【声劇台本】隅っこ生活
- 2021.03.27
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:2人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、ラブストーリー
■キャスト
羽生 梓(はにゅう あずさ)
風間 柊(かざま しゅう)
■台本
梓(N)「私は小さい頃、普通だった。……いや、どちらかというと普通より下だったと思う。何かやっても、たいていは失敗したし、もし成功したとしても人並み程度。褒められることよりも、呆れられることの方が多かった。だから、私はいつの間にか、目立たないように、ひっそりと生活するようになっていった」
学校の教室。
柊「なあ、羽生も行かないか?」
梓「え?」
柊「カラオケだよ。これから、みんなで行こうって話になってさ」
梓「……ご、ごめん。今日は用事があって……」
柊「そっか。しょうがないな。じゃあ、また今度な!」
梓「う、うん。誘ってくれてありがとう」
柊「おう!」
柊が周りの人を連れて教室から出ていく。
梓(N)「すごくビックリした。まさか、クラスでも人気者の風間君に話かけられるなんて……。私に話しかけてくるなんて人はいないと思ってたから、油断してた。……もしかしたら、高校に入ってから初めてかも。出席取る以外で話しかけられるのなんて。……もう高校2年生ってことは、去年の1年間は誰とも話さなかったってことだ。我ながら引くなー。でも、まあ、後悔なんかはしてない。私はこの生活が気に入ってるんだから」
場面転換。
図書室。
梓が本のページをめくる。
梓「……」
柊「羽生、なんの本読んでるんだ?」
梓「え? 風間……君?」
柊「ああ、ごめん。驚かせちゃった?」
梓「う、ううん。大丈夫」
柊「羽生って、いつも昼休みに教室いないと思ったら、図書室で本、読んでたんだな」
梓「……え?」
柊「本、好きなのか?」
梓「あ、うん。割と……」
柊「へー。どんなの読むんだ?」
梓「……詩集とか……小説とか……かな」
柊「おお。おしゃれだな。俺なんか、漫画くらいしか読まないからなー」
梓「そ、そうなんだ……」
柊「羽生は漫画は読んだりしねえの?」
梓「私は……」
そのとき、チャイムが鳴る。
柊「あ、やべ! 昼休み終わっちゃうぞ。早く教室に戻ろうぜ」
梓「あ、う、うん……」
梓(N)「一度ならず、二度までも。……おかしいな。教室を出るときも、図書室にいるときだって、気配を消してたつもりなのに。……まさか、見つかるなんて思わなかった」
場面転換。
屋上で本を読む梓。
梓「……」
柊「やっぱり、屋上にいたか」
梓「……え?」
柊「羽生は昼休み、いつも、図書館ってわけじゃないんだな」
梓「え、えっと……今日は……天気がいいから……」
柊「なるほどなぁ。確かに晴れてると屋上は気持ちいいかもな」
梓「あ、あの……風間君はどうして、屋上に?」
柊「羽生を探してたんだよ。図書館にいなかったし、一人になれそうなところって考えたら、ここかなって」
梓「……私を探してた?」
柊「あ、ごめん。迷惑だったか?」
梓「う、ううん。そんなことないけど」
柊「そういえばさ、羽生って、クラブは何に入ってるんだ?」
梓「……えっと」
柊「なんだよ?」
梓「誰にも言わないでね」
柊「ん? ああ……」
梓「実はどこにも入ってない」
柊「へ? いや、校則でどこかに入ることってなってるだろ」
梓「……たぶん、私がどこにも入ってないこと……誰も気づいてない」
柊「お前、すげえな……」
梓「……」
梓(N)「しまった。完全に気が緩んでいた。っていうより、気が動転してたのかな。まさか、自分の秘密をしゃべっちゃうなんて。あーあ。先生にチクられたら、どこかに入らなきゃならなくなるなー。せっかく、無所属って楽なポジションだったのに」
場面転換。
廊下を歩く梓。
柊「こらこら、羽生、どこ行くんだよ」
羽生「……え?」
柊「これから、学園祭の準備だろ?」
羽生「えっと、私、そういうの興味ないから」
柊「興味なくても、手伝うもんなんだよ」
梓「……」
柊「露骨に嫌な顔するなよ」
梓「……私なんかいると足引っ張っちゃうから」
柊「そんなことねーって」
梓「……人と一緒に作業とか、無理だし」
柊「じゃあ、2階の端に空き教室があるから、そこで一人で作業するっていうのはどうだ?」
梓「……それなら、まあ」
柊「よし、先行っててくれ。後で、道具持っていくから」
梓「……」
梓(N)「なんで、気付ける? 今までの十数年間、誰にも見つからずに陰で生活してられたのに。今だって、最大限に気配を消して、物音ひとつ立てずに教室から出たんだけど。風間君は私の天敵なのかもしれない」
場面転換。
作業をしている梓が、手を止める。
梓「ねえ……何してるの?」
柊「ん? 学園祭の準備だけど」
梓「そうじゃなくって、なんで、この教室でやってるの?」
柊「ダメか?」
梓「……ダメじゃないけど」
柊「そういえばさ、羽生って……」
梓(N)「なんだろう? 風間君はクラスや先生からの刺客かなんかなのかな? どうして、私なんかに付きまとうんだろう? 楽しいことなんてなにもないのに。……まあ、風間君はお人よしなところがあるから、きっと、嫌な役を押し付けられたんだろう。ご愁傷様。きっと、日ごろの行いが悪いから、こんな役目を押し付けられるんだよ」
場面転換。
学園祭で賑わっている廊下。
柊「あははは。黒く塗りつぶして、宇宙だってさ。なかなかセンスあったよな、あの絵」
梓「あれ? ちょっと待って」
柊「ん? どうした?」
梓「なんで、風間君が私の隣にいるの?」
柊「……ごめん。嫌だったか? 一緒に回るの」
梓「……別に嫌じゃないけど。逆にいいの? 風間君は?」
柊「なにが?」
梓「私なんかと回ってて。せっかくの学園祭なのに」
柊「なあ、羽生。お前ってさ、なんか格闘技とかやってたりするのか?」
梓「へ? いや、やってないけど」
柊「ふーん。じゃあ、気配を消す方法ってどうやって身に着けたんだ?」
梓「……え?」
柊「最初は気づかなかったんだ、俺。羽生の存在に。だけど、あの日、お前に初めて話しかけた日、教室の隅に一人だけ座っている羽生を見つけた。ビックリしたんだ。今まで同じクラスだったのに、気付かなかったってさ。……そしたら、面白いって思ったんだ。誰にも気づかれていない奴を、俺だけが見つけたってな」
梓「……」
柊「ごめん。最初は本当に興味本位だった。誰も知らない、お前がどんな奴かってな。……けど、気付いたら、お前から目が離せなくなってた。羽生のことばかり、気にするようになってた……」
梓「あーあ。気配消してたことで、逆に見つけられちゃったってことか」
柊「……なあ、羽生。どうして、存在を消すようなこと、してるんだ? もっと友達とかと遊んだりした方が楽しいんじゃないか?」
梓「ううん。いいの。私、この生活が好きだから」
柊「そう……なのか?」
梓「なんで、風間君が悲しそうな顔するのよ?」
柊「……」
梓「それにね、私、思うんだ。この生活してて、本当に良かったって」
柊「え? なんでだよ?」
梓「ふふふ。秘密―」
柊「教えてくれよ」
梓「あははは」
梓(N)「だって、そのおかげで、風間君に見つけて貰えたんだから」
終わり。
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