【声劇台本】ピンクの夕日

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■概要
人数:4人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
橘 楓花(たちばな ふうか)
恵茉(えま)
その他

■台本

楓花(N)「最初はただ楽しかった。褒められるのが嬉しかった。ただ、それだけ……」

楓花、恵茉、共に幼少期。

楓花「よし、できたよ、恵茉ちゃん!」

恵茉「うわー! 楓花ちゃん、おもしろーい! ピンク色の夕日だ!」

楓花「えへへ。夕日ってさ、赤だと、なんか寂しいじゃない? だから、明日も楽しみになるようにってことで、ピンクにしたの」

恵茉「うん。すっごいきれー!」

場面転換。

楓花が中学生に成長。

教師1「橘。お前の絵は、デッサンがいいのに、色遣いがな……。さすがに木の色が青色というのはどうかと思うぞ」

楓花「いやいや、先生。これは絵なんですよ。普通の色じゃ面白くないじゃないですか。現実ではないものを描く。それこそが絵画の面白さだと思いますよ」

教師1「いいか、橘。絵というものは人に見せるものだ。つまり、人の心を動かしてこそ、価値があるものなんだぞ。お前の絵は、たんなる独りよがり。もう少し、見た人がどう思うかを考えて描いてみろ」

楓花「うーん。私、別に評価されるために描いてるわけじゃないんだよなぁ。ねえ、恵茉、これいいと思うよね?」

恵茉「うん。私は楓花の絵、好きだよ」

教師1「おいおい。そうやって、田代が甘やかすから変な色使いをやめないんだぞ」

楓花「面白いからいいじゃないですか」

教師1「はあ……。技術力があるのに、勿体ないな」

場面転換。

楓花が高校生に成長。

教師2「た、た、橘! お前の絵がコンクールで最優秀だ! 審査員の先生たちも大絶賛だ!」

楓花「はあ……」

教師2「いや、はあって……。嬉しくないのか?」

楓花「うーん……」

恵茉「よかったね、楓花。私は楓花の絵が評価されたのは、すっごい嬉しいよ」

楓花「え? そう? じゃあ、嬉しいかな」

教師2「……嬉しいと思うタイミングがおかしいぞ、橘」

楓花(N)「それからは、私の絵は注目されるようになり、コンクールに出してはいつも最優秀賞をとるようになっていた」

場面転換。

乾杯する音。

恵茉「かんぱーい!」

楓花「かんぱーい!」

恵茉「おめでとう、楓花。またまた最優秀賞だね」

楓花「ありがとう。でもさー、あんまりおだてられても、なんかくすぐったいんだよね。好き勝手描いてるだけなのに」

恵茉「それがいいんじゃないの? 現代のピカソって言われてるくらいだもん」

楓花「うーん。あんまり期待されても……。最近は早く次を描けって急かされてるみたいで、なんか嫌な感じ」

恵茉「噂だと、個展を開催しようって話だよ。だから、もう少し枚数が必要なんじゃないかな」

楓花「個展かぁ……。別にいいのになぁ」

恵茉「こらこら、光栄なことなんだから、喜びなさい」

楓花「はーい」

楓花(N)「大学生になった頃、私の個展も開かれ、大盛況となった。いつの間に、私は先生と呼ばれるようになり、周りからの期待も高まっていった……」

場面転換。

男性1「橘先生、次の個展の話なんですけど……」

楓花「そう言われても、来月は大学のレポートを提出しないといけないですし、あんまり時間がないんですよね」

男性1「あの……失礼ですが、どうして大学を辞めないんですか?」

楓花「いや、どうしてって……」

男性1「大学は勉強する場所ですよね? でも、橘先生はもう大学で学ぶべきことはないと思います。画家として、集中した方がいいんじゃないですか?」

楓花「べ、別に大学は絵の勉強だけじゃなくて、他のことも学ぶ場だと思いますけど」

男性1「先生、いいですか! あなたは100年に一人と言われる天才です! あなたの才能は絵の世界に一石を投じる……いえ、変革をもたらせるほどなんですよ。……先生にはその責任があります。もっと、絵に集中してください」

楓花「で、でも……」

男性1「今の画家全員が、望んで望んで望んで、望み続けて、それでも届かない場所にいるんです。全世界の画家の想いを背負っていることを忘れないでほしいんです」

楓花「……」

楓花(N)「その後も、色々な人から説得され、私は大学を中退することにし、絵に専念することになった……」

場面転換。

楓花「……ここは、紫……いや、藍色かな」

バンと勢いよく、ドアが開く。

男性1「橘先生! フランスの美術館から個展を開かないかって打診がありました」

楓花「え? 本当ですか?」

男性1「ええ! しかも、かなり大規模に宣伝をうってやるみたいですよ。いやー、ついに橘先生も、一般の人たちに知れ渡ることになりますね。今までは絵の関係者では知らない人はいないって感じですけど、今回の個展が成功すれば、普通の人にも名前が轟きますよ」

楓花「……そっか。じゃあ、気合を入れて描かないと、ですね」

男性1「はい! 期待してます!」

楓花(N)「個展も大成功に終わり、今や時の人になった。絵画ブームになったこともあり、世界で有名な日本人にも挙げられるほどだ」

場面転換。

楓花「……灰色? いや、それじゃインパクトが足りない。んー、もっと奇抜な色にしないと……山吹色? 違う、違う、違う!」

キャンパスを床に叩きつける楓花。

楓花「あー、もう!」

楓花(N)「世間は、私にドンドンと奇抜な絵を求めてきた。私はそれに応えるため、常に奇抜なものを描き続けていった。どうすれば奇抜になるか、どんな色の組み合わせなら、変わったものになるか、そればっかりを考えるようになっていった」

場面転換。

楓花「……青と灰色を組み合わせて、そこからオレンジを」

コンコンとノックする音。

ドアが開いて恵茉が入ってくる。

恵茉「久しぶりだね、楓花」

楓花「恵茉……。悪いけど、今は集中したいの。話してる時間が無いんだ。帰ってくれないかな」

恵茉「ううん。帰らない」

楓花「え?」

恵茉「ねえ、楓花。今、楓花はなんのために絵を描いてるの?」

楓花「なんのためって……そりゃ、みんなの期待に応えるためだよ」

恵茉「あー、やっぱりね」

楓花「……なにが?」

恵茉「今の楓花の絵、面白くないよ」

楓花「え?」

恵茉「いいじゃない。他の人からどう思われても。楓花が楽しければ、それでいいんじゃない?」

楓花「で、でも……私、みんなの期待を裏切るわけには……」

恵茉が楓花を抱きしめる。

恵茉「そんなのどうでもいいよ。他人の想いなんか、背負う必要なんてない。楓花は楓花なんだから。楓花は自分の為に絵を描けばいいんだよ」

楓花「でも、でも……」

恵茉「私ね、楓花の絵、好きだよ。世界中の人たちが変って言ったとしても、私はずっと楓花の絵を好きだから」

楓花「う、うえーーーん!」

楓花(N)「すっと体が軽くなった気がした。それからは、私は自分が面白いと思う絵を描き続けた。絵画ブームも終わったこともあり、いつしか世間で私の名前が出ることはなくなった。個展を開いたとしても、ごくごく小規模でやる程度だ」

場面転換。

楓花「見て見て、恵茉! できたよ!」

恵茉「懐かしいね、ピンクの夕日」

楓花「ふっふっふ。昔の私とは違うよ! ほら、ここ! 緑の太陽がワンポイントなの!」

恵茉「あははは! 面白いね」

楓花「えへへへ。そうでしょ?」

楓花(N)「例え、私の絵に誰も興味を示さなくなったとしても、きっと恵茉だけは、私の絵を見続けてくれる。それだけ、私は満足なんだ」

終わり。

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