【オリジナルドラマシナリオ】神様のプレゼント⑥
- 2020.05.25
- シナリオ本編
〇 病院外観・駐車場(夜)
駐車場の端で立っている隆志。
そこに美早紀の車が入ってきて、停車する。
車から出てきた美早紀が、隆志に駆け寄る。
美早紀「隆志くん。どうしたの? こんなところに呼び出し……」
隆志がスタンガンを出し、美早紀に当てる。
体を震わせて倒れる美早紀。
美早紀のカバンを漁る隆志。
そして、中から鍵を取り出す。
立ち上がり、進もうとするが、一度、ピタリと立ち止まり、気絶している美早紀を悲しそうに見る。
隆志「……」
すぐに決意した表情に戻り、病院のほうへ歩いていく。
〇 同・診察室
薬品棚を漁る隆志。
そして、『Mifepristone and Misoprostol』と書かれた箱を手に取る。
〇 マンション・リビング
ソファーに座っている隆志。
そこへ、お盆を持ってやってくる美沙。
隆志「この前は、感情的になってごめんなさい」
美沙が隆志の目の前にコーヒーを置く。
美沙「いいのよ。私たちのこと、心配してくれて嬉しいわ」
隆志「兄さんと話し合った上で決めたんだよね?」
美沙「うん。一晩、ずっと話したのよ」
美沙が隆志の隣に座る。
美沙「浩平さんは、不安だって言ってたけど、私、やっぱり生みたいから……」
隆志「……そっか」
美沙「そんな暗い顔しないで。何かあるって決まったわけじゃないんだから」
隆志「……俺の母さんは、俺を生む際に死んだって話はしたよね?」
美沙「う、うん。そのことがあるから、私のこと、心配してくれてるんだよね?」
隆志「父さんと母さんは、とっても仲が良かったって聞いてた」
美沙「……」
隆志「父さんは、すごく母さんのことが好きで大切で、一緒にいると幸せだったって言ってた」
美沙「……」
隆志「母さんに対しての愛が深すぎたんだろうね。母さんが死んでからの父さんは、まるで抜け殻だった。きっと、父さんの人生は母さんが死んだときに終わったんだと思う」
美沙「……」
隆志「父さんは、ずっと後悔してた。俺を産ませるんじゃなかったって」
美沙「隆志くん、それは……」
隆志「父さんは俺と向き合ってくれたことはなかった。ずっと、母さんの死だけを見てた……。最初はね、勝手だって思った。勝手に生んで、勝手に見放して、勝手に俺の人生を狂わせた……」
美沙「隆志くん……」
隆志「でも、実際に見てわかったよ。父さんには母さんが必要なんだって」
美沙「……え?」
隆志「子供がいない家庭だって、きっと幸せになれる」
美沙「……隆志くん?」
隆志「これからも、兄さんを……父さんをよろしくね」
隆志がスタンガンを美沙に当てる。
気絶する美沙。
隆志がポケットから錠剤が入った袋を取り出す。
〇 隆志の家(元浩平の家)・リビング
部屋の中央で立っている隆志が、じっと自分の手を見ている。
その手が徐々に透明になってくる。
そのとき、ドアが激しく叩かれる。
浩平の声「おい、隆志! いるんだろ! 開けてくれ!」
隆志「開いてるよ」
勢いよくドアが開かれ、浩平が入ってくる。
そして、隆志の胸ぐらをつかみ上げる。
浩平「どういうことだ?」
隆志「……(冷たい目で)」
浩平「なんで、あんなことした!?」
隆志「……」
浩平「流産したぞ。美沙さん、すごく落ち込んでる……」
隆志「よかった。うまくいって」
浩平「どうしてだ! どうして!」
隆志「兄さんが支えるんだ」
浩平「……隆志?」
隆志「兄さんは、美沙さんから多くの幸せをもらった。今度は兄さんが返す番だ」
浩平「なにを言ってる?」
隆志「兄さんにとって一番大切なのは美沙さんだ。……俺なんかよりもね」
浩平「……」
隆志「だから、今度こそ、放さないようにちゃんとつかんでおくんだ」
浩平「……」
浩平の手を外し、浩平に背を向ける隆志。
隆志「いやあ、最初は結構迷ったんだよね。いっそ会わせないほうがいいんじゃないかってさ」
浩平「……?」
隆志「でも、実際、会ってみて思ったんだ。父さんには母さんが必要だって。きっと美沙さんと出会わなければ、ずっと独身で、ずっとつまらない人生を送るだろうって容易に想像できたよ」
浩平「お前、何言ってるんだ……?」
隆志「復讐も考えたんだ。ずっと俺を無視してきたことのさ。でも、やっぱり父さんはいいやつで……母さんは素敵な人だった」
浩平「……」
隆志「……本当はこうだったんだなって。母さんが生きてたら、こんな感じだったんだなって」
浩平「……」
隆志「ずっとこの生活が続けばなぁって思った。けどさ、そうそううまくはいかないよな」
浩平「隆志、お前……」
振り返ると隆志は涙を浮かべている。
隆志「母さんには生きていてほしいって思ったんだ。……たとえ、俺が消えることになってもね」
隆志が徐々に薄くなっていく。
浩平「……隆志?」
隆志「一緒に入れた、この一年半はとっても幸せだったよ。ありがとう」
浩平「隆志? おい、隆志?」
隆志「頼むから、今度は幸せになってくれよ。そうじゃないと、俺が報われない」
隆志が笑みを浮かべ、そして消えてしまう。
浩平「隆志、隆志ー!」
〇 マンション・リビング
欠伸しながらリビングに入ってくる浩平。
リビングのテーブルには朝食が並んでいる。
美沙「おはよう。早く、食べないと遅刻するわよ」
浩平「うん」
椅子に座って、ボーっとしている浩平。
美沙「まずは顔を洗ってきたら」
浩平「そうだな……」
立ち上がる浩平。
美沙がリビングのドアのところまで歩き、ドアを開けて叫ぶ。
美沙「隆志―、起きなさい! 遅刻するわよ」
だが、返事がない。
美沙「もう、朝が弱いのはお父さんの血ね」
椅子に座る美沙。
そこに顔を洗った浩平がやってくる。
そして、リビングのドアが開く。
ここから、隆志(16)のナレーションが入る。
隆志(N)「俺が過去に戻ったことには意味があったんだと思う」
隆志(6)がリビングに入ってくる。
隆志「遅刻遅刻!」
隆志(N)「俺が見たかった、何事もない、普通の家族の風景」
美沙「まずはおはようでしょ」
浩平「さ、ごはん食べるぞ」
隆志「はーい」
隆志(N)「きっとこれは、神様のからのプレゼントなのかもしれない」
三人が椅子に座る。
三人「いただきます!」
終わり
-
前の記事
【オリジナルドラマシナリオ】神様のプレゼント⑤ 2020.05.25
-
次の記事
【ドラマシナリオ】神様のプレゼント 2020.05.25