舐める。
凛「これで、サイコロにくっつく。それを剥がれないようにツボを振る」

賭場(回想)
凛と龍鬼の賭場対決の場面。
サイコロには糸がついていて、取れないように優しくツボを振る凛。
新兵衛(N)「それじゃ、あれは無音にするためじゃなく……」
凛(N)「そう。糸がサイから取れないようにするためだ。で、素早く左手を引けば……」
  凛が左手をツボから離す。

同・ツボの中
  サイコロが、糸に引っ張られて転がる。
  糸はそのまま引っ張られて、ツボの外に。
凛(N)「サイコロが転がり、糸も回収できるってわけだ」

〇 町外れ
新兵衛「転がった時に音がしますよね? あの人が、それを聞き逃すとは……」
凛「だから、あいつを動揺させて転がる音を紛らわした」
新兵衛「あっ! 刺青の話しをした時ですね」
凛「(ニっと笑う)」
新兵衛「でも、あの時、イカサマだって言われて調べられましたよね? どうして糸が見つからなかったんですか?」
凛「糸は左手についてるんだぞ? あの時、全員右手しか見てなかっただろ」
新兵衛「そういえば……」
凛「賭博師は種明かしをしないもんだが、私はもう賭博師じゃねえからな」
新兵衛「一座のみんな、呼び戻せるといいですね」
凛「ああ。じゃ、今度こそ行くな」
新兵衛「はい」
凛「……いいか? お前の賭博道、忘れるなよ。もし、お前が賭博に溺れ、道を踏み外したら、今度は私がお前をつぶしにいくからな」
新兵衛「はい!」
凛「(ニコっと微笑んで)じゃあな」
  凛が歩き出す。
  深々と頭を下げる新兵衛。

終わり

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