【声劇台本】シーツの温もり
- 2021.02.01
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:3人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
旭(あさひ)
良二(りょうじ)
琴葉(ことは)
■台本
琴葉「こんにちは、旭くん。今日からあなたのお母さんになるのよ。本当のお母さんのように、気兼ねなく接してね」
場面転換。
旭「よっしゃー! 今日から一人暮らしだー!」
ピンポンとチャイムが鳴る。
旭「ん? 誰だ? はーい」
ガチャっとドアを開ける旭。
良二「よお、旭! 様子見に来たぜ」
旭「ああ、良二か。まあ、上がれよ」
良二「おう、お邪魔しまーす」
靴を脱いで中に入る良二。
良二「てか、お前。テンション上がり過ぎだ。外まで声聞こえたぞ」
旭「げ、マジで? 苦情来たらやべえな」
良二「おお! 部屋、結構、広いな」
旭「いや、たぶん、まだ何もないからだと思う。家具とか来たら、大分狭くなると思う」
良二「なるほどなー。でも、ま、これでお互い自由な生活を手に入れたってわけだ」
旭「まーな」
良二「にしても、よく、おばさんが許したよな、お前の一人暮らし」
旭「最初は大分反対されたけどな。けど、家からだと絶対に通えない距離だし、親父を巻き込んで何とか説得したよ」
良二「……というか、一人暮らしするためにこの大学選んだんだろ?」
旭「……やっぱ、お前にはバレてたか」
良二「バレバレだっつーの。……そんなに嫌だったのか? 家」
旭「んー。嫌ってわけじゃ……。なんていうかな。居心地が悪いって感じ? とにかく落ち着かないんだよ」
良二「そんなもんかね。6年もたてば慣れるもんじゃねーの?」
旭「慣れないよ。お前だって、他人が家にいたら嫌な感じするって」
良二「いや、他人って……。母親だろ」
旭「例えだよ、例え。でも、この先もずっと琴葉さんを母さんとは呼べないだろうな」
良二「呼んでやれよ。そう思ってなくてもさ」
旭「嫌だよ。俺の母さんは一人だけだ」
良二「ふーん。まあ、そこの部分は他人の俺がどうこう言えるところじゃないからな。あ、そうだ、旭。ちょっと町を探検してみねえ?」
旭「お、いいねー。家具以外にも色々、欲しいものがあるからさ」
良二「よし、じゃあ行こうぜ!」
場面転換。
ゲームの音。
旭「お、よし! クリア!」
ピンポンとチャイムが鳴る。
ゲームを続ける旭。
旭「はーい」
良二「旭、俺!」
旭「開いてるー」
ガチャリとドアが開いて良二が入ってくる。
良二「お前、鍵くらい閉めろよ、不用心だな」
旭「いや、お前が来るっていうから開けておいたんだよ。だから、鍵閉めておいてな」
良二「まったく……」
良二が鍵を閉め、部屋に入ってくる。
良二「うおっ! お前……一か月で見事に部屋の中、ヤバい状態になったな」
旭「うっさいなー。男の部屋なんてこんなもんだよ、こんなもん。お前の部屋だってそうだろ?」
良二「いや、さすがにここまでじゃねーよ。ってか、お前、実家の時はもっと部屋綺麗だったじゃねーか」
旭「……あれは、汚してると琴葉さんに掃除されるからだよ。だから、最低限、綺麗にしてたんだよ」
良二「なら、ここでもそうすればいいんじゃね?」
旭「あのなー。せっかくの一人暮らしなんだぞ。やりたいようにやるっての」
良二「はいはい。わかったよ。てか、そろそろ行かねーと講義に遅れるぞ」
旭「げ、ホントだ!」
コントローラーを置き、テレビを消す。
良二「おいおい、ゲームの電源はつけっぱかよ?」
旭「セーブできるところがまだ先なんだよ!」
良二「お前……。ま、いいや。行こうぜ」
旭「おう」
バタバタと部屋を出ていく二人。
場面転換。
旭「ごほっ! ごほっ! はあ……はあ……。うう……本格的にヤバいかも……」
携帯に着信が入る。
旭「……もしもし? ああ、琴葉さん。どうしたの? ……ん? ちょっと風邪ひいた。……いや、いいよ。大げさだなぁ。病院? うーん。まあ、ヤバくなったら行くよ。……ん? 夏休み? いや、たぶん、帰らない。特別講義があるから、無理なんだ。……え? いや、ごめん。来ないで。……うん、うん。大丈夫。……わかった」
ピッと電話を切る旭。
旭「はあ……」
ピンポンとチャイムが鳴る。
旭がのそのそと起き上がり、ドアを開ける。
良二「おう。調子どうだ……って、最悪みたいだな」
旭「ああ……。まあ、入れよ」
二人が部屋に入る。
良二「病院行けば?」
旭「金ない」
良二「……何に使ったんだよ?」
旭「……ファイナルクロス3」
良二「お前、ゲームばっかだな……。で、飯はちゃんと食ってんのか? 大分痩せたぞ」
旭「食ってるよ。この前のセールで大量にカップ麺とインスタントラーメン買ったから、なんとか凌げてる」
良二「……治らんわけだ。金貸してやるから、病院行くか、栄養あるもの食えよ」
旭「いや、いい。さっきも琴葉さんから言われて、断ったところだ」
良二「こういうときくらい、頼れよ」
旭「……ごほ、ごほ、ごほ!」
良二「お前……一人暮らしになってから、ホント、ダメ人間になったな」
旭「うるせえ……」
良二「……何か栄養の付くもん買ってきてやっから、お前は着替えて寝てろ」
旭「すまん……」
良二が部屋を出ていく。
旭「ごほ、ごほ、ごほ……。うう、着替えるか……」
ガサガサとタンスを漁る旭。
旭「くそ、洗濯してねえから、着れるもんがねえ。しゃーない。スエットを着まわすか」
ごそごそと着替える旭。
旭「……確かに汚ぇ部屋だよな。そりゃ、体調も悪くなるっての……」
ドサッとベッドの上に座る。
旭「……ん? あ、マット汚れてる……。シーツひいとけばよかったな……。ごほ、ごほっ! ……シーツか」
場面転換。
良二「食欲ないと思って、おかゆとスポーツドリンクと、薬買ってきたぞ」
旭「すまん……」
良二「台所借りるぞ……って、うお! えらいことになってるな……。しゃーない、電子レンジで温めるか」
旭「……なあ、良二。俺さ、他人がいるから家の中、居心地悪いって言っただろ?」
良二「ん? ああ、言ってたな」
旭「今、考えてみたらさ、琴葉さん、俺のために色々やってくれてたんだなって思うよ」
良二「……」
旭「黙ってても、美味しいご飯が出てきて、洗濯機に入れておけば、洗濯してくれて、畳んでタンスに入れてくれてた」
良二「……」
旭「風邪ひけば、心配して看病してくれたし……なによりさ、家にいたときは……寂しいって感じなかった。それにさ、今、ようやく気付いたんだけど、家にいたとき、いつもシーツがパリッとしてたんだ」
良二「パリ?」
旭「洗濯するだけじゃなくって、アイロンもかけてくれてたんだなって。寝るときさ、新しいシーツになってたときは、パリッとしてて気持ちよくて……そして……温かかった」
良二「そっか……」
旭「琴葉さん、俺のために色々、してくれてたんだな……」
良二「それが、母親だろ?」
旭「……そうだな」
場面転換。
電話のコール音。
旭「もしもし? 俺、旭。……あ、うん。えっとさ、夏休みなんだけど……やっぱ、帰ろうかなって思って。……大げさだなぁ。そこまで喜ぶことじゃないでしょ。……あ、あとさ……その……帰ったら色々と話たいんだ。今までの分、たくさん。……え? そ、そりゃ……母さんと、だよ。……もう、泣くことないじゃん。……それじゃ、夏休み、楽しみにしてるね」
終わり。
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