【声劇台本】永遠の冬を望んで

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■概要
人数:2人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
悟(さとる)※小学5年生
美夏(みか)※小学5年生

■台本

悟と美夏が並んで歩いている。

悟「物事には必ず理由がある。たとえば、ものを落としたときに、地面に落ちるのは、地球に引っ張られるから。つまり地球の中心に吸い寄せられる。これは万有引力の法則っていうんだ。こんな感じでね、物事には必ず理由があるんだよ」

美夏「ふーん。じゃあ、冬が寒いっていうのも理由があるってこと?」

悟「もちろん。これは気候に関連していて……」

美夏「ねえ、悟。手袋脱いで」

悟「え? あ、うん。わかった」

ガサガサと手袋を脱ぐ悟。

美夏「じゃあ、私も」

美夏も手袋を脱ぐ。

悟「美夏ちゃん?」

美夏「悟、手を出して。手袋脱いだ方の」

悟「う、うん……」

美夏「えい」

美夏が悟の手を握る。

悟「なななな! み、美夏ちゃん、何してるの!」

美夏「何って、手を繋いだの」

悟「ど、どうして?」

美夏「暖かいから。直接握った方が、温かいでしょ?」

悟「そ、そうだけど……」

美夏「嫌だった?」

悟「う、ううん。嫌じゃないよ」

美夏「よかった。……あー、悟の手、暖かいー」

悟(N)「そう。これはお互い、温まるための手段で手を繋いだだけだ。つまり、寒いという現象について、温めるための手段なだけ。別に、それ以外の理由はない。ないはずなんだ」

場面転換。

悟と美夏が並んで歩いている。

美夏「あーあ。宿題、たくさん出されちゃったね」

悟「大丈夫だよ。そんなに難しい問題はなかったから」

美夏「それじゃ、出来たら見せてね」

悟「だ、ダメだよ。たまにはちゃんと自分でやらないと」

美夏「悟のくせに生意気!」

ギュッと美夏が悟の手を強く握る。

悟「いたたたた!」

美夏「意地悪を言う奴にはバツが必要なのよ」

悟「……いや、意地悪じゃないんだけど」

悟(N)「あの日以来、美夏ちゃんと並んで歩く時は手を繋ぐのが当たり前になっている。……そう。これは毎日が寒いから仕方ないんだ。それに美夏ちゃんの手は、本当に冷たい。だから僕が温めてあげる。ただ、それだけのことだ」

美夏「ねえ、悟。そういえば、2組の実奈ちゃんが、武志くんに告白したんだって」

悟「ええ! こ、告白!?」

美夏「なんで、驚いてるのよ? そんなに驚くとこ?」

悟「いや、小学生なのに……そういうの、早いんじゃないかって思って」

美夏「そう? そんなことないんじゃない?」

悟「……」

美夏「悟は好きな子、いないの?」

悟「いいいい、いないよ! 大体、恋なんて、幻想みたいなものなんだ」

美夏「そうなの?」

悟「う、うん。えっとね、恋をすると、脳からドーパミンっていう成分が出て、それが出ると幸せな気分になるんだ。それで、恋をすると幸せな気分になるって、脳に思い込ませられてるんだよ」

美夏「ふーん。でも、自分の脳みそがやってることだから、別にいいんじゃないの?」

悟「そ、それはどうだけど……」

美夏「悟は何でも、難しく考えるのが悪い癖だと思うよ。恋をするのも、手を繋いだら暖かいのも、普通のことでいいんじゃない?」

悟「……」

悟(N)「物事には理由がある。今は冬で寒いから、温めるために美夏ちゃんと手を繋いでいる。これが、もし、夏だったとしたら、手を繋ぐ理由は無くなってしまう」

悟「……ずっと冬だったらいいのに」

美夏「え?」

悟「あ、ううん。何でもないよ」

悟(N)「僕が美夏ちゃんと手を繋ぎたいと思う理由はなんだろう? 温かいから? ううん。それは違う。だって、美夏ちゃんの手は冷たいから。……じゃあ、僕が美夏ちゃんに恋を……してるから?」

悟「違う違う! 絶対違う!」

美夏「……悟? どうしたの、急に?」

悟「あ、ううん。何でもない」

美夏「ねえ、悟。さっきさ、ずっと冬だったらいいのにって言ったよね?」

悟「う、うん……」

美夏「私もね。ずーっと、このままがいいなって……冬が続けばいいなって思うんだ」

悟「……」

美夏「……何月だっけ? 引っ越し」

悟「……3月」

美夏「そっか……もうすぐだね」

悟「……」

悟(N)「あと、一か月もしたら、僕は引っ越しして、美夏ちゃんとは違う学校に行くことになる。そうなれば、こうして一緒に学校に行くことも帰ることもできなくなる。……一緒にいる理由がなくなってしまう。でも、仕方ないことなんだ。美夏ちゃんと一緒にいられるのは、家が近所だったからだ。遠くに住んでるなら、一緒にいる理由なんてないんだ……」

場面転換。

美夏「じゃあね。時々、電話して。あ、メールも」

悟「う、うん。わかった。それじゃ、さよなら」

美夏「……さよなら」

場面転換。

悟(N)「僕が望んだくらいで、冬が続くわけもなく、あっけなく引っ越しの日が来た。最初は何回か、電話やメールが来ていたが、この一週間は全く来なくなった。……これは当然のことだ。だって、理由がないから。もうクラスメイトでもないし、近所でもない。美夏ちゃんが僕にメールや電話をする理由が見当たらない。だから、これは当然のことなんだ」

ピンポーンとインターフォンが鳴る。

悟「はーい」

ガチャリとドアを開ける悟。

悟「……え?」

美夏「来ちゃった」

悟「なんで? 来る理由なんてないよね?」

美夏「会いたかったから来た。それだけ」

悟「……」

美夏「そうだ! 来るとき、すっごいきれいな桜の木があったの! 見に行こ!」

美夏が悟の手を握り、歩き出す。

悟「ね、ねえ、美夏ちゃん。いいの?」

美夏「なにが?」

悟「その……もう春で温かいし、手を繋ぐ理由がないんじゃないかなって」

美夏「繋ぎたいから、繋ぐ。それだけよ」

悟「理由……ないの?」

美夏「もう、悟はなんでも難しく考えすぎだって。悟に会いたいから来た。悟と手を繋ぎたいから繋ぐ。それでいいじゃない」

悟(N)「物事には必ず理由がある。……そう思っていた。そう思い込んでた。でも、理由がいらないこともある。これからも美夏ちゃんと一緒にいたい。理由なんてどうでもいい。一緒にいたいからいる。それだけだ」

終わり。

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