【シナリオ長編】病人パパヒーロー!足立一真⑤
- 2018.09.10
- シナリオ本編
○ 公園(夜)
日野と一真が向かい合って立っている。
二人以外には誰もいない。
日野「急に呼び出して、何の用だ? 言っておくが、取引通り、ヒーロー活動は一切してないぞ」
一真「お前らの仲間に、壁をすり抜ける、もしくは念動力、相手を操ることができる超能力者はいるか?」
日野「なんだよ、藪から棒に……」
一真が詰め寄り、日野の胸元を掴む。
一真「言え!」
日野「い、いないよ! 私の仲間には炎使いと瞬間移動。それに、超聴力、透視能力者くらいだ」
一真「そうか! 瞬間移動の奴だ! それで家の中に入ったんだな!」
日野「無理だよ! 瞬間移動って言っても、物と物の間は通れない!」
一真が日野の胸元から手を放す。
一真「くそっ!」
日野「どうしたんだ? 何か困ってるなら、私たちヒーロー隊が手を貸してもいいぞ」
一真「ふざけるなっ! お前らの手なんか、死んでも借りるか!」
一真が日野に背を向けて歩き出す。
○ 警察署・取調室
滝澤が椅子に座っている。
一真が滝澤の横に立ち、バンと机を叩く。
一真「言え。他に何人の仲間がいる?」
滝澤「……」
一真が滝澤の胸元を掴み上げ、立たせる。
そして、壁に押し付ける。
一真「早く言った方が、身のためだぞ!」
滝澤「……」
一真がポケットから花粉の入った小瓶を取り出して、吸い込む。
大きくくしゃみをした後、滝澤の腕を掴み上げる。
滝澤の腕の骨が軋む。
滝澤「うがあっ! 痛ぇ!」
一真「早く言え! 折るぞ!」
滝澤「俺は雇われただけだ! 他に仲間はいねえっ!」
一真「嘘をつくなっ! お前が使っていた爆弾と同じ物を使ってる奴がいる」
滝澤「本当に知らねえ! 新しく雇っただけだろ! あの爆弾だって、渡されただけで、俺が作ったわけじゃねえ」
一真「誰に雇われた!? 言え!」
その時、大和田が取調室に入ってくる。
大和田「おい! 一真! 何やってる!」
一真と滝澤の間に割って入る大和田。
大和田「嫌な予感がして、戻ったらこれだ」
一真「離してください! こいつの……」
大和田「また謹慎になりたいのか!」
一真「……」
大和田「焦る気持ちはわかる。だが、今、お前が謹慎になってどうする?」
一真「……わかりました」
滝澤から手を放す一真。
○ 通り
道の縁石に座って項垂れている一真。
そこに、マスクをした詩歩がやってくる。
詩歩「恐れと不安。怒りが見える」
一真「……」
詩歩「困っているようであれば、相談に乗るけど。警察と言っても、市民だから」
くしゃみをする詩歩。
一真「俺は警察官だ。お前ら、ヒーローもどきとは違う」
詩歩「呆れた人。こんな時まで、そんなくだらないことを言うなんて……」
一真が立ち上がり、詩歩に詰め寄る。
一真「俺はな! 小さい頃からずっとヒーローに憧れてたんだ! 念願の警官になった! そして、能力も手に入れた! 俺は本当のヒーローになったんだ! ……だから、雄一だって、俺が助けてみせる」
詩歩「……能力?」
一真「とにかく、お前には関係ない」
一真が立ち去っていく。
○ ショッピングセンター
休日で賑わっている。
その中で黒いコートを着ている一真は目立っている。
右手には手さげのバックを持ち、耳には、小さなイヤホンをして歩いている。
イヤホンから大和田の声が聞こえる。
大和田の声「聞こえたなら、左手で鼻を掻け」
一真が左手で鼻を掻く。
大和田の声「いいか? お前は指定の場所に三百万を置くことだけを考えてればいい。間違っても、犯人を捕まえようとかは考えるなよ」
一真「……」
大和田の声「バッグには発信機もついているし、お前の周りも監視している。確保はこっちに任せろ」
一真が下唇を噛む。
大和田の声「コインロッカーは百メートル先にあるパン屋を左に曲がったところだ。指定された時間までは五分ある。焦る必要はないからな」
一真が深呼吸をしながら歩く。
パン屋が見えてくる。
大和田の声「五番のコインロッカーだからな。間違えるなよ」
一真が小さく頷く。
パン屋の目の前を通ろうとしたとき、声を掛けられる。
佐知子「あら、一真さんじゃない」
一真「あ、ああ、芹澤さん」
佐知子「一真さんも買い物? ここのパン屋、美味しいのよね。千佳さんは一緒じゃないのかしら?」
大和田「おい! 長話してる場合か! 早く切り上げろ!」
一真「すいません。芹澤さん、ちょっと用事があるので失礼しま……」
その時、突然、爆発音と大きな揺れを感じる。
大和田の声「なんだ?」
女性の声「きゃーーー!」
逃げ惑う人で回りが混乱し始める。
逃げてくる人の波が一真の前方向から迫ってくる。
その人の波に入っていく一真。
一真「すいません! 通してください!」
懸命に前に進もうとするが、人の波に飲まれうまく進めない。
内ポケットから花粉の入った瓶を取り出して吸おうとするが、人にぶつかり、瓶を落としてしまう。
瓶が割れて、花粉が床に散らばる。
さらにその花粉を逃げる人たちが踏んでいく。
一真「くそっ! どけよ! どいてくれー!」
懸命に人波をかき分ける一真。
○ 足立家・リビング
椅子に座り、茫然としている一真。
その横では千佳が泣き崩れている。
大和田が一真の肩をポンと叩く。
大和田「大丈夫だ。あの爆発は犯人にとっても想定外。絶対に、もう一度時間と場所を指定してくるはずだ」
その時、テーブルの上に置いてある千佳の携帯が鳴る。
慌て、一真がとる。
電話からはボイスチェンジャーで変えられた声が聞こえる。
電話の声「失敗したな」
一真「爆発がなかったら、ちゃんと金は渡せた! もう一度チャンスをくれ!」
電話の声「……明日」
一瞬、ホッとする一真。
電話の声「息子の死体を返してやる」
一真「待て! 待ってくれ!」
プツリと電話が切れる。
一真「うわーーーーー!」
○ 街中
一真が泣きながら、歩いている人にぶつかりながらも走っている。
口元を抑えて、路地裏に入る一真。
吐しゃをし、大きく呼吸を乱している。
ポケットから花粉が入った瓶を取り出して、一気に吸う。
そして、路地裏のコンクリートの塀を拳で叩き割る。
一真「くそっ! 何が警察だ! 何がヒーローだ! こんな能力手に入れたって、息子一人、助けられない!」
何度も、何度も塀を拳で殴って壊す一真。
詩歩の声「物に八つ当たり?」
振り向くと、そこに詩歩が立っている。
詩歩「格好悪っ」
肩をすくめ、背を向けて歩き始める詩歩。
一真「……」
崩れ落ちるように地面に膝をつく一真。
そのまま、両手を着いて土下座する。
一真「頼む! 助けてくれ! 息子の命がかかってるんだ!」
詩歩が振り向く。
詩歩「……」
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