【オリジナルドラマシナリオ】受け継がれる魂②

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達也「……これからどうするつもりなの?」
レーラ「国に帰って、祖父の手記を詳しく調べてみる。絶対に、この味を再現しないと。あと一ヶ月で、何としても」
達也「何かあるの?」
レーラ「料理の審査会。優勝すれば、他国の首相との食事会で出すことができる」
達也「そんなすごい審査会があるんだ?」
レーラ「とても名誉な大会。だから私は、是非、このボルシチで勝負したい」
達也「それ、俺も手伝わせてくれないかな?」
レーラ「手伝うって……?」
達也「君のおじいさんは、じいちゃんと出会うことで、ボルシチを完成させた。そして、じいちゃんは、死ぬ直前までここでそのボルシチを作っていた」
レーラ「うん」
達也「答えは日本にあるんじゃないかな」
レーラ「日本に……」
達也「俺が色々、案内するよ。一緒に、このボルシチのレシピを再現しよう」
レーラ「……なぜ、協力してくれるの?」
達也「俺ってさ、今まで一緒にこの店やってたのに、じいちゃんと向き合ってなかった。……今更遅いかもしれないけど、ちゃんと向き合いたいって思ったんだ」
レーラ「……私も同じ」
達也「え?」
レーラ「結局、私も、祖父に、このボルシチのレシピを教えてもらえなかった」
達也「……」
レーラ「私、日本に残る」
達也「……じゃあ」
レーラ「日本のことも知りたいし、二人でやった方が早いと思うから」

達也(N)「こうして、俺はレーラさんと共にじいちゃんとユーリーさんが完成させたボルシチのレシピを探すことになった」

  朝。
  スズメの鳴く声。
  達也がドアを開け、欠伸をしながら、伸びをする。

達也「んー。今日もいい天気だなー」
レーラ「達也、遅い……」
達也「え?」

達也(N)「店の前にレーラさんが座っていた。俺の方を恨めしそうに睨んでいる」

達也「レーラさん。いつからいたの?」
レーラ「五時」
達也「三時間以上前から待ってたの!?」
レーラ「達也、協力してくれるって言った」
達也「そ、そうだけど……。とにかく、店の中に入って。朝食作るから、まずは腹ごしらえをしよう」

  達也がまな板で小気味よくニンジンを切っている。

レーラ「達也さん、綺麗な包丁さばき」
達也「……へへ。なんか、照れちゃうな」

  焼いている鮭の油が跳ねる音。

達也「レーラさん。火、弱くしてもらえる?」

達也(N)「レーラさんを待たせてしまったということもあり、朝食は俺が用意した。料理を作ったのも、久しぶりだ。オーソドックスにごはんに卵焼き、鮭を焼いたものに、野菜サラダをくわえたものにした。それでも、久しぶりにしては良くできたと思う」

  レーラが味噌汁をすする。

達也「……どうかな? 味、変じゃない?」
レーラ「……うん。大丈夫。良い味」
達也「よかった。じいちゃんが、特注していたやつの残りを使ったからさ。心配だったんだ。……それにしても、レーラさん、箸の使い方、上手いね」
レーラ「日本のお店、結構、回ったから。他の人のを見て、覚えた」
達也「へー、すごいね」
レーラ「これ食べたら、すぐにボルシチのこと、調べたい」
達也「あ、そうだね……。あのさ、その前に、おじいさんの手記って、今、持ってる?」
レーラ「……どうして?」
達也「ほら、ボルシチのことや、俺のじいちゃんのことがその手記に書いてあったんだよね? もしかしたら、そこに手がかりとかあるかもしれないし」
レーラ「……私、読んだけど、何もなかった」
達也「でも、まあ、念のためにいいかな?」
レーラ「……わかった」

  レーラがカバンから手記を取り出す。

達也「ありがとう。どれどれ……」

  ペラペラとページをめくる。

達也「……これ、ロシア語? 読めないんだけど……」
レーラ「じゃあ、私が読む」

達也(N)「手記を手渡すと、レーラさんは書いてあるロシア語を日本語に訳して読み上げてくれる」

レーラ「1945年、8月。当時、日本領の島国……カラフトと呼ばれる場所に、私の隊は派遣されていた……」

  以下、ユーリーの過去。
  セミが鳴く中、歩き続ける、ユーリー・バザロフ(27)の部隊。
  部隊には五人ほどしか残っていない。
  ダニール・アビトワ(32)が、ユーリーの方へ声を掛ける。

ダニール「ユーリー、遅れてるぞ!」
ユーリー「申し訳ございません!」
ダニール「ふん。何が料理人だ。人の足を引っ張るだけじゃないか。お前がいたせいで、進軍がどれだけ遅くなったかわかるか?」
ユーリー「……」
ダニール「今頃、本隊と合流できていたはずだ。部隊が五人になる前にな」
ユーリー「……本当に、申し訳ございません」
ダニール「口を開く暇があったら、足を動かせ!」
ユーリー「はい」

  近くから日本兵の声が聞こえる。

日本兵1「いたぞ! 敵だ!」
ダニール「くそっ! 見つかったか!」
日本兵2「撃て! 撃てぇ!」

  日本軍が銃を撃ち始める。

ダニール「ぐあっ!」
ロシア兵「うああっ!」
ユーリー「隊長!」
ダニール「馬鹿……。俺に構うな。行け」
ユーリー「しかし……」
ダニール「……本隊に合流……しろ。そして……隊が……全滅したと……伝えてくれ」
ユーリー「隊長! 隊長!」
日本兵2「一人、残ってるぞ!」
ユーリー「ううっ……」

  ユーリーが走り出す。

日本兵1「逃げたぞ! 追え!」

  過去、終わり。

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