【声劇台本】良心のせめぎ合い
- 2021.01.19
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:5人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ
■キャスト
宗太(そうた)
相沢 樹(あいざわ いつき)
母親
崇(たかし)
生徒
■台本
母親「宗太! 宗太―! 早く出ないと遅刻するわよ」
宗太「はーい」
ドタドタと階段を下りてくる。
母親「はい、カバン」
宗太「ありがと」
母親「そうだ、カバンに入れといたから、先生にちゃんと渡してね」
宗太「ねえ、お母さん。僕の誕生日のプレゼントなんだけど……」
母親「なあに? 急に?」
宗太「ガオレンジャーのゲームがいい」
母親「……また漫画読んでたわね。別にいいけど、あんたの誕生日、まだ半年も先じゃない」
宗太「だから前借りして買ってほしいんだ」
母親「ダーメ。プレゼントの前借りなんて聞いたことないわよ」
宗太「ねえ、お願い! どうしても欲しいの!」
母親「ダメったら、ダメ! そんなに欲しいならお小遣い貯めて、自分で買いなさい」
宗太「えー、無理だよ!」
母親「って、こんなこと言ってる場合じゃないでしょ! 完全に遅刻じゃない! ほら、さっさと行く!」
宗太「もう! お母さんのケチ!」
場面転換。
学校のチャイム。
宗太が廊下を走る。
宗太「完全に遅刻だー」
ガラッと教室のドアが開き、生徒たちが出てくる。
宗太「うわっ!」
宗太が崇とぶつかる。
宗太が転び、ランドセルの中身をぶちまける。
崇「あ、宗太、ごめん!」
宗太「いや、こっちこそ、ごめん……。って、あれ? みんなどこ行くの?」
崇「一時間目、体育だぞ。宗太も着替えて早く来いよ」
崇が足早に行ってしまう。
宗太「……それなら、カバンの中身拾うの手伝ってよね。まったく」
中身を拾い集める宗太。
場面転換。
教室のドアが開き、宗太が出てくる。
宗太「もう! お母さん、なんで靴下ピンクの入れるかな! 恥ずかしいじゃん!」
走り出す宗太だが、ピタリと立ち止まる。
宗太「あれ? なんだろ、これ。……封筒?」
ガサガサと中身を開ける。
宗太「あ、お金だ。え? なんで? ……」
封筒をポケットに入れる宗太。
場面転換。
教室内。
生徒「あれ? 宗太、今日元気ないな。どうしたんだ?」
宗太「え? そう? そんなことないよ」
ドアが開き、樹が入ってくる。
樹「ほら、みんな座れー。ホームルームするぞー」
生徒たちが椅子に座り教室内が静まり返る。
樹「それじゃ、ホームルームを始める……前に、ちょっとみんなに聞きたいことがあるんだ」
生徒「なんですか?」
樹「崇が給食費を落としたみたいなんだけど、誰か知らないか?」
ドキッと心臓音。
宗太(N)「もしかして……あの封筒のお金って崇くんの給食費……?」
樹「言っておくが、先生はこのクラスに盗んだ人間がいるとは思ってない」
宗太のドキドキという鼓動音。
樹「もし、どこかで崇の給食費が入った封筒を拾ったら、先生のところへ持ってきてほしい」
宗太(N)「どうしよう……。先生に渡す? ……でも、あのお金があれば、ゲームが買えるんだ……」
樹「みんな、これだけは覚えていてほしい。もし、お金を拾ったとする。今まであんまり手にしたことのない金額だ。それがあれば好きな物が買えるかもしれない」
宗太の心臓の鼓動が高鳴っていく。
樹「買ったときは、満足感が得られるかもしれない。だが、その後、それ以上の罪悪感が襲ってくるだろう」
宗太(N)「……うう、どうしよう。手を上げるべきかな。……でも、どうしてもゲームがほしいんだ」
樹「その罪悪感は消えることはない。ずっと胸の奥に刺さり続ける。先生はお前たちに、そんな思いはして欲しくないんだ」
宗太(N)「うう……。どうしよう、どうしよう! どうしよう!」
樹「先生はお前たちの良心を信じてるからな」
宗太(N)「ゲーム、ゲーム、ゲーム!」
場面転換。
チャイムの音。
生徒たちが下校していく。
廊下を歩く、宗太。
宗太「……これがあれば、ゲームが買える。でも……こんな気持ちでゲームやっても……楽しく……ないよね」
宗太が走り出す。
場面転換。
職員室のドアを開く、宗太。
宗太「相沢先生」
樹「おお、宗太か。どうした?」
宗太「先生……これ……」
宗太が樹に封筒を渡す。
樹「ああ、給食費の封筒か」
宗太「……その、ご、ごめんな……」
樹「よし、これで、全員分、揃ったな」
宗太「え?」
樹「宗太の分で最後だったんだよ」
宗太「いや、それ……崇くんの……」
樹「ああ、崇の奴、給食費の封筒、家に忘れてたんだってさ。さっき、崇のお母さんが届けてくれたんだよ。ホント、あいつは人騒がせな奴だよ」
宗太「……で、でも、その封筒……」
樹「ん? 封筒がどうかしたか? お前の名前書いてるけど……」
宗太「……え?」
場面転換。
帰路を歩く宗太。
宗太(N)「結局、僕はあれだけ欲しかったゲームを手に入れることはできなかった。それに、あのドキドキは僕の勘違いで意味がなかったことだった。だけど……なんだろ。今は、少しだけ気分がすっきりしている。拾ったお金はちゃんと届ける。こんな当たり前のことが、とっても大切だとわかることができたんだ。これからも、僕は正直に生きて行こう!」
ピタリと立ち止まる宗太。
宗太「あ、100円玉だ」
宗太(N)「今、僕には50円のお小遣いが残っている。この100円があればお菓子が買える。ああ、もう、何考えてるんだ! 今、拾ったお金は届けるって決めたばっかりじゃないか。……でも、お菓子も食べたいし。……うう、どうしよう?」
終わり。
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