【シナリオブログ】蒼天の星のように②

8 直江の屋敷・廊下
直江が苛立った様子で、ドスドス歩く。
直江「くそっ、忌々しい今井め」
立ち止まり、襖を開いて部屋へ入る。

9 同・部屋内
赤川が青ざめた顔で平伏している。
そこへ直江が入って来る。
直江が、赤川の前にドカリと座る。
直江「遅かったな。赤川。して、中むらからのあがりは?」
赤川「(震えながら)……こ、こちらに」
直江「ふむ(受け取って)……で? 次の密輸の件はどうなっておる?」
赤川「……そ、それが」

10 同
直江がキセルに火を付け、ふかし始める。
直江「財布ごとスられただと?」
赤川「も、申し訳ありません。犯人は、すぐに見つけてみせます!」
直江がふーっと、煙を吐く。
直江「腹を切れ」
赤川「!」
直江「と、まあ、そう言いたいところだが……お前に、一つ機会を与えよう」
赤川「そ、それは……?」
直江「今井の弱みを握って来い」
赤川「は?」
直江「奴は阿片に気づいている。ワシが関与してることも、な。まだ、中むらとの関係は気づいてないだろうが、時間の問題だ」
赤川「し、しかしそれは……」
直江「できないなら、腹を切れ。罪状は、そうだな……。ワシに隠れて、中むらと共に、阿片を売っていたというのはどうだ?」
赤川「……そんな」
直江「恨むならスリを恨むんだな。……ふむ、スリか……。まてよ、良い案が浮かんだぞ」
赤川「(すがるように)なんでしょうか?」
直江「とにかく、お前は、早くそのスリを捕まえて来い。(赤川の肩を叩いて)急げよ」
笑って、部屋を出ていく直江。
赤川「……(思いつめて)」

11 夜空
月が明るく光っている。

12 赤川の屋敷・門(夜)
門は固く閉じられ、壁には『赤川家』と書かれた表札。

13 同・敷地内
立派な屋敷。
ふくろうの鳴き声が響く。
屋敷内の明かりは消えている。
塀をよじ登って、敷地内へ入る茂吉。
茂吉「へっ! ちょろいもんだぜ。……にしても、でけえ屋敷だな」
辺りを見渡しながら歩く茂吉。
茂吉「おっ! あったあった」
蔵を見つけ、近づいていく。

14 同・蔵内
扉を開けて中に入って来る茂吉。
蔵内を見渡すと、木箱がたくさん積まれている。
茂吉「どれどれ、と……」
駆け寄って木箱を開く。
中には小判がぎっしりと詰まっている。
茂吉「うわー、すっげぇ」
その時、後ろでバンと扉が開く音。
茂吉「!」
振り向くと、そこに赤川の家来が立っている。
赤川の家来「いたぞ! こっちだ!」
ぞろぞろと家来たちが集まってくる。
茂吉「げっ! な、なんで……」
赤川の家来「赤川様、こちらです」
赤川が歩いてきて、倉内に入って来る。
赤川「ようやく、しっぽを出したな」
茂吉「知ってたのか? 俺が忍び込むって」
赤川「馬鹿か、お前は。あれだけ屋敷の周りをウロウロしておいて、気づかんとでも思ったのか? 入口の番を減らした途端、ノコノコと入って来おって」
茂吉「くっ、くそっ!」
赤川「あいつは、どこだ? 仲間なんだろ?」
茂吉「うう……兄貴……」

15 長屋・京四郎の部屋
京志郎が二人の娘をはべらせている。
娘1「やだー、京さんったら!」
京四郎「いいじゃねーかよ」
扉が開かれ、二人の同心が入って来る。
同心の男1「お前が京四郎だな?」
京四郎「あー、すまねえな。今、忙しいんだ。後から来てくれや」
同心の男2が部屋内のドカドカと入って来る。
そして、同心の男2が京四郎を殴る。
娘2「(京四郎から離れて)きゃー」
同心の男2「ふざけた野郎だ」
京四郎「痛ってぇ! か弱い市民を殴んなよ」
同心の男1「お仲間が吐いたぞ」
京四郎「んだよ。あいつしくじったのか?」
同心の男1「来い」
京四郎「あー、はい、はい。わかりました。行きますよ。行けばいーんだろ」
同心の男たちに連れて行かれる京四郎。
娘1「京さん……」
娘たちが心配そうに見ている。

16 直江の屋敷・地下牢
縛られた京四郎が、同心の男に連れられ、歩いている。
同心の男「(立ち止まって)ここだ」
木の格子の向こうに、顔を腫らした茂吉と喜助(25)、街娘風のお銀(16)、坊主風の条庵(43)の三人がいる。
同心の男が格子を開けて、京四郎の背中を押して、中に入れる。
同心の男「入れ」
京四郎「痛ぇ! もう少し、優しくできねえのかよ」
茂吉「兄貴! 大丈夫っすか?」
京四郎「……茂吉」
喜助「(茂吉を睨んで)垂れ込みやがって……」
条庵「(心底楽しそうに)ぶあっはっは。スリで口が軽いとはなぁ」
茂吉「……面目ねぇっす」
喜助「てめえ、死んで詫びろ!(拳を上げて)」
茂吉「ひっ!」
お銀「止めなよ。みっともない」
条庵「確かに、今更騒いでも、仕方あるまい」
男「けっ!(拳を下ろす)」
京四郎「(お銀を見て)ふーん……」
お銀「……なによ? ジロジロ見て」
京四郎「いや、あと五年もすりゃ、良い女になるなってな」
お銀「はあ? あんた、バカじゃないの? こんな状況で何言ってんのよ」
キセルをくわえた直江と、赤川が地下牢に入ってくる。
直江が五人の顔をざっと見る。
直江「これで全員か?」
同心の男が紙を見てから、顔を上げる。
ふてぶてしい顔をしている喜助。
同心の男「喜助」
泣きそうな顔の茂助。
同心の男「茂助」
キッと睨むお銀。
同心の男「お銀」
にこにこと笑っている条庵。
同心の男「条庵」
横を向いている京四郎。
同心の男「……そして、京四郎。いずれも、この辺りで名の通ったスリのようです」
直江「ふむ……」
喜助「おい! 俺たちをどうするつもりだ」
直江がキセルをふかしながら、京四郎を見る。
直江「貴様か。赤川の財布をスったのは?」
京四郎「あんたが、ぼんくらの親玉か。いかにも三下って面だな」
直江「財布の中に、紙が入ってなかったか?」
京四郎「ああ、変な地図のことか? ありゃ、鼻かんで捨てちまったぜ」
赤川「貴様っ!」
直江「なるほど、肝も据わっている。頼もしいかぎりだ(フーと煙を吐く)」
京四郎「(咳き込んで)おい、その趣味悪いキセル、ふかすんじゃ……」
直江のキセルには、家紋が彫ってある。
京四郎「(家紋を見て、目を見開く)……!」
×    ×    ×
街の往来。
菊が飴を持って走っている。
立ち止まって振り向き、微笑む。
菊「ねえ、お兄ちゃん。早く、早く」
再び走り出す菊。
菊が、歩いている直江にぶつかる。
菊「きゃっ!(尻餅をつく)……あ」
直江「(キセルをふかして)貴様。無礼だぞ」
キセルには家紋が彫られている。
×   ×    ×
17 直江の屋敷・地下牢
京四郎「……お前は、あの時の(怒り)」
お銀「(心配そうに)なに? どうしたの?」
京四郎「(ハッとして)……い、いや」
直江「さて、貴様らに集まってもらったのは他でもない。一つ頼みごとをしたい」
喜助「けっ、ふざけんな! 誰が……」
直江「(微笑んで)受けるかどうかは自由だ。だが、断わった時点で死罪とさせてもらう」
お銀「え!」
条庵「……ほう」
京四郎「……ふん(そっぽを向いて)」
茂吉「ちょっと、待ってくだせぇ。スリで死罪なんて、聞いたことねぇ」
喜助「俺たちは、こいつの垂れ込みで連れて来られたんだろ。証拠がないはずだ」
直江「(呆れて)証拠など、どうとでもなる。貴様らみたいなクズが死んだところで、誰も文句は言うまい。いや、逆に感謝されるんじゃないか?」
喜助「なんだとっ!」
直江「(茂吉を見て)まあ、恨むなら、そこの男を恨むんだな」
京四郎「……(興味がない)」
直江「貴様らに残されてるのは、二つの道しかない。頼みを聞くか、断わって死ぬかだ。……いや、失敗したら死ぬの三つか」
お銀「……頼みごとって何よ」
直江「今井という奴を知っているか?」
条庵「……番頭のだな?」
お銀「番頭?」
条庵「藩の警備番方で一番偉い奴のことだ」
直江「その今井が何やら、不正をしているという噂がある。その証拠を掴んでくるのだ」
条庵「……そりゃ、番頭の仕事じゃないか」
直江「その番頭が不正をしているのだ。自分の立場を利用してな」
お銀「……で? どんな不正なのよ?」
直江「それを調べるのが、貴様たちの仕事だ」
お銀「はあ?」
条庵「ぶあっはっは。要するに何も分かっとらんということか」
直江「(ムッとして)期限は三十日だ。成功すれば無罪放免。失敗すれば……わかるな?」
お銀「ちょっと待ってよ。なによそれ……」
直江「さて、どうする?」
お銀「(納得いかないが)……わかったわよ」
条庵「まあ、仕方ないわな」
直江「他の者は?」
喜助「しゃあねえだろ」
茂吉「殺されるよりは、マシっす」
直江「(京四郎に)貴様は?」
京四郎「……断わる」
直江「では、ここで死ぬか?」
直江が刀を抜き、京四郎の首に当てる。
京四郎「(挑発するように)……斬れよ」
直江「……ふん。興が逸れた」
直江が刀を納めて、去っていく。
京四郎「……(直江の背を見て)」

18 長屋外観
今にも崩れ落ちそうな古い長屋。

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