【声劇台本】不治の病

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■概要
人数:2人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ

■キャスト
雨宮 さくら(29) 会社員
川岸 七海(29) さくらの親友

■台本

ピンポーンとインターフォンを押すさくら。

さくら「さくらだけど」

七海「……動けないから入って来てー」

さくら「もう……」

カギを出してロックを解除してドアを開ける。

部屋に入るさくら。

さくら「七海、体調はどう?」

七海「最悪……」

さくら「ちゃんと食べてるの? ちょっと痩せたんじゃない?」

七海「マジで? ラッキー」

さくら「この状態で喜ぶところじゃないから。……その様子だと食べてないでしょ? いろいろ買って来たから、少しは食べたら?」

さくらが、物がたくさん入った袋をテーブルの上に置く。

さくら「軽いものがいいでしょ? おかゆとか、うどんとか買ってきたけど」

七海「ありがとう。でも……ホント食欲ないんだ」

さくら「本当に辛そうだね。病院には行った?」

七海「うん……。一応」

さくら「なんて言われたの? 風邪? まさかインフルエンザとかじゃないよね?」

七海「それが……原因がわからないって」

さくら「え? それって、なんか難しい病気……とか?」

さくら「わかんない……。ねえ、さくら。私……死ぬのかな?」

さくら「ば、馬鹿言わないでよ。あんたみたいな子はホラー映画じゃない限り、一番しぶとく生きるタイプなんだから」

七海「でも……今回ばっかりは無理かも」

さくら「弱気になったらダメだよ。ほら、病は気からって言うでしょ?」

七海「う、うん……」

さくら「本当に何か口に入れた方がいいよ。おかゆとかが嫌なら、甘いものは? ……ほら、チョコも買って来てあるよ。少しでも食べれない?」

七海「チョコ……。ううう……」

さくら「え? 七海? どうしたの?」

七海「急に胸が苦しくなって……」

さくら「だ、大丈夫!? 救急車呼ぶ?」

七海「ううん……。平気だよ。……しばらくしたら治るから……」

さくら「本当に? 無理しちゃダメだよ。……あ、病院から何かお薬とかもらって来てないの?」

七海「ううん……。薬は出してくれなかった」

さくら「え? そ、そうなの……?」

七海「私も出して欲しいって言ったんだけど……原因がわからないから、出せないって」

さくら「そうなんだ……」

七海「ふう。なんとか治まってきた」

さくら「本当に辛そうだね」

七海「こんなこと初めてだよ」

さくら「ねえ、違う病院に行ってみようよ。もしかしたら、原因がわかるかもしれないし」

七海「もう5軒くらい行った」

さくら「え? じゃあ、5つの病院に行っても、原因がわからなかったってこと?」

七海「うん……」

さくら「……」

七海「さくら……。今、こいつ、もう駄目だって思ったでしょ?」

さくら「え? そ、そんなこと、ないよ」

七海「いいんだよ。どうせ、先も短いんだし、正直に言ってよ」

さくら「七海……。私、ちゃんと最後まで一緒にいてあげるからね」

七海「……どうせなら、イケメン男子がいい」

さくら「……あんた、本当にブレないわね」

七海「あーあ、結婚……したかったな。……うっ!」

さくら「え? ど、どうしたの? また、発作?」

七海「う、うん。うう……」

さくら「しっかりして。深呼吸して、深呼吸」

七海「すーはー、すーはー。……あ、大分楽になってきたよ」

さくら「よかった。……ねえ、七海。この発作って定期的に起きるの?」

七海「ううん。結構、バラバラだよ」

さくら「一日、何回くらい?」

七海「10回以上起きるときもあれば、起こらない日もあるよ」

さくら「そっか……。胸が苦しい以外にはどんな症状があるの?」

七海「熱が出る……かな」

さくら「どのくらい?」

七海「……39度くらい」

さくら「うわ、かなり高いね。他には?」

七海「朝、起きられない」

さくら「それはいつも通りだね。他には?」

七海「仕事、する気が起きないの」

さくら「それもいつも通りね。他は?」

七海「彼氏欲しい」

さくら「うん。それは症状じゃなくて、希望だね。……ってことは、熱と胸が苦しくなるってことか。心臓病かな? どんな風に痛むの?」

七海「こう……ぎゅーって締め付けられる感じ」

さくら「熱は? ずっと下がらない?」

七海「ううん。熱も上がったり、下がったりだよ。……あ、でも大体、熱が上がった時に胸も苦しくなるよ」

さくら「ということは、熱と胸の苦しさは一緒ってことだね。いつ頃から?」

七海「んー。二週間前から」

さくら「二週間前ってことは……2月14日くらいからか。その前の日に何か変わったことなかった? 例えば、いつもと違うところに行ったとか、変わったものを食べた、とか」

七海「たくさん、チョコを食べた」

さくら「は? チョコ? なんで?」

七海「うっ! 胸が……」

さくら「え? 発作? 大丈夫? 深呼吸して」

七海「すーはー、すーはー。うん、少し楽になったよ。えっと、なんでチョコを食べたか、だよね?」

さくら「いいよ。無理して話さなくても」

七海「ううん。原因がわかるかもしれないんだもん。頑張って話すよ。えっとね、バレンタインデーだったから、チョコをたくさん作ったの」

さくら「……ああ、14日だから、バレンタインか」

七海「でね、色々な人に渡そうとしたんだけど受け取って貰えなかったの。お前のチョコって、何か重そうって理由で」

さくら「そ、そうなんだ……。って、もしかして、そのショックで、とか?」

七海「ううん。違うと思う。毎年のことだから。……で、誰にも受け取って貰えなかったから全部、自分で食べたの」

さくら「わかってるなら、大量に作らなきゃいいのに。ということは、チョコを大量に食べたからってわけでもなさそうね。他に変わったことなかった?」

七海「……うーん。あっ!」

さくら「何か思い出した?」

七海「えっとね。後輩が、先輩にチョコを渡すときに告ったんだよ。そしたら、先輩もその後輩が好きだったらしくて、付き合うことになったんだ」

さくら「まさか、それがショックだった、とか」

七海「ううん。先輩はそこそこ顔がいいけど、年収が低いんだよね」

さくら「……あんた、選べる立場じゃないでしょ」

七海「でもね、そのとき、思ったんだ」

さくら「なにを?」

七海「私も恋がしたい! って」

さくら「いつもでしょ」

七海「違うよ! いつもは彼氏が欲しいってだけだもん」

さくら「そこがイコールになってないのがおかしいよ……」

七海「その時からだよ。発作が始まったのは」

さくら「……ねえ、あんた、チョコを見たときに発作が起こってたよね」

七海「ああ、言われてみれば」

さくら「……あのさ。発作が起きるときって、恋のことを考えてるときじゃない?」

七海「……あ、そう言われればそうだよ! 凄い! よくわかったね、さくら! エスパーかよ!」

さくら「七海。あんたの病気、なにかわかったよ」

七海「え? ホント? なになに?」

さくら「恋煩いだよ」

七海「でも……私、今、恋なんてしてないよ?」

さくら「……恋に恋してるのよ」

七海「恋に恋してる……。おお! なんか格好いいね」

さくら「いや、そんなのにかかるのは、中学生くらいじゃないかな……」

七海「ってことは、乙女の心を持ってるってことだね! 体は大人! 心は乙女!」

さくら「頭脳は小学生だね」

七海「いやー、原因がわかったら、なんかスッキリした! よーし! ガンガン恋するぞー!」

さくら「……」

七海「なんか元気出てきたら、お腹減っちゃった。買って来てくれたもの食べていい?」

さくら「はあ……。心配して損した……」

終わり。

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