【声劇台本】不思議な館のアリス 伝説の戦士

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■概要
人数:1人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス

■キャスト
アリス

■台本

アリス「いらっしゃいませ。アリスの不思議な館へようこそ」

アリス「おや? なんだか元気がありませんね。何か嫌なことでもありましたか?」

アリス「……なるほど。ギャンブルに負けてしまったと。その様子ですと、随分とつぎ込んだみたいですね」

アリス「え? 今回はたまたま、運がなかった、ですか?」

アリス「そうですね……。正直に言いますと、ギャンブルはお勧めできません。ああいうものは胴元が勝つようになっていますから」

アリス「ええ。わかります。勝ったときの高揚感が癖になってしまって、やってしまうんですよね?」

アリス「では、こうするのは、どうでしょう? 勝つためにやるのではなく、負けないためにやるんです」

アリス「え? 同じこと、ですか? いえいえ。違いますよ。今回のときのように、流れが悪いときには、すぐに止めて、流れが来ているときだけ、勝負するんです」

アリス「そうすれば、負けたとしても、最小限に抑えられるんじゃありませんか?」

アリス「あはははは。そうですね。それが出来れば苦労はしませんよね」

アリス「ですが、それができるかできないかで、人生も大きく変わってくると思いますよ」

アリス「これはギャンブルだけではなく、人生に訪れる勝負事の全て言えることですから」

アリス「……では、今日は勝負にまつわるお話をしましょう」

アリス「伝説の戦士と呼ばれる男の物語です」

アリス「乱世の時代、その男は徴兵により軍に入ることになりました。元々は戦いが好きではなかったそうです」

アリス「いえ、違いますね。戦いに向いていないと言った方がいいでしょうか」

アリス「本人の評価では、国で一番弱い兵士、だったそうですよ」

アリス「そんな男がどうして、伝説の戦士と呼ばれたか……。それは一度も負けなかったからです」

アリス「え? 弱いなら、戦に勝てない、ですか? ……そうですね。確かに、勝った確率というのはそこまで高くなかったそうです」

アリス「国で一番弱く、勝つ確率も高くないと聞けば、大したことない人物に思えませんか?」

アリス「ですが、こう聞くとどうでしょうか? その男は戦で一度も負けたことがないんです」

アリス「ふふ。不敗、一度も負けたことがないとなれば、イメージが違ってきませんか?」

アリス「では、そんな弱い男が、どうして負け知らずだったかのカラクリをお話しましょう」

アリス「それは……勝つ戦にしか、参加しなかったからです」

アリス「確実に勝てるときにしか、戦わなかったんですよ」

アリス「ふふ。拍子抜けしましたか? 伝説や噂の真相というのは、そういうものですよ」

アリス「ただ、話は単純ですが、それを行うことは難しいですね」

アリス「考えても見てください。新兵のときの男が、勝てるときにしか戦わないなんて、我がままが許されると思いますか?」

アリス「ええ。答えはノーです。では、いったい、どうしていたのか」

アリス「これも、答えは単純な話なのですが、負けそうな戦に駆り出された場合は、早々に逃げていたそうです」

アリス「はい。もちろん、敵前逃亡は重罪です。なので、男はいつも命がけで逃げていたそうです。おそらく、そういう才能はあったんだと思います」

アリス「え? 毎回、命がけで逃げるなんてことをするのか、ですか?」

アリス「考えてみてください。負け戦というのは戦って死ぬ確率が高いということです。同じ、死ぬ確率が高いなら、逃げる方に掛けた、ということですね」

アリス「あとは、自分の隊が勝てないと思ったときは、他の隊の人と交代してもらったそうです」

アリス「え? そんなことが許されるのか、ですか? いえいえ。意外と問題はなかったみたいですよ」

アリス「だいたい、隊長などは、末端の兵のことまで覚えてませんからね。こっそり入れ替わったとしても、バレなかったみたいですよ。まあ、軍としての精度が低かったと言えば、それまでですが」

アリス「それを続けるうちに、徐々に名が上がっていったそうです」

アリス「どんな負け戦でも、必ず生きて帰って来る、となれば注目が集まるというわけです」

アリス「そして、その噂に尾ひれがついていき……負けたことがない、不敗と言われるようになります」

アリス「いつしか、その男は出世していき、部隊の隊長に任命されていきます」

アリス「ですが、男は困ったそうです。なぜなら、隊長クラスになってしまうと、途中で逃げたり入れ替わるということができなくなりますからね」

アリス「そこで、その男は一計を投じます。それは自分の隊は他の隊をサポートする役割を持たせてほしいと進言したそうです」

アリス「たとえ、どんな負け戦だろうと、何とかする、その自信があると言って説得したみたいですね」

アリス「まあ、不敗の男がいうことですから、あっさりと信じてもらえ、この話は通ることになります」

アリス「ふふ。この男のしたたかなところは、勝つ、とは言わず、なんとかする、と言ったところです」

アリス「負け戦から逃げる術に長けていましたからね。逃げることに関しては右に出る者はいないというのが本人の評価だったらしいですよ」

アリス「自分の隊に兵には逃げる術をしっかりと教えたそうです。そして、実際に負け戦をサポートする場合は、すぐに味方を引き連れて逃げたそうです」

アリス「え? それだと敵前逃亡になるのではないか、ですか?」

アリス「ふふ。そこも物はいいようです。逃げて帰ってきた、ではなく、これだけの兵を生還させたと言ったんです。そもそも負け戦であれば、全滅もあり得たところを、これだけの多くの兵を連れて戻ったといえばどうでしょう? 凄いと思いませんか?」

アリス「こうして、この男はほとんど、戦うことなく、不敗の、伝説の戦士と呼ばれるようになったんです」

アリス「この男は強くはありませんでしたが、戦局を見る目は長けていたのだと思います」

アリス「ですから、あなたも、戦局を見る目を養えば、ギャンブルでも負けなくなりますよ、という話でした」

アリス「……え? その男は最後はどうなったか、ですか?」

アリス「その男は生涯、不敗で伝説の戦士と呼ばれたまま、兵を引退しました……とはなりませんでした」

アリス「ある大国との戦でのことです。負け戦をサポートするために戦に向かい、味方を引き連れて、逃げようとしたときでした」

アリス「既に敵軍に包囲されて、逃げ道はなかったそうです」

アリス「そこで、男は敵将に対して、こう、交渉しました」

アリス「ここで俺が全力で戦えば、勝てないにしても、そっちの兵の3分の2は減らす自信がある、と」

アリス「もちろん、嘘ですが、相手からしてみれば、不敗の、伝説の戦士がいうことですからね。信じてしまうのも、無理もありません」

アリス「そこで、この戦は、双方退却することで手を打たないかと続けます」

アリス「いくら、兵士が3分の1にされようとも、引き分けと勝ちでは、随分と違います。なので敵将は首を横に振ります。ただ、男はそこで引かずに、さらにこう言いました」

アリス「兵を引いてくれれば、自分の首を渡す、と」

アリス「戦自体は引き分けだったとしても、伝説の戦士を討ったとなれば、その敵将の名もあがりますからね。男の提案を飲んだそうです」

アリス「もちろん、約束通り、味方の退却が済んだのちに、男は敵将によって討たれてしまいました」

アリス「ですが、男は完璧な負け戦から、引き分けに持って行ったわけです。つまり、最後まで負けなかったということですね」

アリス「以上が、国で一番弱い男が、不敗の伝説の戦士になったお話は終わりになります」

アリス「どうでしたか? 今回の話は満足いただけたでしょうか?」

アリス「それではまたのお越しをお待ちしております」

終わり。

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