【声劇台本】冬の訪れ

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■概要
人数:1人
時間:10分程度

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ

■キャスト
颯太

■台本

颯太「え? ホント!? うん、じゃあ、明日、10時に駅前の、時計台の下でいいかな?」

颯太「うん、うん。わかった。それじゃ、明日ね!」

  ピッと電話の通話ボタンを切る。

颯太「よっしゃーーー!」

颯太(N)「俺はその日、17年間生きてきた中で、初めてのデートの約束を取り付けることができた。ようやく……ようやく俺にも春が来たってわけだ!」

颯太「あっ! しまった! 明日って……。ヤバいな。電話しとくか」

  スマホを操作して、電話をかける颯太。

  コール音の後に、通話がつながる音。

颯太「あ、雄二? すまん! 明日、映画行けなくなった! ……いや、俺だって楽しみしてたって。一緒に、一年前から楽しみにしてたじゃん。うん、うん。だから悪かったって。ホント、外せない用事なんだよ。マジで。……そんなに切れるなって。今度、なんか奢るから。俺の分のチケットは雄二にやるから、誰か他のやつ誘って行ってくれよ。……いや、もちろん、俺も後で見るって。見ないのはあり得ないから。……うん、うん。だから、その分は自腹切るって。急に予定入れた俺が悪いんだから。一足先に、楽しんできてくれ。……あ、ネタバレは止めろよ、マジで。うん、うん……それじゃな」

  電話を切る颯太。

颯太「ふう。あぶねえ、あぶねえ。にしても、ミスったな。よりによって明日で約束しちゃうなんて……。って、いや、これくらいはしょうがないよな。なんせ、一華ちゃんとのデートだもんな。これくらいの不運がないと、俺、明日死ぬかもしれんからな……」

颯太「って、待てよ! 明日、映画館に行くのはまずいな。雄二に鉢合わせしたら最悪だからな。やべー。デートは完璧、映画しか考えてなかったよ。この前の雑誌でも初デートは映画がいいって書いてあったんだよな。映画って話さなくても一緒にいられるし、おんなじものを見るから共通の話題ができるし。……どうしようかな。えーっと」

  ガサガサと机を漁り、本を出し、ページをめくる颯太。

颯太「デートの場所、デートの場所っと……。うーん。遊園地は金が足りないしな……。動物園……動物興味ねーからな。水族館……魚見るのって楽しいのか? あ、テーマパークか。これなら、そんなに金もかからなそうだし、見て回るから、次何しようってことにはならないから大丈夫かな。けど、テーマパークって、この辺あったっけかな……」

颯太「いや、待てよ。映画と違って、デート中は一華ちゃんとずっと会話しなきゃならないんだよな? つまらないって思わせたら終わりだからな……。待て待て、それでなくても女の子と話したことなんて、ほとんどないのに、ぶっつけ本番とヤバいだろ。シミュレーションしておかないと……」

一華(颯太)「今日は誘ってくれて、ありがとう。……嬉しかった」

颯太「ああ、うん。今日は暇だったからさ。それに、このテーマパークって前から興味あったんだ。けど、ほら、こういうところって、男一人だと来づらいからさ」

一華(颯太)「そうなんだ? 私も、前から興味あったんだよ。でも、やっぱり、一人で来るのもどうかなって思って。……でもね、私、颯太くんと一緒に来れて、本当に嬉しい」

颯太「俺もだよ」

一華(颯太)「ねえ、颯太くん。手、繋いでいいかな?」

颯太「お、おう……」

一華(颯太)「ふふふ……。手、温かいね」

颯太「あのさ、一華ちゃん。どうして……デートを受けてくれたんだ?」

一華(颯太)「え? そ、それはね……えっと……私、ずっと颯太くんが好きで、ずっと見てたんだよ」

颯太「そうなんだ? 気づかなかったよ」

颯太(N)「実は知ってたんだ。一華ちゃんが、時々、こっちの方を見てたのは。だから、俺、勇気を出してデートに誘ったんだ」

颯太「あのさ……」

一華(颯太)「なに?」

颯太「俺と……付き合ってくれないか?」

一華(颯太)「うう……」

颯太「え? ど、どうして泣くんだよ?」

一華(颯太)「嬉しくて……。やっと、思いが通じたから」

颯太「一華ちゃん……」

一華(颯太)「颯太くん……」

颯太「完璧だな。……って、雄二にも話しておかないとな。ふふ、雄二、驚くぞ。そうだ、雄二にどう話すかな? そこも考えておくか」

颯太「悪い、雄二。俺、一華ちゃんと付き合うことになった」

雄二(颯太)「マジかよ!」

颯太「一足先に、俺は進むよ」

雄二(颯太)「くそ、まさか、お前に負けるとはな。けど……まあ、仕方ないよな。こんな日が、いつかは来ると思ってたよ」

颯太「雄二……」

雄二(颯太)「おめでとう。これは負け惜しみとかじゃなくて、お前と一華さんならお似合いだと思う。……俺も、気になってたんだけどな、一華さん。だから、颯太。絶対に、一華さんを幸せにしろよ。泣かしたら許さないからな」

颯太「わかってる。任せとけ」

雄二(颯太)「けど、颯太と一華さんが付き合うなら、今後はあんまり遊びには誘えないな」

颯太「……悪い。やっぱりさ、一華ちゃんを優先したい」

雄二(颯太)「それはしゃーねえよ。だけど、これだけは言わせてくれ。たとえ、お前が一華さんと付き合うとしても、俺との友情は消えないからな」

颯太「ああ、もちろんだ。今回はさ、俺がたまたま先に彼女できたけど、お前が先に彼女が出来たとしても、俺は雄二のことを祝福したし、一緒に遊べなくなっても、仕方ないって納得するよ。雄二が幸せになってくれれば、俺も嬉しい。それが友情ってもんだもんな」

雄二(颯太)「颯太……。お前と親友で、俺は本当に良かったぜ」

颯太「俺もだ、雄二」

颯太「よし、これだけシミュレーションしておけば完璧だな。そうだ、明日着ていく服も用意しておかないと……」

  そのとき、スマホの着信音が鳴る。

颯太「あれ? 一華ちゃんだ」

  通話ボタンを押す颯太。

颯太「もしもし? ……なに? え? ……う、うん。そっか。それなら、仕方ないね。ううん。別にいいよ、気にしないで。いや、そんなに謝らなくてもいいよ。うん。それじゃ……」

  通話ボタンを押し、電話を切る颯太。

颯太「……マジかよ。はあー……。一気にテンションダダ下がりだな」

  スマホを操作して、電話をかける颯太。

颯太「あ、雄二? ごめん。やっぱり、明日の予定なくなったから、映画行くわ。……え? マジで! 違う奴、誘っちゃったの!? あー、いや、うん。そうだよな。ごめん。俺は別で行くから。いや、いいよ。今回は急にキャンセルした俺が悪いんだから、半分出すとかしなくて。……うん。明日は楽しんできてくれ。あ、もちろん、ネタバレはするなよ。じゃあな」

  スマホの通話ボタンを押して、電話を切る。

颯太(N)「こうして俺の春の訪れはあっさりと過ぎ去っていったのだった……」

終わり

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