【声劇台本】プライド
- 2021.05.09
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:5人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
霧島 春樹(きりしま はるき)
仙田 誠(せんだ まこと)
その他
■台本
ストレッチャーで春樹(7)が運ばれる。
春樹「痛い! 痛いよ!」
母親「先生! 春樹は! 春樹の腕はどうなるんでしょうか?」
医師1「安心してください。必ず手術は成功させます」
23年後。
春樹(N)「俺は子供の頃、事故に巻き込まれた。特に右腕の傷は酷く、普通の医師であれば切断するしかない状態だったそうだ。だが、偶然、救命センターに神の手と噂されていた医師がいた。その医師によって、俺の右腕は切断することなく、完璧に治してくれた。そんな医師に憧れて、医療の道に進むのは当然のことだった」
医師2「霧島先生、いかがしましょう?」
春樹「考えるまでもないだろ」
医師2「ですが、高坂さんの方が先に……」
春樹「順番なんて関係ない。どれだけの金額を出せるか、だ」
医師2「……高坂さんは3ヶ月以上、待ってます」
春樹「何度言わせるんだ。仙田さんの祖父は議員だぞ。出せる金額も違うし、政界との繋がりができるかもしれない。どちらを優先するかなんて、決まっている」
医師2「高坂さんは今回の手術を受けられなかった場合は、おそらく……」
春樹「運がなかったと諦めてもらうしかない」
医師2「命がかかってるんですよ! そんな簡単に!」
春樹「仙田さんも、同じ手術だぞ。命がかかっているのはどちらも同じだ」
医師2「お金で命の価値が決まるなんて」
春樹「そうじゃない」
医師2「え?」
春樹「今回の話は、命の価値の話じゃない。俺の技術に対しての報酬の話だよ」
医師2「……」
春樹「これはプライドの話しだ。俺の技術は世界でもトップクラス。その技術を駆使した手術だ。報酬もそれなりのものになるのは当然だと思わないか?」
医師2「……」
場面転換。
病院内の廊下を歩く春樹。
そこに誠が走ってくる。
誠「先生! どうしてですか! どうして息子の手術をしてくれないんですか!?」
春樹「申し訳ありませんが、急患が入りましてね。そちらを優先させていただきます」
誠「……お願いします! お金なら借金してでも払いますから」
春樹「一千万……」
誠「え?」
春樹「あちらは、私の手術に一千万を出すと言ってます。……公務員のあなたに出せる金額とは思えませんが?」
誠「……うう」
春樹「それでは、失礼します」
春樹が歩き出す。
誠「くそっ!」
壁を叩く誠。
場面転換。
ドアが開き、春樹が手術室から出てくる。
医師2「……お疲れ様でした」
春樹「完璧だと思うが、一応、一週間は注意深く経過を見ててくれ」
医師2「わかりました」
春樹「パリへの飛行機は何時だ?」
医師2「19時です」
春樹「……本屋に寄る時間ができそうだな。俺はもう上がるから、後は頼んだぞ」
医師2「はい……」
場面転換。
本屋の店内。
春樹「……えっと、病理学の棚は」
突然、地震が起こると同時に警報が鳴り響く。
春樹「地震……? 結構デカいな」
ドンと天井が落ちる音。
春樹「ぐあああ! くそ! 足が!」
物凄い勢いの炎が巻き起こる音。
春樹「火災!? くそ、足が抜けない! 誰か、助けてくれ!」
炎がドンドンと迫ってくる。
春樹「ごほっ! ごほっ! 助けてくれ! 誰か!」
そこに誠がやってくる。
誠「大丈夫ですか! 今助けます!」
春樹「ああ、すまん……って、あんたは」
誠「……霧島先生」
春樹「あんた、消防士だったのか」
誠「……」
春樹「はは。俺もついてないな」
春樹「……息子は死にました。手術を受けられずに」
春樹「俺を恨んでるんだろ?」
誠「……」
春樹「ふふ。恨みを晴らすのには、ちょうどいいシチュエーションだな。あんたはこのまま俺を見捨てればいい。そして、見つけられなかったと言えば、あんたは罪に問われることなく、俺に復讐できる」
誠「……そうですね」
春樹「因果応報ってやつだな」
誠「……」
春樹「負け惜しみというわけじゃないが、俺はあんたの息子を見捨てたことを後悔もしてないし、悪いとも思ってない」
誠「……」
春樹「俺の技術は世界トップクラスだ。それに見合った報酬貰う。手術代は俺のプライドだ」
誠「……そうですか」
春樹「さあ、行けよ」
誠「ええ」
誠が走り出す。そして、コンクリートの残骸を持ち上げる。
誠「うおおおお!」
春樹「あ、あんた、何を?」
誠「早く、足を抜いて!」
春樹「あ、ああ」
残骸に挟まれた足を抜く春樹。
誠「歩けますか?」
春樹「いや、厳しいな」
誠「肩に捕まって」
春樹「どういうつもりだ?」
誠「早く!」
誠の肩に捕まって歩く春樹。
春樹「……どうして、俺を助けた?」
誠「正直、あなたのことは憎いです」
春樹「なら、なぜ?」
誠「息子は私……消防士に憧れてました」
春樹「……」
誠「病気が治ったら、絶対に消防士になると言ってました」
春樹「……」
誠「消防士は火を消すだけが仕事じゃありません。火災に巻き込まれて人を助けることも仕事です」
春樹「……」
誠「それが、例えどんな人だろうと。それが私のプライドです」
春樹「プライド……か。くだらないな」
誠「プライドなんて、そんなものですよ」
春樹「……そうだな」
場面転換。
病院内。
医師2「霧島先生、まさか、あの場所に移動するとはな。一番、あり得ない部署だって言ってたのに……」
場面転換。
電話が鳴り、春樹が取る。
春樹「はい。救命救急センター」
誠「仙田です。大規模な火災が発生して、今、現場に向かっています。これから多くの怪我人が、そちらに運ばれると思います」
春樹「なんとしてでも、全員助けろ。そしたら、俺が必ず治してやる!」
誠「よろしくお願いします」
電話を切る春樹。
春樹「スタッフを呼び出せ! プライドにかけて、運ばれてくる怪我人は全員助けるぞ!」
終わり。
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