【声劇台本】強運への挑戦
- 2021.01.18
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:5人以上
時間:15分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
陽斗(はると)
虎徹(こてつ)
仁(じん)
その他
■台本
陽斗「ロン! ピンフ、タンヤオ」
男1「クソ! やられた!」
男2「……おめでとう、陽斗くん。君の優勝だ。これで君は日本一だな」
陽斗「ありがとうございます」
男1「ふん。表世界では、だけどな」
男2「おい、負け惜しみは止めろ。みっともないぞ」
男1「俺はただ、……こいつよりも、あいつの方が絶対に強いと思っただけだ」
陽斗「あいつ……?」
男2「気にしないでくれ。表舞台から消えた男のことなんか」
陽斗「……お願いします。教えてください」
場面転換。
雀荘のドアが開き、虎徹が入ってくる。
虎徹「……ん? なんだ、マスター。今日は珍しく人がたくさんいるじゃないか」
店長「おう、虎徹。お前に、お客さんだ」
虎徹「俺に……?」
陽斗「原田虎徹さんですね。俺と勝負してくれませんか?」
虎徹「あん? なんだ、あんた。いきなり」
店長「久保陽斗。この前の大会で優勝した、日本一の雀士だよ」
虎徹「ふーん。そんな人がなんで俺に勝負を挑む?」
陽斗「あなたは、5年間無敗のチャンピンだと聞きました」
虎徹「3年前の話さ。今はこの通り、落ちぶれた、ただのおっさんさ」
陽斗「お願いします。勝負してください」
虎徹「誰に焚きつけられたか知らないが、こんな落ちぶれた雀士を倒しても面白くないだろ。それに勝負はやる前から見えてる。あんたの勝ちだ。不戦勝であんたの勝ちでいい」
陽斗「それじゃ意味がないんです」
虎徹「……はあ。しゃーねーな。マスター、適当に2人、見繕ってくれ」
店長「はいよ」
場面転換。
牌を倒す陽斗。
陽斗「ロン。タンヤオ、イーペーコー」
虎徹「やるねぇ。さすが日本一だ」
陽斗「次がオーラスです」
虎徹「ああ、わかってる」
ジャラジャラと牌を混ぜる音。
場面転換。
牌を倒す虎徹。
虎徹「悪いな。天和だ」
陽斗「なっ!」
虎徹が立ち上がる。
虎徹「ま、非公式戦だ。あまり気にするな」
陽斗「……負けた」
場面転換。
虎徹が歩いている。追いかけてくる陽斗。
陽斗「待ってください!」
虎徹「再戦は受けないぞ。面倒だからな」
陽斗「……納得できません」
虎徹「……はあ」
方向を変え、スーパーに入る虎徹。
店員「いらっしゃいませ」
虎徹「……」
陽斗「ちょ、ちょっと待ってください。なんでスーパーに?」
虎徹「腹が減ったんだよ。弁当を買おうって思ってな。お前もどうだ?」
陽斗「いえ、僕は……」
場面転換。
店員「430円のお返しです」
虎徹「おう」
店員「あ、これ、500円で一枚、福引券が出ますのでよかったら、どうぞ」
虎徹「ありがとう」
スーパーを出る虎徹。並ぶように歩く陽斗。
陽斗「僕は今まで、技術を極限まで磨くことで日本一まで辿り着きました」
虎徹「……」
陽斗「技術であなたに負けたなら納得できます。けど、あなたの麻雀は運任せだ。そんな打ち方で5年も無敗だなんて信じられません」
虎徹「懐かしいな……」
陽斗「え?」
虎徹「悪いが、俺の麻雀は運なんかじゃない。それがわからないうちは、お前は俺には勝てない」
陽斗「……あれが、運じゃない?」
虎徹「サービスだ。見てろ」
虎徹が立ち止まる。
虎徹「おう、福引券一枚だ」
店員「はい、どうぞ」
虎徹「(大声で)うおおお! 俺の強運よ、右手にやどれー! 一等の、ハワイ旅行をこの手にー」
ガヤ「お? なんだなんだ?」
人が大勢集まってくる。
虎徹「いくぞー!」
ガラガラを回す虎徹。そして一個球が出る。
ガヤ「おお……金色だ。すげえな、おっさん。言った通り、一等だぞ」
虎徹「いよっゃー!」
店員「え? そんな! い、イカサマだ!」
虎徹「……兄ちゃん。なんで、そう思う?」
店員「……い、いや、それは……」
虎徹「じゃあ、一等のハワイ旅行、いただきだな」
店員「くっ!」
場面転換。
虎徹と陽斗が並んで歩く。
虎徹「どうだ、わかったか?」
陽斗「……単なる強運じゃないですか」
虎徹「はあ……。いいか。あの福引、一等なんか入ってないんだ」
陽斗「で、でも実際に……」
虎徹「ありゃ、俺が作った玉だ。回すタイミングで、仕込んでた玉を落とした。で、実際のガラガラからは玉が出ないように回すのは技術だ」
陽斗「じゃあ、イカサマ……」
虎徹「ああ。店員の方はすぐにわかっただろうな。なぜなら、入ってないはずの一等の玉が出たんだ」
陽斗「それなら、店員はイカサマだって言えば……」
虎徹「どう言う? 一等の玉は入っていないはずなのに、出たからイカサマだってか?」
陽斗「あっ……」
虎徹「そう。たとえ、イカサマだってわかっても、店員は受け入れるしかない」
陽斗「……ちょっと待ってください。じゃあ、さっきの麻雀も? でも、どんなイカサマを?」
虎徹「他の2人と卓の下で牌を交換してた」
陽斗「いや、あの2人は店長が選んで……」
虎徹「マスターもグルなら?」
陽斗「……」
虎徹「ついて来い。もう一つ、面白いものを見せてやる」
場面転換。
陽斗「ここは……?」
虎徹「裏の賭博場ってところだな。ここの面白いところは、賭けをやるもの同士がどんな勝負をするかを決められる。で、それを決めた上で、この勝負を見ている奴らが、どっちが勝つかを賭けるんだ」
陽斗「そんなこと、違法じゃ……」
虎徹「だから、裏だって言ってるだろ。っと、来たぜ。今日の俺の対戦者だ」
仁「……勝負の方法はあんたに任せる」
虎徹「随分と自信満々だな」
仁「俺は生まれついての、豪運がある。どんな相手でも、どんな賭けでも、私が勝つ」
虎徹「じゃあ、お言葉に甘えて。ロシアンルーレットでどうだ?」
仁「あんた、馬鹿か。そんな運任せの勝負、私に勝てるわけがない」
虎徹「俺も運には自信があってね。それに」
バンと銃を撃つ虎徹。
虎徹「……命が掛かってると、すこぶる運が上がるんだ」
仁「……」
虎徹「なんだい? 命が掛かるとさすがに腰が引けるか?」
仁「……受けよう」
場面転換。
虎徹「ルールは説明するまでもないよな。先に当たりを引いた方が負けだ」
仁「……ああ」
虎徹「じゃあ、俺からいくぜ。……って、あんた、今まで命は掛けたことあるかい?」
仁「……」
虎徹「俺は何度もある。これだって、何度もやってきた。突然……バンっ!(引き金を引く音)って、いうことある。こういう緊迫した空気が好きでね。ほら、次はあんただ」
仁「……」
空撃ちが続く。仁、虎徹、仁と交互に撃つ。
虎徹「言うだけあるな。これで、2分の1。この一発で、勝負が決まると言っていい。つまり、俺が当たらなければ、俺の勝ちだ」
仁「……わ、わかっている」
虎徹「じゃあ、いくぜ」
空撃ちの音が響く。
仁「なっ……そんな馬鹿な!」
虎徹「……あんたの番、だぜ」
仁「うう……。そんな! お、俺は……」
カタカタと震えて、銃を握る。
仁「あ、あうう……。俺は……」
キリキリと引き金を引こうとする。
虎徹「もういい」
仁「え?」
虎徹「勝負は決まったんだ。わざわざ、死ぬことはない。そうだろ?」
仁「う、うう……。うわあああ」
虎徹「……」
場面転換。
陽斗「……あれも、イカサマ……だったんですか?」
虎徹「もちろん。銃に入っていたのは空の弾丸だった」
陽斗「え? でも、最初に……」
虎徹「そう。最初に実際に銃を撃つのも肝だ。あそこで、撃つことで、本物だと印象付ける」
陽斗「いや、待ってください。いくら弾が偽物だったとしても、意味はなくないですか? ただ、死なないってだけですよね? 今回はたまたま、最後まで偽物の弾を引かなかっただけで……」
虎徹「いや、引いてたよ」
陽斗「え?」
虎徹「最初の俺の番で引き当ててた。自分は豪運だと豪語するだけあるな」
陽斗「いやいや。それなら、相手だって気づきますよね? 空の弾とは言え、撃ったときに音が違うはず……って、あ」
虎徹「そう。それを誤魔化すためのおしゃべりだ。命をかけた極限状態で、俺の話の中で空弾を撃つ音は聞き分けられない」
陽斗「でも、もし、相手が当たりを引いたら?」
虎徹「そのまま、こっちの勝ちだって言えばいいだろ。こんな勝負に命を懸ける必要はないから、空弾に変えたとか言ってな」
陽斗「それじゃ……」
虎徹「ああ。あの勝負は最初から俺の勝ちが決まっていた」
陽斗「虎徹さん、最後に一つだけ質問させてください。あなたが表舞台から引退する前。つまり、大会ではイカサマは使えなかったはずです。つまり、あなたは技術だけでも日本一のはずですよね。なんで、こんなことを……?」
虎徹「俺も、昔は技術を磨いていた。運なんかに絶対に負けない。運なんか技術で抑え込んでやるってな」
陽斗「え?」
虎徹「3年前の、5回目の優勝の時、俺は天狗になっていた。俺に勝てる奴はいないってな」
陽斗「……」
虎徹「で、調子に乗っていた俺は、さっきのような裏の賭博……裏麻雀に手を染めた。表だけじゃなく、裏でも頂点に君臨しようとしてな」
陽斗「それで、どうなったんです?」
虎徹「そこで、出会ったんだ。強力な運を持つ、あいつに……」
陽斗「……負けたんですか?」
虎徹「ああ。俺の築き上げてきた技術を蹂躙するように、奴は運だけで勝ちを拾っていった」
陽斗「……そんな人が存在するなんて」
虎徹「まさしく、神に愛されてるという言葉がふさわしい奴だ。だから、俺は誓った。必ず、そいつに勝つと。そのためには、普通の技術じゃ到底届かない。必ず勝つという引っ掛け、技術を持って奴を倒す。そして、奴と再び戦うには、勝ち続けるしかないんだ」
陽斗「……」
場面転換。
雀荘のドアが開き、虎徹が入ってくる。
虎徹「うーっす……」
陽斗「待ってましたよ、虎徹さん」
虎徹「お前、なんで……?」
陽斗「リベンジです」
虎徹「だから、やらないって」
陽斗「僕も、その人と戦ってみたいです。虎徹さんを倒して、挑戦します」
虎徹「ったく。10年早ぇ」
ジャラジャラと牌を混ぜる音。
終わり。
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