最後の晩餐の料理人

最後の晩餐の料理人

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■概要
人数:3人
時間:10~15分程度

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
涼真
夏帆
慎太郎

■台本

慎太郎「ごほごほ……」

夏帆「おじいちゃん、大丈夫?」

慎太郎「私ももう年だ。長くないかもな」

夏帆「もう、止めてよ。おじいちゃんには私の結婚式にも出てもらうんだから」

慎太郎「ははは。じゃあ、あと20年は生きないとな」

夏帆「ひっどーい。20代にはちゃんと結婚するもん」

慎太郎「夏帆には、恋人がいるのかい?」

夏帆「うっ! ま、まだいないけど……。すぐ見つけるから心配しないで」

慎太郎「夏帆はまだ高校生なんだ。将来のことを急ぐ必要はない。ゆっくりとしっかり進んでいきなさい」

夏帆「うん。でも、おじいちゃんには、ちゃんと私が幸せになったところを見てもらいたいな」

慎太郎「大丈夫だよ。絶対に夏帆は幸せになれる。見なくてもわかるさ」

夏帆「……おじいちゃん」

慎太郎「ところで、夏帆。あそこには連絡してくれたかい?」

夏帆「う、うん……。連絡はできたけど、ネットで調べても『最後の晩餐』なんてお店、見つからなかったよ。騙されてない?」

慎太郎「はっはっは。そりゃ、一般的には出回ってはいないさ。知る人ぞ知る……いや、そもそも依頼できる者がそうそういないさ」

夏帆「一食、300万って詐欺よ、詐欺!」

慎太郎「はっはっは。まあ、夏帆の年齢ではそう思うかもしれないな」

夏帆「どういうこと?」

  そのとき、家のチャイムが鳴る。

夏帆「あ、ちょうど来たみたい!」

  夏帆が玄関まで走り、ドアを開く。

夏帆「はーい!」

涼真「ちーっす! ご依頼あざっす!」

  パタンとドアが閉まる音。

涼真「おーい! なんで閉めるんだよ! 依頼してきたのそっちだろ?」

  ゆっくりとドアが開く音。

夏帆「……ホントにあんたが、最後の晩餐の料理人? ガキじゃない」

涼真「お前とそんなに年、変わらねーじゃん」

夏帆「……おじいちゃんは、こんなのに300万も払ったの? 絶対、騙されてるよ」

涼真「とりあえず、依頼人に会わせてくれよ。もし、満足いかなかったら、全額返金すっからさ」

夏帆「……返すっていうなら、まあいいわ」

  場面転換。

涼真「ちっす!」

慎太郎「涼真君、大きくなったな。何歳になったんだ?」

涼真「17歳っす」

夏帆「おじいちゃん、こいつ、知ってるの?」

慎太郎「どちらかというと、涼真君のおじいさんの世話になったんだ。信玄は元気かい?」

涼真「じっちゃんは死んだよ。……俺がじっちゃんの最後の晩餐を担当した」

慎太郎「……そうか。信玄が逝ったか。しかし、君が継ぐとはな。慶宗君が継ぐと思っていたよ」

涼真「まあ、親父は……色々あって」

慎太郎「なんにしても、信玄が認めたとなれば私とは不満は全くない」

涼真「で、何がいいんだ?」

慎太郎「エビチリだ」

涼真「……エビチリね」

夏帆「ちょっと、おじいちゃん! エビチリに300万も払うの? それに確かにおじいちゃん、エビチリ好きだけど……もっと、豪華なものとか珍しいものとか、いっぱいあるじゃない」

慎太郎「確かに、私は今まで、色々なお店……それこそ、名店と呼ばれるところのエビチリを食べ続けてきた。だが、あの味に勝るエビチリを見つけることができなかった」

涼真「……どんなエビチリでした?」

慎太郎「あまり辛くはなかったんだが……エビが特徴的だったな。弾力があって、甘かった」

涼真「ふーん。……それ、いつ頃食べたものっすか?」

慎太郎「私がまだ10歳にも満たない頃だ。母が作ってくれてね。あの頃は、決して裕福ではない……いや、貧乏だった。そんな頃に母がエビチリを作ってくれたのが驚いてね。あれが何よりの贅沢だったんだよ」

涼真「なるほどっすね。それじゃ、3日間もらうっす」

慎太郎「ああ。楽しみにしてるよ」

夏帆「ちょっと、もう少し色々聞かなくていいの? あれだけのことで……」

涼真「あ、この子借りていいっすか?」

夏帆「はあ? 人を物のように言わないでよ!」

慎太郎「すまない、夏帆。涼真君の手伝いをしてやってくれないか?」

夏帆「……おじいちゃんがそういうなら」

涼真「よし、じゃあ、夏帆、行くぞ!」

夏帆「いきなり、慣れなしくしないでよ!」

  場面展開。

  電車が揺れる音。

夏帆「はあ……なんで、私がこんなことに……」

涼真「まあまあ、ちょっとした旅行って思えば楽しいじゃねーか」

夏帆「あんたと一緒の旅じゃ、ちっとも面白くないわよ」

涼真「なあ、夏帆はじいさんが昔住んでた家には行ったことあるのか?」

夏帆「なによ、急に? ……まあ、行ったことあるけど、子供の頃よ」

涼真「雰囲気とか覚えてるか?」

夏帆「んー。まあ、うっすらなら」

涼真「なるべく、思い出しておいてくれ」

夏帆「は? なんでよ?」

  電車が止まる。

涼真「お、着いたぞ」

夏帆「ちょっと、置いて行かないでよ!」

  場面転換。

  森の中を歩く、涼真と夏帆。

夏帆「……なんで、私、森の中に来てるんだろ」

涼真「材料の調達だよ」

夏帆「なんで、私も一緒に付いて行かなきゃならないのよ! あんた一人でいきなさいよ!」

涼真「なあ、じいさんって、中華料理屋でどんなの頼んでた?」

夏帆「あんたね、少しは私の話聞きなさいよ。……えっと、餃子とか小籠包とか、酢豚とか」

涼真「酢豚にパイナップル入ってるの、オッケーだったか?」

夏帆「逆に大好きよ。入れて欲しいと頼んでたくらいだもん」

涼真「あのじいさんの家って、なにか果物育ててたとかなかったか?」

夏帆「え? そんな話は聞いたことないよ。……あ、でも、おじいちゃんの母親の実家が林檎園をやってたとか言ってかな」

涼真「やっぱり」

夏帆「やっぱりって?」

  川が流れる音。

涼真「あった」

夏帆「だから、少しは話を聞きなさいよ! って、何やってんの?」

涼真「釣り」

夏帆「釣りって……何釣るの?」

涼真「エビチリだから、エビに決まってるっしょ」

夏帆「ここ川なんだけど」

涼真「知ってるよ」

夏帆「川エビを使うの?」

涼真「いや、これさ」

  涼真が釣りあげる。

夏帆「え……? ザリガニ?」

涼真「うん。やっぱりこの辺のはデカいな」

夏帆「ちょっと! ザリガニって、あんた舐めてるの!」

涼真「料理に必要なものって何かわかるか?」

夏帆「え? そりゃ、材料とか、調味料とかじゃない?」

涼真「思い出さ」

夏帆「思い出?」

涼真「料理の思い出っていうのはさ、舌……つまり味よりも、『美味しかった』という記憶が強烈に残るものなんだよ」

夏帆「……どういうこと?」

涼真「じいさんの依頼は、上手いエビチリじゃなくって、じいさんの母親が作ったエビチリなんだよ」

夏帆「でも、おじいちゃんのお母さんはもう……」

涼真「ああ、だから、どうやって作ってたかを推理する必要があるんだよ」

夏帆「でも、なんで、ザリガニを使ってたってわかるの?」

涼真「言ってただろ。貧乏だったって。じいさんが子供の頃なら、まずエビが手に入るわけがない。近くで調達するしかないはずさ。で、この辺で採れるのはザリガニってわけ」

夏帆「ホントかな?」

涼真「まあ、見てなって」

  場面転換。

  慎太郎が椅子に座る。

慎太郎「ふう。この家も久しぶりだな」

涼真「悪いっすね。わざわざ来てもらって」

慎太郎「いや、ここで食べるというのもオツだな」

夏帆「どうかな? 子供の頃に来た時の雰囲気に似せてみたんだけど?」

慎太郎「夏帆。ありがとう。よく覚えていたね。まるであの頃に戻ったようだよ」

涼真「じゃあ、ご依頼のエビチリっす」

  涼真が皿を目の前に置く。

慎太郎「おお……。見た目はそっくりだ」

涼真「味はどうっすかね」

慎太郎「うむ……」

  慎太郎がエビチリを食べる。

慎太郎「う、うう……」

夏帆「おじいちゃん?」

慎太郎「こ、これだ! この味だよ!」

涼真「へへ」

夏帆「うそ……。ホントに? こんな甘いエビチリなんて、見たことないよ」

慎太郎「いや、これだよ。この味だ……」

夏帆「どういうこと?」

涼真「じいさん、実はそんなに辛いのが好きじゃないんだよ」

夏帆「え?」

涼真「中華料理でも麻婆豆腐とか唐辛子炒めとか食べてなかっただろ?」

夏帆「まあ、言われるとそうかもしれない……」

涼真「あとは、フルーツの甘さも好きなんだと思う。じいさんの母親は実家からリンゴを定期的に送ってもらってたと思う。だから、基本的にはフルーツの甘味が懐かしい味になってるんだよ」

夏帆「だから、エビチリにリンゴを入れてたのね」

涼真「ポテトサラダとかにも、リンゴ入れてただろ?」

夏帆「あ! そうそう! 入れてた!」

涼真「思い出っていうのはさ、どんな素晴らしい調味料よりも凄い味付けになる。それが俺のじいさんから教えられたことさ」

夏帆「へー」

涼真「だから、じいさんの思い出を再現すれば、じいさんにとっての最高の料理になるんだよ」

慎太郎「うう、美味い。美味いよ、母さん……」

夏帆「……おじいちゃん、すごく喜んでる」

涼真「……ああ」

夏帆「ありがとうね」

涼真「死ぬ前にもう一度食べたいと思う料理を作る。それが俺の……最後の晩餐の料理人としての仕事さ」

終わり

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