【声劇台本】強運への挑戦

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■概要
人数:5人以上
時間:15分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
陽斗(はると)
虎徹(こてつ)
仁(じん)
その他

■台本

陽斗「ロン! ピンフ、タンヤオ」

男1「クソ! やられた!」

男2「……おめでとう、陽斗くん。君の優勝だ。これで君は日本一だな」

陽斗「ありがとうございます」

男1「ふん。表世界では、だけどな」

男2「おい、負け惜しみは止めろ。みっともないぞ」

男1「俺はただ、……こいつよりも、あいつの方が絶対に強いと思っただけだ」

陽斗「あいつ……?」

男2「気にしないでくれ。表舞台から消えた男のことなんか」

陽斗「……お願いします。教えてください」

場面転換。

雀荘のドアが開き、虎徹が入ってくる。

虎徹「……ん? なんだ、マスター。今日は珍しく人がたくさんいるじゃないか」

店長「おう、虎徹。お前に、お客さんだ」

虎徹「俺に……?」

陽斗「原田虎徹さんですね。俺と勝負してくれませんか?」

虎徹「あん? なんだ、あんた。いきなり」

店長「久保陽斗。この前の大会で優勝した、日本一の雀士だよ」

虎徹「ふーん。そんな人がなんで俺に勝負を挑む?」

陽斗「あなたは、5年間無敗のチャンピンだと聞きました」

虎徹「3年前の話さ。今はこの通り、落ちぶれた、ただのおっさんさ」

陽斗「お願いします。勝負してください」

虎徹「誰に焚きつけられたか知らないが、こんな落ちぶれた雀士を倒しても面白くないだろ。それに勝負はやる前から見えてる。あんたの勝ちだ。不戦勝であんたの勝ちでいい」

陽斗「それじゃ意味がないんです」

虎徹「……はあ。しゃーねーな。マスター、適当に2人、見繕ってくれ」

店長「はいよ」

場面転換。

牌を倒す陽斗。

陽斗「ロン。タンヤオ、イーペーコー」

虎徹「やるねぇ。さすが日本一だ」

陽斗「次がオーラスです」

虎徹「ああ、わかってる」

ジャラジャラと牌を混ぜる音。

場面転換。

牌を倒す虎徹。

虎徹「悪いな。天和だ」

陽斗「なっ!」

虎徹が立ち上がる。

虎徹「ま、非公式戦だ。あまり気にするな」

陽斗「……負けた」

場面転換。

虎徹が歩いている。追いかけてくる陽斗。

陽斗「待ってください!」

虎徹「再戦は受けないぞ。面倒だからな」

陽斗「……納得できません」

虎徹「……はあ」

方向を変え、スーパーに入る虎徹。

店員「いらっしゃいませ」

虎徹「……」

陽斗「ちょ、ちょっと待ってください。なんでスーパーに?」

虎徹「腹が減ったんだよ。弁当を買おうって思ってな。お前もどうだ?」

陽斗「いえ、僕は……」

場面転換。

店員「430円のお返しです」

虎徹「おう」

店員「あ、これ、500円で一枚、福引券が出ますのでよかったら、どうぞ」

虎徹「ありがとう」

スーパーを出る虎徹。並ぶように歩く陽斗。

陽斗「僕は今まで、技術を極限まで磨くことで日本一まで辿り着きました」

虎徹「……」

陽斗「技術であなたに負けたなら納得できます。けど、あなたの麻雀は運任せだ。そんな打ち方で5年も無敗だなんて信じられません」

虎徹「懐かしいな……」

陽斗「え?」

虎徹「悪いが、俺の麻雀は運なんかじゃない。それがわからないうちは、お前は俺には勝てない」

陽斗「……あれが、運じゃない?」

虎徹「サービスだ。見てろ」

虎徹が立ち止まる。

虎徹「おう、福引券一枚だ」

店員「はい、どうぞ」

虎徹「(大声で)うおおお! 俺の強運よ、右手にやどれー! 一等の、ハワイ旅行をこの手にー」

ガヤ「お? なんだなんだ?」

人が大勢集まってくる。

虎徹「いくぞー!」

ガラガラを回す虎徹。そして一個球が出る。

ガヤ「おお……金色だ。すげえな、おっさん。言った通り、一等だぞ」

虎徹「いよっゃー!」

店員「え? そんな! い、イカサマだ!」

虎徹「……兄ちゃん。なんで、そう思う?」

店員「……い、いや、それは……」

虎徹「じゃあ、一等のハワイ旅行、いただきだな」

店員「くっ!」

場面転換。

虎徹と陽斗が並んで歩く。

虎徹「どうだ、わかったか?」

陽斗「……単なる強運じゃないですか」

虎徹「はあ……。いいか。あの福引、一等なんか入ってないんだ」

陽斗「で、でも実際に……」

虎徹「ありゃ、俺が作った玉だ。回すタイミングで、仕込んでた玉を落とした。で、実際のガラガラからは玉が出ないように回すのは技術だ」

陽斗「じゃあ、イカサマ……」

虎徹「ああ。店員の方はすぐにわかっただろうな。なぜなら、入ってないはずの一等の玉が出たんだ」

陽斗「それなら、店員はイカサマだって言えば……」

虎徹「どう言う? 一等の玉は入っていないはずなのに、出たからイカサマだってか?」

陽斗「あっ……」

虎徹「そう。たとえ、イカサマだってわかっても、店員は受け入れるしかない」

陽斗「……ちょっと待ってください。じゃあ、さっきの麻雀も? でも、どんなイカサマを?」

虎徹「他の2人と卓の下で牌を交換してた」

陽斗「いや、あの2人は店長が選んで……」

虎徹「マスターもグルなら?」

陽斗「……」

虎徹「ついて来い。もう一つ、面白いものを見せてやる」

場面転換。

陽斗「ここは……?」

虎徹「裏の賭博場ってところだな。ここの面白いところは、賭けをやるもの同士がどんな勝負をするかを決められる。で、それを決めた上で、この勝負を見ている奴らが、どっちが勝つかを賭けるんだ」

陽斗「そんなこと、違法じゃ……」

虎徹「だから、裏だって言ってるだろ。っと、来たぜ。今日の俺の対戦者だ」

仁「……勝負の方法はあんたに任せる」

虎徹「随分と自信満々だな」

仁「俺は生まれついての、豪運がある。どんな相手でも、どんな賭けでも、私が勝つ」

虎徹「じゃあ、お言葉に甘えて。ロシアンルーレットでどうだ?」

仁「あんた、馬鹿か。そんな運任せの勝負、私に勝てるわけがない」

虎徹「俺も運には自信があってね。それに」

バンと銃を撃つ虎徹。

虎徹「……命が掛かってると、すこぶる運が上がるんだ」

仁「……」

虎徹「なんだい? 命が掛かるとさすがに腰が引けるか?」

仁「……受けよう」

場面転換。

虎徹「ルールは説明するまでもないよな。先に当たりを引いた方が負けだ」

仁「……ああ」

虎徹「じゃあ、俺からいくぜ。……って、あんた、今まで命は掛けたことあるかい?」

仁「……」

虎徹「俺は何度もある。これだって、何度もやってきた。突然……バンっ!(引き金を引く音)って、いうことある。こういう緊迫した空気が好きでね。ほら、次はあんただ」

仁「……」

空撃ちが続く。仁、虎徹、仁と交互に撃つ。

虎徹「言うだけあるな。これで、2分の1。この一発で、勝負が決まると言っていい。つまり、俺が当たらなければ、俺の勝ちだ」

仁「……わ、わかっている」

虎徹「じゃあ、いくぜ」

空撃ちの音が響く。

仁「なっ……そんな馬鹿な!」

虎徹「……あんたの番、だぜ」

仁「うう……。そんな! お、俺は……」

カタカタと震えて、銃を握る。

仁「あ、あうう……。俺は……」

キリキリと引き金を引こうとする。

虎徹「もういい」

仁「え?」

虎徹「勝負は決まったんだ。わざわざ、死ぬことはない。そうだろ?」

仁「う、うう……。うわあああ」

虎徹「……」

場面転換。

陽斗「……あれも、イカサマ……だったんですか?」

虎徹「もちろん。銃に入っていたのは空の弾丸だった」

陽斗「え? でも、最初に……」

虎徹「そう。最初に実際に銃を撃つのも肝だ。あそこで、撃つことで、本物だと印象付ける」

陽斗「いや、待ってください。いくら弾が偽物だったとしても、意味はなくないですか? ただ、死なないってだけですよね? 今回はたまたま、最後まで偽物の弾を引かなかっただけで……」

虎徹「いや、引いてたよ」

陽斗「え?」

虎徹「最初の俺の番で引き当ててた。自分は豪運だと豪語するだけあるな」

陽斗「いやいや。それなら、相手だって気づきますよね? 空の弾とは言え、撃ったときに音が違うはず……って、あ」

虎徹「そう。それを誤魔化すためのおしゃべりだ。命をかけた極限状態で、俺の話の中で空弾を撃つ音は聞き分けられない」

陽斗「でも、もし、相手が当たりを引いたら?」

虎徹「そのまま、こっちの勝ちだって言えばいいだろ。こんな勝負に命を懸ける必要はないから、空弾に変えたとか言ってな」

陽斗「それじゃ……」

虎徹「ああ。あの勝負は最初から俺の勝ちが決まっていた」

陽斗「虎徹さん、最後に一つだけ質問させてください。あなたが表舞台から引退する前。つまり、大会ではイカサマは使えなかったはずです。つまり、あなたは技術だけでも日本一のはずですよね。なんで、こんなことを……?」

虎徹「俺も、昔は技術を磨いていた。運なんかに絶対に負けない。運なんか技術で抑え込んでやるってな」

陽斗「え?」

虎徹「3年前の、5回目の優勝の時、俺は天狗になっていた。俺に勝てる奴はいないってな」

陽斗「……」

虎徹「で、調子に乗っていた俺は、さっきのような裏の賭博……裏麻雀に手を染めた。表だけじゃなく、裏でも頂点に君臨しようとしてな」

陽斗「それで、どうなったんです?」

虎徹「そこで、出会ったんだ。強力な運を持つ、あいつに……」

陽斗「……負けたんですか?」

虎徹「ああ。俺の築き上げてきた技術を蹂躙するように、奴は運だけで勝ちを拾っていった」

陽斗「……そんな人が存在するなんて」

虎徹「まさしく、神に愛されてるという言葉がふさわしい奴だ。だから、俺は誓った。必ず、そいつに勝つと。そのためには、普通の技術じゃ到底届かない。必ず勝つという引っ掛け、技術を持って奴を倒す。そして、奴と再び戦うには、勝ち続けるしかないんだ」

陽斗「……」

場面転換。

雀荘のドアが開き、虎徹が入ってくる。

虎徹「うーっす……」

陽斗「待ってましたよ、虎徹さん」

虎徹「お前、なんで……?」

陽斗「リベンジです」

虎徹「だから、やらないって」

陽斗「僕も、その人と戦ってみたいです。虎徹さんを倒して、挑戦します」

虎徹「ったく。10年早ぇ」

ジャラジャラと牌を混ぜる音。

終わり。

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