【声劇台本】不思議な館の亜梨珠 思い出写真

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■概要
人数:1人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス

■キャスト
亜梨珠(ありす)

■台本

亜梨珠「あら、いらっしゃい。そろそろ来る頃だと思ってたわよ。今日も話を聞きにきたんでしょ?」

亜梨珠「え? いつものは言わないのかって?」

亜梨珠「……もう。言ったら言ったで、毎回言わなくていいんじゃないかって言うくせに。面倒くさい人ね、あなたって」

亜梨珠「亜梨珠の不思議な館へようこそ。これでいい?」

亜梨珠「さてと、それじゃ、始めましょうか。今日はある富豪の話を……」

亜梨珠「え? 最近の話は全然、不思議じゃない? もっと変わった話を聞きたい?」

亜梨珠「そう言われてもね……。不思議なことなんてそうそうないから、不思議なのよ?」

亜梨珠「……はあ。そんな残念そうな顔しないでよ。ちょっと待って。今、色々、記憶を探ってみるから……」

亜梨珠「あっ、記憶と言えば……」

亜梨珠「あなたは写真とかはよく撮ったり、見たりするかしら?」

亜梨珠「今は、スマホで簡単に撮れるようになったわよね。写真だけじゃなくて、動画まで撮れるようになったんだから、世の中の進歩は凄いわ。私、この前、スマホのデータがいっぱいになって……」

亜梨珠「え? あ、いけない。話が逸れたわ」

亜梨珠「今回のテーマは写真よ。真実を写すと書いて、写真。昔なんかじゃ、写真を撮ったら魂が取られる、なんてことも信じられていたようね」

亜梨珠「真実を写す……。じゃあ、果たして、真実ってなにかしらね?」

亜梨珠「なるほどね。ありのままをそのまま映すから真実ってわけね」

亜梨珠「それじゃ、記憶の中の映像は真実になると思うかしら?」

亜梨珠「この話を聞いて、考えてみて」

亜梨珠「昔々……っていっても、そこまで昔じゃなくて、数年前のこと。おばあちゃん子の男の子がいたの。その男の子はすごくおばあちゃんに懐いていて、毎日、おばあちゃんの家に遊びに行っていたらしいわ」

亜梨珠「え? 一緒に住んでなかったのかって? そうね。そのおばあちゃんは絶対に男の子と一緒に住もうとしなかったらしいわ。……ううん。別に、その男の子が嫌いってわけじゃないわ。逆ね。その男の子のことが大事だからこそ、一緒に暮らさなかったんだと思う」

亜梨珠「その男の子の中のおばあちゃんは、すごく優しくて、自分を可愛がってくれた、大切な人だったらしいわ」

亜梨珠「でも、ある日、そのおばあちゃんは突然、亡くなってしまったの。……病気とか、事故とかじゃなく……他殺よ」

亜梨珠「そのおばあちゃんはかなりの資産家だったらしく、金貸しとかもやっていたみたいなの。それも結構、あくどいこともしてたようよ」

亜梨珠「だから、恨みを買って……ってわけね」

亜梨珠「おばあちゃんが、その男の子と一緒に暮らさなかったという理由も、男の子に危害が及ばないようにした配慮だったんだと思うわ」

亜梨珠「本当は会わないのが一番、その子にとって良かったんでしょうけど、孫の顔を見たいという思いに負けたんでしょうね」

亜梨珠「とにかく、その男の子は、親愛の人を亡くして、随分と落ち込んだらしいわ」

亜梨珠「でもね、そのおばあちゃんの葬儀で親戚たちは、まるでお祝いのように喜んでいたらしいわ」

亜梨珠「身内だからといって、絶対にお金を出したりはしなかったみたいで、さらに身内に貸すお金にも利子を取ってくらいなの。……まあ、それは恨まれるわよね」

亜梨珠「男の子が泣き続ける中で、親戚たちはおばあちゃんの悪口を言い、亡くなったことを心底喜んでいた。そのことが、男の子には信じられなかった」

亜梨珠「まるで別人の人のことを言っているように聞こえたみたいよ」

亜梨珠「大好きなおばあちゃんが、優しい人だったなんてことは誰一人言わない。逆におばあちゃんは悪魔のようだったと、悪事を働いていたことを男の子に話して聞かせてくるの」

亜梨珠「その男の子は必死に、おばあちゃんが優しい人だったと言うけど、それは偽物……裏側の顔だったと言われたらしいわね。それでさらにひどい話を聞かせてくるの」

亜梨珠「そんな話を聞いていくうちに、男の子の中の、おばあちゃんとの思い出がドンドンと消えていくのを感じたらしいわ」

亜梨珠「でも、その男の子は絶対に忘れたくなかった。優しい大好きなおばあちゃんのことを忘れたくなかったの」

亜梨珠「でもね、時間が経つにつれて、男の子の中からおばあちゃんの記憶はなくなっていく。そして、顔さえもおぼろげになっていくことに恐怖したらしいわ」

亜梨珠「だから、おばあちゃんの顔を忘れないように写真を探そうと思ったの」

亜梨珠「だけどね、おばあちゃんは全くと言っていいほど、写真に写っていなかったの。恨まれていることを自覚してだったのか、それとも、案外、写真を撮ると魂が抜けるっていうのを信じていたのかもね」

亜梨珠「男の子はさらに絶望したわ。このままじゃ、おばあちゃんの記憶がなくなってしまうって」

亜梨珠「そんなときに、男の子はある占い師から、不思議なカメラを貰うの」

亜梨珠「そのカメラというのが、思い出を写し出すというものだったらしいわ」

亜梨珠「その男の子は喜んで、たくさんの写真を撮ったわ」

亜梨珠「薄れていくおばあちゃんとの思い出を必死に思い起こし、優しいおばあちゃんとの思い出を写真に残していったわ」

亜梨珠「その写真のおばあちゃんはどれも優しく微笑んでいたの。その写真を見ながら、その男の子は思ったわ。みんなが言うおばあちゃんの姿こそが偽物なんじゃないかって」

亜梨珠「そこでね、この写真を親戚のみんなに見せようと考え付いたらしいわ。おばあちゃんはこんなに優しかったんだって、いつも笑顔だったんだって」

亜梨珠「みんなにも、おばあちゃんを好きになってほしかった……。この写真を見れば、みんなわかってくれる。そう思って、写真を持って親戚のところへ行ったの」

亜梨珠「そして、写真を見せたところ……。やっぱり、あのおばあちゃんは悪魔だと言われたらしいわ」

亜梨珠「その男の子は訳が分からずに、何枚も何枚も、おばあちゃんが笑っている写真を見せたわ。でも、どれも、顔をしかめられるだけ」

亜梨珠「……どうやら、その写真は、その人の思い出が映し出されるものだったの」

亜梨珠「つまり、親戚の人の中には、悪魔のような顔をしたおばあちゃんの思い出しかなかったわけね」

亜梨珠「親戚の人たちは、こんな胸くそ悪い写真は捨ててしまえと言ったらしいんだけど、その男の子は捨てずに、今でも大切に持っているらしいわ。その男の子の中の、真実が写ったおばあちゃんの写真をね」

亜梨珠「これでお話は終わりよ」

亜梨珠「どうかしら? 真実なんてものは見る人によって変わるものなのかもしれないわね」

亜梨珠「例え、同じ写真を見たとしても、その人の持ってる印象で全然違うように見えることだってあるかもしれないわ」

亜梨珠「真実というのは、その人にとっての真実なだけで、他人から見ると偽物になってしまうこともあるのかしらね」

亜梨珠「どう? 今回は少しだけ、不思議な話だったでしょう?」

亜梨珠「少しは満足してくれたかしら?」

亜梨珠「それじゃ、今日はこれでおしまい」

亜梨珠「よかったら、また来てね。さよなら」

終わり。

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