【ラジオドラマ短編シナリオ】西田家の受難 留年未遂事件

【ラジオドラマ短編シナリオ】西田家の受難 留年未遂事件

人物表

西田 正志(17) 長男

西田 清 (17) 二男・正志の双子の弟

西田 総士(14) 三男

西田 隆 (5)  末っ子

ミラ   (3)  猫

正志(N)「(その事件が起こるのは必然だった。終わりのない輪廻。ループ。螺旋。なんと言おうと逃れられない運命に変わりはない。だが、今度こそ、その因果を断ち切るため、俺は決死の覚悟でその日を迎えた)」

  正志の部屋に正志、総士、隆、ミラが集まっている。

正志「さて、みんなに俺の部屋に集まってもらったのは、ある作戦についてだ」
隆「わくわく、わくわく」
ミラ「にゃー」
総士「(欠伸して)面倒なのは嫌だかんな」
正志「ふふっ。まあ、そう言うな。見返りは充分するつもりだ」
総士「どうせ、うんまい棒一本とか、チョロリチョコ一個とかだろ?」
正志「……今回は、ル・キュー・ドのデラックス、シュークリームだ」
総士「ま、まじかっ! 兄貴、本気だな」
正志「当然だ。なにしろ、人生がかかっていると言っても、過言じゃないからな」
ミラ「にゃー!」
正志「あ、ミラには煮干やるそ」
総士「……いつもより、しょぼいじゃねーかよ」
隆「ねー! 正志お兄ちゃん! はやく、さくせんー!」
正志「おっと、そうだったな。時間もない。さっそく始めよう。総士。今日は何の日だ?」
総士「あん? うーん……何の日って言われてもな」
正志「質問を変えよう。今日は何月何日だ?」
総士「八月三十一にち……あっ!」
正志「気づいたか」
隆「なつやすみ、さいごのひー!」
正志「そうだ。自由終焉の日。つまり、絶望の前の日だ」
隆「ぼくは、みんなとあえるの、たのしみだよ!」
正志「うんうん。隆は、そのまま真っ直ぐ育つんだぞ」
総士「読めたぞ、兄貴。……俺たちに宿題を手伝わせる気だな?」
正志「いや、その作戦は却下だ。去年、愚作だったと証明されているからな」
隆「ぐさく?」
正志「確かに隆に、二次方程式は少し早いかと懸念してたんだけどな」
総士「普通に無理だろ。足し算だって習ってねーんだから」
正志「さすがに数字を書いてくれると思ったんだよ。まさか、ひらがなと絵しか書かれてないとは想定外だった。いくら俺でも、先生の追及は免れなかった……」
総士「たとえ数字だったとしても、字を見りゃ、バレるだろ」
正志「国語の漢字書き取りも、ミラの肉球の判子では無理だった。これはいけると思ってた分、ダメージはでかかったよ。まあ、女子受けはよかったんだけどな」
総士「……いけると思った理由が知りてーよ」
正志「特に、総士! お前の、自由研究レポートは一番ダメだった!」
総士「は? マジで? 結構、自信あったんだけどな」
正志「なんだよ! 一からわかる、カーブの打ち方って!」
総士「一晩でレポート十枚って急に言われたからな。書けることって言ったら、野球系しかねーよ」
正志「お前の、あのレポートが良すぎたせいで……全校集会で表彰されたんだぞ!」
総士「よかったじゃねーか」
正志「よくない! 表彰の後、ステージの上で、実践させられたんだぞ! こちとら、生まれてからバットなんて、握ったことすらねーのに!」
総士「……それはそれで珍しーな。きょうび、バット握ったことないって」
正志「(咽び泣きながら)地獄だった! あれは、地獄だったんだっ!」
総士「悪かったよ……」
正志「とにかく、あの悪夢を再び、蘇らせるわけにはいかない。先生にも進級をたてに脅迫されているからな」
総士「……思ったより、やべー状態だな、兄貴」
正志「正直、震えるぜ。くそっ! なんで、俺ばっかり、こんな目に合うんだ! 天中殺か何かか!?」
総士「ただの自業自得だろ」
正志「というわけだから、みんな、なにかいい作戦はないか?」
総士「……まさかのノープランかよ。こっちが震えるっての」
正志「まあ、そういうなよ。一人よりも三人の方がいい案が出るさ。ほら、三人寄ればかしましいって言うだろ?」
総士「三人寄れば文殊の知恵だろ。てか、隆も数に入れるっていうのはどうかと思うぞ。兄貴もレベル的に隆と変わらねーけど」
正志「甘いな、総士。ここは隆の自由な発想が必要なんだ」
総士「っていうか、きよ兄ぃに頼んで、宿題見せてもらえばいいんじゃねーの?」
正志「既にやったよ。昨日のうちにさ」
総士「で?」
正志「キレられた」
総士「は?」
正志「奮発して、デラックス、シュークリーム二個で交渉したんだけど、殺されかけた」
総士「なんで?」
正志「ほら、前の事件でさ、あいつ、シュークリームを見るとトラウマで辛さが蘇るようになったみたいなんだよ」
総士「……」
正志「しかも、絶対に見せないって言われたんだよな」
総士「双子でここまで仲が悪いのも珍しいな」
正志「というわけで、どうしたらいいと思う?」
総士「時間を考えたら、やっぱりきよ兄ぃに頼むしかなねーんじゃねーの?」
正志「……うーん」
総士「きよ兄ぃも鬼じゃないんだし、必死に頼めば見せてくれるって。土下座でもなんでもすればさ」
正志「土下座はしたんだよ。けど、正兄ぃの土下座は安い。切腹するなら考えるよ、って言われたんだよなぁ」
総士「きよ兄ぃは鬼だった……」
正志「頼んでダメなら、しょうがない……」
総士「うん、自分でやるしか……」
正志「奪うしかない!」

 隆が小さくドアをノックする
 ドアが開かれ、清が出てくる

清「ん? 隆か。どうしたんだ?」
隆「ねえ、清お兄ちゃん。外に虫とりにいこーよ」
清「今日は猛暑日って話だ。熱中症も心配だし、外には出ない方がいいな」
隆「ええー」
清「そうだ、隆。お菓子買ってあるから、一緒に食べない?」
隆「おかし!」
清「あと、この前言ってた、本も借りてきてあるぞ」
隆「ほんと!?」
清「ああ。だから、今日はお菓子食べながら家でゆっくりしないか?」
隆「うん! するー!」

  隆が清の部屋に入っていく

正志「くそ! あっさりと懐柔するとは。やるな清」
総士「まあ、こうなるとは思ったけどな。で? 次はどうすんの?」
正志「ここはミラに暴れてもらって、清を部屋から出すしかないな。……って、あれ? ミラは?」
総士「さっき、フイッて出て行ったみたいだぞ」
正志「くっ! 煮干じゃダメだったってことか」
総士「いつも、もっといいキャットフード食べてるからな」
正志「しかたない! 総士! バットで清の頭をかち割れ」
総士「兄貴の頭ならいいぜ」
正志「どうする……。部屋に火でも着けるか? いや、ノートまで燃えたらやばいしな」
総士「兄貴の頭のほうがよっぽどヤバイけどな」
正志「……よし。もったいないけど、背に腹は変えられない。シュークリームを使おう」
総士「え? それでダメだったって言ってなかったか?」
正志「まあ、見てろって」

  正志が清の部屋のドアをノックする
  ドアが開き、清が出てくる。

清「(不機嫌そうに)……何の用?」
正志「清。宿題を見せろ」
清「ずいぶん強気だね。嫌だと言ったら?」
正志「後悔することになるぞ」
清「それは正兄ぃのほうだと思うけどね」
正志「清。これを見ろ」
清「……シュークリーム? なんのつもり?」
正志「最後の忠告だ、清。素直に宿題を見せるんだ」
清「絶対に嫌だね。それより早く、それしまってくれない? 見てるだけで口の中が辛くなってきた」
正志「ふふふ。さよならだ、清!」
清「なっ!」

 正志が清に向かってシュークリームを投げる。
 そして、清に顔面にシュークリームがべちゃっと付く

清「う、うわああああああ!」
正志「どうだ、清。見るだけで辛いと感じるんだ。じかに顔に受けた気分はどうだ?」
清「か、辛い! 辛い! 辛い!」

 清が走り出し、階段を下りていく。

正志「ふっ! 勝った……」

  正志の部屋。
  ペラペラとページをめくる音。

正志「さすが清。全部やってあるな。よし、さっそく写す……あれ?」

  ペラペラとページをめくる正志。

正志「なんで? 問題が俺のと全然違うぞ!」

 背後に清が現れる。

清「当たり前だろ。正兄ぃとはクラスが違うんだから」
正志「な、なんだと……。そんなことがあるのか?」
清「ってわけだから、もう必要ないでしょ。返してもらうよ、ノート」
正志「頼む! 清! 宿題やるのを手伝ってくれ!」
清「あそこまでしておいて、よくその台詞が吐けるね。ある意味すごいよ」
正志「この通り! このままじゃ、留年しちまう!」
清「何回か、留年した方がちょうどいいんじゃない? 正兄ぃの学力的に」
正志「総士、隆! 頼む! 手伝ってくれ!」
清「二人とも、手伝わなくていいからね。少しは懲りた方が正兄ぃのためだ」
総士「まあ、そうだな」
隆「正志お兄ちゃん、がんばってね!」
正志「くそーーーー!」

正志(N)「結局、俺は徹夜をして、なんとか答えを埋めるだけ埋めた。もちろん、それは全部間違っていたが、何とか先生を説得して留年だけは免れた。今度からはちゃんと早めに宿題をやっていこうと思う。けど、毎回、同じことを決意しているような気がするけど、きっと気のせいだろう」

終わり