【声劇台本】吊り橋効果

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■概要
人数:2人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ

■キャスト
栞菜(かんな)
徹平(てっぺい)

■台本

獣の唸り声が低く響く。

獣「グルルル……」

栞菜「て、徹平。ここは男の見せどころよ。身を挺して、か弱い私を守りなさいよ」

徹平「いや、待て。栞菜の肉の方が柔らかいから、お前の方を襲うはずだ。お前が食われている間に、俺が逃げ切った方が得策だ」

栞菜「はあ? 何言ってんの!? っと、サイテー! 自分が助かることしか、頭にないわけ?」

徹平「ったりまえだろ! 人間は……いや、生き物ってやつは自分の命が一番大事なんだよ! お前の為に死ぬなんて、まっぴらごめんだね!」

栞菜「映画とかだと、男が身を犠牲にしてヒロインを助けるのが王道じゃない!」

徹平「悪いな。これは現実だ」

栞菜「死ねっ!」

徹平「お前こそ!」

獣「ガアアアアア!」

栞菜・徹平「ぎゃーーーー!」

場面転換。

栞菜(N)「それは一週間ほど前に遡る。何気なく引いた福引で1等が当たり、なんと南の島のバカンスの旅なるものに参加することになった。本当は母親と一緒に行くはずだったが、急な用事のため、私一人で旅行に行くことになった。一人だったとしても楽園で気ままな生活が待っていると思うと胸が躍ったものだ。けど、人生は山があれば谷あり。元々くじ運がない私が福引で1等なんて当てた代償は、飛行機が墜落するという不幸によって払わされた。……いや、どう考えても山の高さよりも谷の方がダントツに深いだろって感じなんだけど、五体満足で助かったことを考えれば、相殺になるのかもしれない。とにかく、私は飛行機墜落からの無人島に漂流という、ある意味テンプレート的な展開に巻き込まれたのだった」

栞菜「よかったー。こんな島で、一人で過ごすなんて不安で仕方なかったのよ」

徹平「流れ着いたのは俺たち二人だけみたいだな。落ちた場所からはそんなに離れてないみたいだし、何日か我慢すれば助けにくるはずだ」

栞菜「そうだよね。うん。大丈夫。私、悪運だけはいいから、絶対助かるはず」

徹平「この状況で前向きに考えれるメンタルの強さは凄いな」

栞菜「でもさ、2人だけでよかったよ」

徹平「ん? なんでだ?」

栞菜「ほら、こういうとき、大人数で無人島とかに着いちゃうと、大体、8割くらいは犠牲者が出るものでしょ?」

徹平「……いや、それは映画の見過ぎだと思うぞ」

栞菜「でも、ほら、2人だと大体は助かるパターンが多いものよ」

徹平「まあ、映画で言うとそうだな」

栞菜「……あ、あのさ。ほら、こういうのってさ……」

徹平「ん?」

栞菜「危機的状況から助かったヒーローとヒロインってさ、最後は……その……付き合うことになるじゃない? そ、そういうの、あると思う?」

徹平「ああ。吊り橋効果ってやつだな。けど、ああいうのって、元の生活に戻ったら分かれる率が高いらしいぞ。よくある、ひと夏の思い出ってやつがそうらしい」

栞菜「……リアルを叩き付けないでよ。盛り下がるわ」

徹平「でも、ま、助けが来るまでは2人で協力して生きていこうぜ。頼れるのはお互いだけなんだからさ」

栞菜(N)「って言ってたくせに!」

場面転換。

栞菜と徹平が走っていて、後から獣が迫る。

栞菜「あ、ダメ! 横腹痛い。限界! 徹平、マジで助けて!」

徹平「うおおおお!」

栞菜「スピード上げただと!」

獣「ガアアアアア!」

栞菜「きゃああああああ!」

場面転換。

栞菜「……」

徹平「おお、生きてたか! よかったよかった。心配したんだぜ」

栞菜「ふんっ!」

栞菜が徹平の腹を殴る。

徹平「うごっ! な、何をする……」

栞菜「死ね、このクズ! 途中で洞穴がなかったら、やられたんだから!」

徹平「た、助かったんだから……いいじゃねーかよ」

栞菜「二度と私に近づくな、クソムシ」

徹平「待てって。一緒にいた方が、生存確率上がるって」

栞菜「上がらねーよ! 現に死にかけたっつーの!」

徹平「いや、俺の」

栞菜「お前のかよっ!」

栞菜(N)「ホント、最低のクズ野郎だ。一瞬でも頼りになりそうって思った私がバカだった。……吊り橋効果なんて嘘だ。正反対だった。現実は非常である。とにかく、それから私たちは微妙に離れて生活を続けて、4日後、無事に救助隊に助けられ、元の生活へと戻ることができたのだった」

場面転換。

街中を歩く栞菜。

栞菜「んー。やっぱり文明は最高だわー。原始的な生活なんて無理無理。さてと、見舞金とかたくさんもらったから、気晴らしに散在するかー」

ピタリと足を止める。

栞菜「同人ゲーム屋か。久々にゲームやろっかな」

お店に入っていく栞菜。

場面転換。

栞菜「えーっと……あ、龍神会の外道だ! 欲しかったんだ、ラッキー」

手を伸ばすと、他の人の手に当たる。

栞菜「あ、ごめんなさい」

徹平「いや、こちらこそ……って、あ」

栞菜「……徹平、貴様、なぜここにいる?」

徹平「いや、お前こそ」

栞菜「学校がこの近くなのよ」

徹平「俺もだ」

栞菜「……言っとくけど、このソフトは渡さないわよ」

徹平「いいよ、別に。お前に譲る」

栞菜「何企んでるのよ?」

徹平「いや、ゲームソフト一つで、企みもクソもないだろ。違うゲーム買うだけだって」

栞菜「あんた、ゲーム好きなの?」

徹平「まあ、人並みに。そのシリーズは全部やってるな」

栞菜「え? これの続編あるの?」

徹平「知らないのか? 3まで出てるぞ」

栞菜「知らんかった……」

徹平「そういえば栞菜。お前さー、学校でどうだ?」

栞菜「……え?」

徹平「なんか、居づらくないか? 気を使われるっていうか、興味深々の目で見られるっていうかさ」

栞菜「あー、わかる。なんか珍獣扱いされるよね。単に無人島から生還しただけなのに」

徹平「やっぱりなー。元の生活に戻れたって思ったんだけど、なんか違うんだよな」

栞菜「仲良かった友達とも、なんかぎくしゃくしちゃってさー。無人島にいたときより孤独だわー」

徹平「はははは。言えてる。無人島だと、いっぱい猛獣いたもんな。寂しいなんて一度も感じなかったし」

栞菜「トラウマをえぐるのは止めい!」

徹平「家でもなんか、微妙な空気だからさー、外で時間潰すのも大変だよ」

栞菜「今じゃあんまりなくなったけど、前まで知らない人にも話かけられたもん。テレビとかで救出されるとこ、写っちゃったみたいで、面割(めんわ)れしちゃったのが痛いわ」

徹平「どうだった? 怖かった? とか、100回以上、聞かれたな」

栞菜「面白がって聞いてくんのがムカつくよねー」

徹平「知りたかったら、お前もあの無人島に行けばいいじゃねーかって話だよな」

栞菜「あはは。言えてる。……ねえ、徹平。あんたまだ時間あるでしょ? 向かいの喫茶店で時間潰さない? ゲーム譲ってくれたお礼に奢ってあげるわよ」

徹平「マジで? ラッキー」

栞菜(N)「それから半年が経ったとき、気づいたら私たちは付き合っていた。……なんていうか、吊り橋効果の真逆な感じだ。けど、まあ、吊り橋効果じゃないってことは、この恋は長く続くの……かな?」

終わり。

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