【シナリオ】復讐代行
- 2019.04.16
- 映像系(10分~30分)
〇 病室
意識不明の高藤達也(28)がベッドで寝ている。
その横では心電図から、一定の間隔で音が鳴っている。
そこに高藤樹(26)が花束を持って入ってくる。
樹「よお、兄貴、調子はどうだ?」
達也「……」
樹が花瓶の花を新しいものと入れ替えている。
樹「新しい情報が入ってさ、もう少しで手がかりがつかめそうなんだ」
病室に看護師が入ってくる。
看護師「あの……高藤さん。ちょっといいですか?」
〇 病院・部屋
医師と看護師が並んで座り、テーブルを挟んで、対面に樹が座っている。
樹「……そう、ですか」
医師「ええ。最近、衰弱が酷く、もってあと一か月というところです」
樹「わかりました。最後まで、兄貴のこと、よろしくお願いいたします」
ペコリと頭を下げる樹。
〇 病院・廊下
樹が歩いていると、ポケットの中の携帯が震える。
ポケットから携帯を取り出し、画面を見る。
アプリから連絡が来ていて、それを開くと『誅』の文字が書いてある。
〇 一室
部屋の真ん中にはテーブルがあり、5人ほどの人数が座っているが、部屋の中は暗く、顔までは見えない。
ドアが開き、樹が部屋に入ってくる。
樹「……」
樹は椅子には座らず、壁に寄りかかる。
逆の壁からプロジェクターのスクリーンが降りてくる。
そして、スクリーンに映像が映し出される。
〇 スクリーンの画面
笑顔の今野権蔵(68)が映し出される。
女性の声「今回のターゲットは今野権蔵、68歳。表向きは今野商事の社長になっています。今野商事は金融業者、いわゆる、町金と呼ばれる金貸しです」
政治家と、料亭で食事をしている今野。
女性の声「政治家との強い繋がりもあり、建設業も営んでいます」
次に、今野と暴力団員と握手している画像に切り替わる。
女性の声「また、暴力団とのパイプを持っている為、集金や地上げなども、この組を使っています。そのほか、政治家がもみ消したい事案等をこの暴力団に依頼する、いわば政治家と暴力団の橋渡しをしています」
今野が高級なキャバクラで遊んでいる映像に切り替わる。
女性の声「また、今野は無類の女好きということで有名で、狙った女は必ずものにすると豪語するほどです。用意周到で、家族に借金をさせ、狙った女性を借金のかたに手に入れ、その後風俗などに売るなどいうことも常習的にやっています」
〇 部屋
スクリーンに映し出された画像が消え、再び部屋が暗くなる。
女性の声「今回の依頼者は、妹を今野に奪われた男性です。元々、借金を背負わされていた為、報酬として出せる金額は百万となります。正直、ここまでの大物相手に少なすぎますが、それでもやってもいいという方?」
樹がすっと手を挙げる。
女性の声「それでは、今回は獅子座さんにお願いいたします」
僅かな明かりも消え、部屋が真っ暗になる。
〇 街中
ポケットに手を入れて歩く樹。
樹「……」
樹の後ろから、男の子が走ってきて、樹を追い越す。
そして、振り向きながら、後ろにいる弟に声をかける。
男の子「おい、早く来いよ」
弟「兄ちゃん、待ってー」
二人が、走っていく。
樹「(その二人の背中を見て)……」
〇 街中(回想)
人混みを縫うようにして走る、達也(10)と樹(8)。
達也「(振り向いて)ほら、樹、早く来いって」
樹「兄ちゃん、待ってぇ!」
〇 公園
樹が三人の男の子に囲まれ、殴られている。
男の子1「ちょっと、女の子にモテるからって調子に乗るなよ!」
樹が殴られて、倒れる。
その顔を男の子2が踏みつける。
達也の声「てめえら、何やってんだ!」
達也が走ってきて、男の子2に殴りかかる。
時間経過。
倒れている樹に、手を伸ばす達也。
達也「大丈夫か、樹」
樹「うん、ありがとう兄ちゃん」
達也の手を握って起き上がる樹。
樹「いつも、ごめんね」
達也「何言ってんだよ。たった二人だけの家族だろ? 助け合うのは当然だって」
〇 貸倉庫裏(雨)
達也(25)が腹から血を流して倒れている。
そこに樹(23)がやってくる。
樹が達也を抱きかかえる。
樹「兄貴、しっかりしろ! 兄貴―!」
回想終わり
〇 街中
樹が歩いていると、前から今野が歩いてくる。
そして、すれ違い様に樹は今野の後ろの首筋を人差し指で突く。
数メートル歩くと、今野が突然倒れる。
気にせず、歩き続ける樹。
〇 ビル・廊下
携帯を見ながら歩く、樹。
携帯には『今野氏、心臓発作で死去』という記事が出ている。
樹が携帯をポケットに入れ、立ち止まり、ドアを開いて中に入る。
〇 同・部屋
部屋の中は薄暗い。
そして、イスには誰も座っていない。
突如、壁に掛かっているスクリーンに、映像が映し出される。
映像は今野と暴力団が握手している画像。
女性の声「今回、私たちの調査で、今野と繋がっていた、村田組が依頼人の兄の殺害を命じたことを突き止めました」
樹「……」
女性の声「実行犯はこの三人」
スクリーンに三人の写真が映し出される。
女性の声「右から高下恭弥、三島隆、今川良太」
そして、違う男二人が映し出される。
女性の声「指示したのはこの二人。下田耕介と新田将司です」
樹「……」
女性の声「後程、詳しい資料の方はデータでお送りします。以上で、調査報告は終わりになります」
樹「調査、ありがとうございました。……次は代行の依頼をさせてください」
女性の声「……報酬の提示とターゲット、そして、罪の内容をお願いします」
樹「報酬は一億。ターゲットは俺」
女性の声「……」
樹「罪の内容は、金の為だけに人を大勢殺してきたことと……兄を守れなかったこと」
女性の声「……かしこまりました」
〇 病院・病室
意識不明の達也がベッドで寝ている。
その横では心電図から、一定の間隔で音が鳴っている。
その達也を見下ろしている樹。
樹「兄貴、やっとだ。やっと見つけたよ。いつも俺を助けてくれた兄貴……。俺さ、今度は俺が兄貴を助けたいって思って強くなったけどさ……。結局、それもできなかった……。だからさ、せめて仇は取ってみせる」
振り向き、達也に背を向ける樹。
樹「それじゃ、行ってくるよ、兄貴。……そして、さよなら」
樹がドアを開けて部屋を出る。
〇 同・廊下
廊下を歩く樹。
その目は真っ直ぐ前を見ている。
終わり
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