【シナリオ長編】病人パパヒーロー!足立一真④

○  警察署・刑事課
一真が大和田の机を両手で叩く。
一真「どうして、俺が謹慎なんですか!」
大和田「どうしても、こうしてもないだろ」
一真「俺は仕事をしただけです!」
大和田「あのなぁ。痴漢や万引きは、うちの課の仕事じゃないだろ」
一真「警察の仕事です。課なんて関係ありませんよ」
大和田「あるんだよ! それに相手に大けがさせやがって」
一真「相手は犯罪者ですよ! 少しくらい痛い目にあった方がいいんです!」
大和田「なあ、一真。お前、どうしちまったんだ? なんだって、急にやる気を出してるんだ? 表彰されたのが嬉しいのはわかるけどよぉ」
一真「やる気を出すことに何の問題があるんですか!?」
大和田「いや、節度ってもんがな……」
一真「もういいです!」
大和田に背を向けて、歩いていく一真。

○  通り
瓶の牛乳を飲みながら歩いている一真。
ふと、電機屋のディスプレイに並んでいるテレビの画面が目につく。
テレビには『ヒーロー、またも犯人逮捕』とテロップが書かれている。
そのテロップの後ろでは、街の人たちが笑顔でコメントをしている。
一真「……」
一真が空き瓶を握り締めると、粉々に割れる。

○  警察署署内
『押収品保管室』というプレートが付いたドアが開いている。

○  同・押収品保管室
一真が棚から、日野が被っていたマスクを手に取り、部屋を出て行く。

○  空地(夜)
暴走族が二十人ほどうめき声を上げながら倒れている。
その中心には、日野が被っていたものと似たマスクを被った男が立っている。
日野のマスクを被った一真が現れる。
マスクの男1「……何者だ?」
一真「真のヒーローだ」
マスクの男1「ほざけ!」
マスクの男1が手の平から炎を出す。
一真がそれを避けて、マスクの男1
の顔面を殴る。

○  横断歩道
赤信号で、女の子(6)がよそ見をしながら渡ってくる。
そこのトラックがクラクションを鳴らしながら突っ込んでくる。
女の子「きゃー!」
その時、突然、マスクの男2が現れ、女の子の手を握る。
その瞬間、二人の姿が消える。
クラクションを鳴らしながら走り抜けるトラック。
信号を渡った先に、マスクの男2と女の子が立っている。
マスクの男2「大丈夫かい?」
女の子「うん。ありがとう」
笑顔で手を振って走っていく女の子。
その後姿を見送るマスクの男2の視界に、マスクをした一真が現れる。

○  警察署・刑事課
一真が歩いてくる。
一真「おはようございます」
大和田「おお、一真。やっと謹慎解けたか。早速で悪いが、担当してほしい事件がある」
一真「(にこりとして)事件、溜まってるんですか?」
大和田「最近、めっきり、ヒーローを名乗る奴が現れなくなってな。事件が山積みだ」
一真「いいじゃないですか! 事件は警察が解決するべきなんですよ!」

○  オフィス街
一真が聞き込みをしている。
その場所からは多条大学病院が見える。

○  商店街
一真が瓶の牛乳を飲んでいる。
一真「(飲み干して)ふう」
ふと、視界に詩歩が聞き込みをしているが見える。
牛乳瓶をごみ箱に捨て、詩歩の元へ歩く。
一真「探偵ごっごか?」
詩歩「……」
詩歩が一真を無視して、歩き出す。
一真が詩歩の腕を掴む。
一真「迷惑なんだよ。素人が警察の真似事するのがさ」
詩歩「……離して」
一真「そんなにヒーローを気取りたいのか?」
詩歩「くだらない」
一真「なに!?」
詩歩「私が調査することで、警察が何か困るということはないと思う」
一真「目障りだ! 目の前をウロウロされるとな」
詩歩「子供のような論理。ヒーローを気取りたいのは、あなたの方なんじゃない?」
一真「なんだと!」
詩歩「警察はもっと利用するべき。私や、巷で有名な、あのヒーローって人たちを」
一真「犯人を捕まえるのは警察の仕事だ」
詩歩「私たちを利用することで、逮捕率が上がるのであれば、迷う必要はない」
一真「そういうことを言ってるんじゃない! 素人が首を突っ込むなと言ってるんだ」
詩歩「なぜ?」
一真「な、なぜってそりゃ……」
詩歩「私はただ、犯人を……犯罪者を一人でも多く減らしたいだけ。犯罪を犯したのに、捕まらずにのうのうと生活している犯罪者を」
一真「……」
詩歩「警察のメンツなんていうくだらないもののせいで、私たち一般人が犠牲にされるのが許せない」
一真「……君は」
その時、一真の携帯が鳴る。
詩歩に背を向け、電話に出る。
千佳の声「あなた! 雄一が! 雄一が……」

○  足立家
リビングに複数の警察官が待機している。
不安そうな顔で、椅子に座っている千佳
そこに、一真が入ってくる。
千佳「あなた!」
一真「雄一が誘拐って、どういうことなんだ?」

○  同・寝室(千佳の回想)
雄一がおでこに冷えピタを貼って、寝ている。
その様子を心配そうに見ている千佳。
千佳の声「今日、雄一が風邪だから、幼稚園を休ませたでしょ?」
雄一が目を開く。
千佳の声「それでね、雄一がチーズケーキを食べたいって言うから……」

○  同・外観
千佳が玄関のカギを閉めている。
千佳の声「それで、買いに十五分くらい出たのよ」
回想終わり。

○  同・リビング
千佳「帰ってみたら、雄一がいなくて……。ベッドの上に、これがあったの」
千佳が一真に一枚の紙を渡す。
紙にはパソコンで書いたであろう文字で『子供は預かった。すぐに旦那に知らせろ』と書いてある。
一真「どうやって、家に侵入してきたんだ?」
大和田が歩み寄ってくる。
大和田「家の中を調べさせてもらったが、侵入した形跡は全くない。恐らく、玄関から入って、玄関から出たんだろうな」
一真「玄関のカギをこじ開けた形跡は?」
大和田「それもない」
千佳「私、家を出るとき、カギはかけたわ。それは覚えてる」
一真「帰ってきたとき、カギは?」
千佳「……それが、思い出せないの。開いてか、閉まってたか……」
一真「無理しなくていい。動揺するのは仕方ない」
千佳「どうしよう! 雄一が! 雄一が!」
一真「落ち着いて、千佳。少し、寝室で休んだ方がいい」
千佳「でも!」
一真「大丈夫! 俺が絶対に雄一は助け出すから」
千佳「……」
千佳が頷いて、寝室へと向かう。
大和田「一番可能性が高いのは、訪問者を装って内側から鍵を開けさせた……だな」
一真「雄一は意外と人見知りをするんです。宅配の人でも、出ないくらいです」
大和田「ふむ。もう一つわからないのは、この置手紙だ」
大和田が、一真の持つ『子供は預かった。すぐに旦那に知らせろ』という紙を指差す。
大和田「普通は、誰にも知らせるなと書くはずだが、わざわざ、お前に知らせろってことは……」
一真「俺に恨みを持った人間……」
大和田「心当たりは?」
一真「……(小声で)俺に恨みを持っていて、家の中から雄一を浚うことができる奴」
一真がハッと目を大きくする。
大和田「なんだ? 心当たりあるのか?」
一真「ああ、いえ。……ちょっと、署に戻っります。確認したい資料がありまして」
大和田「俺もついて行く」
一真「大丈夫ですよ。本当に資料を見に戻るだけですから」
大和田「……一人で暴走するのは許さんぞ」
一真「はい。わかってます」

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