紅葉

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■概要
人数:2人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
朋美(ともみ)
おばあちゃん

■台本

朋美(N)「おじいちゃんが亡くなってから、おばあちゃんは、家にこもるようになった。おじいちゃんが亡くなる前は、旅行好きだったおばあちゃん。今では1ヶ月間、家から出ないなんてことも多い。お母さんたちも心配で、よく私に様子を見に行ってほしいと頼んでくる。まあ、おばあちゃんのことは好きだから、いいんだけどさ」

場面転換。

ガラガラと扉を開ける音。

朋美「こんにちは、おばあちゃん」

おばあちゃん「あらあら、朋美、よく来たわね」

朋美「これ、栗ご飯。おかあさんから」

おばあちゃん「へー。あの子がねぇ。昔は栗ご飯なんて嫌だなんて言ってたのに」

朋美「えー。そうなの?」

おばあちゃん「栗なんかじゃなくて、もっとお肉食べたいって、騒いでたのよ」

朋美「あはは。お母さん、いつも私に、野菜食べなさいって怒るのになぁ」

おばあちゃん「親になると、子供が心配になるのはわかるわ」

朋美「そういえば、おばあちゃん、なにやってたの? 凄い量の写真だね」

おばあちゃん「ああ、旅行のときの写真を整理してたのよ」

朋美「……整理? 捨てちゃう……とか?」

おばあちゃん「ああ、違う違う。昔は色々、風景を写真に撮ってたからね。色々見て、選んでたのよ」

朋美「そういえば、おばあちゃんは昔は、旅行が好きだったよね?」

おばあちゃん「あら、今でも好きよ」

朋美「え? でも、最近は、全然行ってないよね? お母さん達、心配してたよ」

おばあちゃん「そうねえ。行かないっていうより、忙しくて行けないって言った方がいいかしらね」

朋美「忙しい? ……でも、いつも家に閉じこもってるよね?」

おばあちゃん「……ちょっと、出ようか?」

朋美「え?」

朋美(N)「突然、おばあちゃんに誘われ、戸惑いながらも、一緒にお出掛けをした。バスに揺られて、着いた場所は山の中腹だった」

おばあちゃん「さあ、着いたよ」

朋美「え? ここ?」

おばあちゃん「……どうだい?」

朋美「どうって言われても……何もないじゃない」

おばあちゃん「本当に何もないかい? もっと周りを見渡してみてごらん」

朋美「……周り? ……あっ!」

おばあちゃん「どうだい?」

朋美「……紅葉が綺麗」

おばあちゃん「ふふっ、そうだろ? ここには、おじいさんとも、よく一緒に来たんだ」

朋美「……へー。おじいちゃんとも」

おばあちゃん「おじいさんはね……。ずーっと後悔してたんだ」

朋美「……後悔」

おばあちゃん「仕事を引退してから、あの人はずーっと、家にこもってた。私が旅行に誘っても、今更、旅行なんてって言って、行こうとしなかった」

朋美「……」

おばあさん「あの人はね、仕事を引退した時点で、人生の盛り上がりは終わったって言ってね。あとはただ、大人しく静かに終わりを待つだけだって」

朋美「……」

おばあさん「でもね、調子を崩して、車椅子になったとき、ここに一緒に来たんだよ。こうやって、二人で紅葉を見たんだよ」

朋美「……うん」

おばあちゃん「そしたらね、あの人ったら、急に泣き出しちゃって」

朋美「どうして?」

おばあちゃん「朋美は紅葉ってどうゆう状態か知ってる?」

朋美「うん。枯れて落ちる前の状態なんだよね?」

おばあちゃん「おじいさんはね、儂は紅葉と同じだったのにって、言ってたわ」

朋美「どういうこと?」

おばあちゃん「紅葉は、枯れて落ちるその直前まで、ああやって、紅く綺麗に彩っている。葉が落ちる、その一瞬まで、人々をの心を和ませてるんだって」

朋美「……」

おばあちゃん「つまり、おじいちゃんは、人生を諦めずに、自分が輝く道を探せばよかったって言ってたの」

朋美「……そうだったんだ」

おばあちゃん「でもね、私は言ったわ。これからやればいいじゃないって」

朋美「……」

おばあちゃん「でもね、おじいさんは言ったわ。もう遅いって。車椅子になってしまった自分には、もう輝くことはできない。……そう言って、最後まで家に閉じこもって、亡くなったの」

朋美「……」

おばあちゃん「だからね、私は、証明しようって思って」

朋美「証明?」

おばあちゃん「どんな状態でも、この紅葉のように輝くことはできるんだって」

朋美「……」

おばあちゃん「じゃあ、帰ろうか」

朋美(N)「おばあちゃんの家に帰った後、私はおばあちゃんの部屋に案内された。その中は少し、改造されていて、アトリエっぽい感じになっていた」

おばあちゃん「今ね、私、絵を描いているんだよ」

朋美「……おばあちゃん、絵とか描いたことあったの?」

おばあちゃん「ううん。最近始めたばっかり」

朋美「……」

おばあちゃん「ふふ。朋美、こんなおばあちゃんが今から始めても遅いって思ってる?」

朋美「う、ううん。そんなことないよ」

おばあちゃん「ふふふ。無理しなくていいんだよ」

朋美(N)「これから5年後。おばあちゃんはわりと有名な絵画のコンクールで受賞したのだった」

終わり。

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