【声劇台本】隅っこ生活

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■概要
人数:2人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、ラブストーリー

■キャスト
羽生 梓(はにゅう あずさ)
風間 柊(かざま しゅう)

■台本

梓(N)「私は小さい頃、普通だった。……いや、どちらかというと普通より下だったと思う。何かやっても、たいていは失敗したし、もし成功したとしても人並み程度。褒められることよりも、呆れられることの方が多かった。だから、私はいつの間にか、目立たないように、ひっそりと生活するようになっていった」

学校の教室。

柊「なあ、羽生も行かないか?」

梓「え?」

柊「カラオケだよ。これから、みんなで行こうって話になってさ」

梓「……ご、ごめん。今日は用事があって……」

柊「そっか。しょうがないな。じゃあ、また今度な!」

梓「う、うん。誘ってくれてありがとう」

柊「おう!」

柊が周りの人を連れて教室から出ていく。

梓(N)「すごくビックリした。まさか、クラスでも人気者の風間君に話かけられるなんて……。私に話しかけてくるなんて人はいないと思ってたから、油断してた。……もしかしたら、高校に入ってから初めてかも。出席取る以外で話しかけられるのなんて。……もう高校2年生ってことは、去年の1年間は誰とも話さなかったってことだ。我ながら引くなー。でも、まあ、後悔なんかはしてない。私はこの生活が気に入ってるんだから」

場面転換。

図書室。

梓が本のページをめくる。

梓「……」

柊「羽生、なんの本読んでるんだ?」

梓「え? 風間……君?」

柊「ああ、ごめん。驚かせちゃった?」

梓「う、ううん。大丈夫」

柊「羽生って、いつも昼休みに教室いないと思ったら、図書室で本、読んでたんだな」

梓「……え?」

柊「本、好きなのか?」

梓「あ、うん。割と……」

柊「へー。どんなの読むんだ?」

梓「……詩集とか……小説とか……かな」

柊「おお。おしゃれだな。俺なんか、漫画くらいしか読まないからなー」

梓「そ、そうなんだ……」

柊「羽生は漫画は読んだりしねえの?」

梓「私は……」

そのとき、チャイムが鳴る。

柊「あ、やべ! 昼休み終わっちゃうぞ。早く教室に戻ろうぜ」

梓「あ、う、うん……」

梓(N)「一度ならず、二度までも。……おかしいな。教室を出るときも、図書室にいるときだって、気配を消してたつもりなのに。……まさか、見つかるなんて思わなかった」

場面転換。

屋上で本を読む梓。

梓「……」

柊「やっぱり、屋上にいたか」

梓「……え?」

柊「羽生は昼休み、いつも、図書館ってわけじゃないんだな」

梓「え、えっと……今日は……天気がいいから……」

柊「なるほどなぁ。確かに晴れてると屋上は気持ちいいかもな」

梓「あ、あの……風間君はどうして、屋上に?」

柊「羽生を探してたんだよ。図書館にいなかったし、一人になれそうなところって考えたら、ここかなって」

梓「……私を探してた?」

柊「あ、ごめん。迷惑だったか?」

梓「う、ううん。そんなことないけど」

柊「そういえばさ、羽生って、クラブは何に入ってるんだ?」

梓「……えっと」

柊「なんだよ?」

梓「誰にも言わないでね」

柊「ん? ああ……」

梓「実はどこにも入ってない」

柊「へ? いや、校則でどこかに入ることってなってるだろ」

梓「……たぶん、私がどこにも入ってないこと……誰も気づいてない」

柊「お前、すげえな……」

梓「……」

梓(N)「しまった。完全に気が緩んでいた。っていうより、気が動転してたのかな。まさか、自分の秘密をしゃべっちゃうなんて。あーあ。先生にチクられたら、どこかに入らなきゃならなくなるなー。せっかく、無所属って楽なポジションだったのに」

場面転換。

廊下を歩く梓。

柊「こらこら、羽生、どこ行くんだよ」

羽生「……え?」

柊「これから、学園祭の準備だろ?」

羽生「えっと、私、そういうの興味ないから」

柊「興味なくても、手伝うもんなんだよ」

梓「……」

柊「露骨に嫌な顔するなよ」

梓「……私なんかいると足引っ張っちゃうから」

柊「そんなことねーって」

梓「……人と一緒に作業とか、無理だし」

柊「じゃあ、2階の端に空き教室があるから、そこで一人で作業するっていうのはどうだ?」

梓「……それなら、まあ」

柊「よし、先行っててくれ。後で、道具持っていくから」

梓「……」

梓(N)「なんで、気付ける? 今までの十数年間、誰にも見つからずに陰で生活してられたのに。今だって、最大限に気配を消して、物音ひとつ立てずに教室から出たんだけど。風間君は私の天敵なのかもしれない」

場面転換。

作業をしている梓が、手を止める。

梓「ねえ……何してるの?」

柊「ん? 学園祭の準備だけど」

梓「そうじゃなくって、なんで、この教室でやってるの?」

柊「ダメか?」

梓「……ダメじゃないけど」

柊「そういえばさ、羽生って……」

梓(N)「なんだろう? 風間君はクラスや先生からの刺客かなんかなのかな? どうして、私なんかに付きまとうんだろう? 楽しいことなんてなにもないのに。……まあ、風間君はお人よしなところがあるから、きっと、嫌な役を押し付けられたんだろう。ご愁傷様。きっと、日ごろの行いが悪いから、こんな役目を押し付けられるんだよ」

場面転換。

学園祭で賑わっている廊下。

柊「あははは。黒く塗りつぶして、宇宙だってさ。なかなかセンスあったよな、あの絵」

梓「あれ? ちょっと待って」

柊「ん? どうした?」

梓「なんで、風間君が私の隣にいるの?」

柊「……ごめん。嫌だったか? 一緒に回るの」

梓「……別に嫌じゃないけど。逆にいいの? 風間君は?」

柊「なにが?」

梓「私なんかと回ってて。せっかくの学園祭なのに」

柊「なあ、羽生。お前ってさ、なんか格闘技とかやってたりするのか?」

梓「へ? いや、やってないけど」

柊「ふーん。じゃあ、気配を消す方法ってどうやって身に着けたんだ?」

梓「……え?」

柊「最初は気づかなかったんだ、俺。羽生の存在に。だけど、あの日、お前に初めて話しかけた日、教室の隅に一人だけ座っている羽生を見つけた。ビックリしたんだ。今まで同じクラスだったのに、気付かなかったってさ。……そしたら、面白いって思ったんだ。誰にも気づかれていない奴を、俺だけが見つけたってな」

梓「……」

柊「ごめん。最初は本当に興味本位だった。誰も知らない、お前がどんな奴かってな。……けど、気付いたら、お前から目が離せなくなってた。羽生のことばかり、気にするようになってた……」

梓「あーあ。気配消してたことで、逆に見つけられちゃったってことか」

柊「……なあ、羽生。どうして、存在を消すようなこと、してるんだ? もっと友達とかと遊んだりした方が楽しいんじゃないか?」

梓「ううん。いいの。私、この生活が好きだから」

柊「そう……なのか?」

梓「なんで、風間君が悲しそうな顔するのよ?」

柊「……」

梓「それにね、私、思うんだ。この生活してて、本当に良かったって」

柊「え? なんでだよ?」

梓「ふふふ。秘密―」

柊「教えてくれよ」

梓「あははは」

梓(N)「だって、そのおかげで、風間君に見つけて貰えたんだから」

終わり。

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