【長編シナリオ】空の向こう側⑤

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○  同
机の上の時計は、十三時を差している。
ソファーの上で、祥が眠っている。
柊が恐る恐る、祥に触れる。
フラッシュバック。

○  柊の部屋の前(祥の記憶)
外では激しい雨が降っている。
柊の部屋の前に祥が立っている。
隼人の声「父さん! どうしよう、俺……」
祥がドアに耳を当てる。
隼人の声「うん……。わかった。すぐに用意するよ」
祥がドアから離れる。
同時にドアが開き、隼人が慌てた様子で雨の中を走っていく。
記憶の回想終わり。

○  柊の部屋
寝ている祥から離れる柊。
柊「(目を見開いて)……隼人?」

○  駅・改札付近
祥と柊が並んで歩いている。
改札の前で立ち止まる。
祥「すみません。そこまで疲れているとは思っていませんでした」
柊「ソファーで寝て、体、痛くないですか?」
祥「(苦笑して)多少」
柊「では、あの件、よろしくお願いします」
祥「御厨の病院の場所でしたね。……が、あまり期待はしない方がいいですよ。会っても、貰えませんでしたから」
柊「……少しでも可能性があるなら、それにすがりたいんです」
祥「……帰ったら、すぐにメールで住所を送りますよ」
祥が改札を通って、歩いていく。
柊「(祥の後姿を睨んで)……」

○  多条大学病院・医療相談室
隼人と柊が向かい合わせで座っている。
隼人「悪いな。御厨の居場所だけど、まだ見つからねえんだ」
柊「そっか。仕方ないよ。でも、諦めないで探し続けて欲しいんだ」
隼人「おう。もちろんだ! ……で? お前の方は進展があったんだって?」
柊「菱川なんだけど、事件の日に実乃里ちゃんと会ってる。裏が取れたよ」
隼人「マジか! すげえな! ……ってことは、菱川が犯人で決まりか?」
柊「十中八九。だけど、証拠がないんだ。僕はそれを集めようと思ってる」
隼人「俺にも手伝えることがあったら、言ってくれよ」
隼人が席を立ち、ドアの方へ歩き出す。
柊「あ、隼人」
隼人「(立ち止まって)ん?」
柊「……あのさ、実乃里ちゃんの検案書、見せてもらうことってできないかな?」
隼人「さすがに外部の人間に見せることは出来ねえ。……何か、気になることでもあるのか?」
柊「前に隼人、改ざんされた痕があるって言ってたから、そこから何かわからないかなって思って」
隼人「俺が念入りに調べておくよ」
隼人が部屋を出て行く。
柊「(ドアをジッと睨んで)……」

○  光星病院・外観
病院の外壁に『光星病院』と書かれている。
それを見上げている柊。
柊はマスクをしていて、ギターケースを背負っている。

○  同・院長室
椅子に御厨が座っている。
電話が鳴り、取る。
看護師の声「院長。五番に外線が入ってます」
御厨が五番のボタンを押す。
御厨「御厨ですが。……え?」
御厨の顔が青ざめる。

○  同・裏口
裏口から出てくる御厨。
慌てた様子で辺りを見渡している。
周りには人はいない。
後ろからマスクをした柊がバットで頭を殴る。
御厨「うっ!」
倒れて気を失う御厨。
御厨に触れる柊。
フラッシュバック。

○  多条大学病院・院内(御厨の記憶)
御厨と天羽清史郎(53)が向かい合っている。
御厨「絞殺で間違いありませんね。ただ、奇妙なのが絞めた跡が二つあるところです。ですが、爪に皮膚が残っていたので、犯人の特定は直ぐでしょう」
清史郎「御厨君。警察には、自殺……と報告してくれんかね」
御厨「院長? どういうことです? 実乃里ちゃんを……娘を殺した犯人の手掛かりを消せと言うんですか?」
清史郎「頼む。その分の見返りはする。黙って、言う通りにしてくれ」
清史郎が頭を下げる。
御厨「……」
回想終わり。

○  光星病院・裏口
倒れている御厨から離れる柊。
柊「(冷たい目で御厨を見下ろして)……」
柊が立ち去っていく。

○  倉庫・外観(夜)
倉庫のドアが開かれていて、そこから隼人と美鈴が入っていく。

○  同・倉庫内
隼人と美鈴が倉庫に入ると同時に、ドアが閉まる。
美鈴「え?」
パッと電気が付く。ドアを閉めたのは柊で、ドアには南京錠がされている。
隼人「……柊、どういうことだ?」
柊「実乃里ちゃんを殺した奴がわかったんだ」
祥の声「それは、興味深い話ですね」
物陰から祥が現れる。
隼人「やっぱり、こいつの仕業か! 証拠見つけたんだな? 警察に突き出すぞ!」
柊「相良さん、僕たちが北海道に行くことを隼人に話したよね?」
相良「え? あ、うん。だって、隼人に何か隠してるだろって、問い詰められたから」
柊「いや、事件の日のことだよ」
隼人「お、おいおい。お前、何言ってるんだよ? 俺が聞いたのはこの前……」
柊「実乃里ちゃんの情報を、菱川さんに売っていたというのなら、『あの言葉』は変だ」
フラッシュバック。

○  部屋(相良の記憶)
相良が誰かの胸元に顔を埋めている。
相良「もういいじゃん! 実乃里、北海道行くんだよ! (涙声で)お願い、忘れて……。私を見て……」

○  倉庫内
相良「ちょっと、何を言ってるのよ」
祥「私はあなたから、情報を買った覚えはありませんよ」
隼人「柊、まさかお前、美鈴よりこいつのことを信用してる、なんて言わないよな?」
柊「僕が信用するのは記憶だよ」
相良「記憶? 頭、おかしいんじゃないの?」
柊「最初、僕は実乃里ちゃんが北海道行きのことを隼人に内緒にしていたのは、単に止められるから、だと思っていたんだ」
隼人「実乃里は、そういう奴だったろうが」
祥「むしろ逆な印象ですけどね。実乃里さんなら、ちゃんと説得する、もしくは止められても、意志を貫く人だと思いますが?」
隼人「お前に実乃里の何が分かる!」
柊「相良さんには話している。……そこがずっと引っかかっていたんだ。友達には話すのに、どうして家族である隼人には黙っていたのか……」
相良「私は止めないから、言いやすかっただけじゃないの?」
柊「そう。相良さんは実乃里ちゃんが北海道に行くことを止めない。……いや、それどころか喜んで協力したはずだよ」
祥「なぜです?」
柊「相良さんは隼人のことが好きだった。でも、隼人には全く相手にされない。なぜなら、隼人にも、好きな人……愛している人がいたから」
隼人「……」
柊「その人が遠くに行けば、自分の方に振り向いてくれるかもしれない。だから、相良さんは親友よりも隼人を取った」
隼人「おい、柊。友達でも聞き流せねえ冗談ってのがある。……マジで切れるぜ?」
柊「実乃里ちゃんは、随分と慎重に引っ越しの準備を進めていた。隼人にバレるのを恐れるように……」
相良「そんなの全部、あんたの想像でしょ!」
柊「実乃里ちゃんの体には、古い痣の痕が何個かあった……。それに――」
フラッシュバック。

○  柊の部屋(柊の記憶)
実乃里「もう。柊君。また、記憶見たでしょ?」
柊「ごめん。うなされてなかったから……」
回想終わり。

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