【声劇台本】未完成のラブストーリー

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■概要
人数:2人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、ラブストーリー

■キャスト
翔琉(かける)
ひかり

■台本

翔琉「……どうだ?」

ペラリとページをめくる音。

ひかり「全然ダメね。まったく響いてこないわ」

翔琉「いやいやいや! そんなことないだろ! めちゃめちゃ恋愛ものの映画とか小説とか見まくったんだぞ」

ひかり「あー。それが原因ね」

翔琉「どういうことだよ?」

ひかり「どっかから持ってきたような、表面的な感じなのよ。だから、響いてこないんじゃない?」

翔琉「んなこと言われてもなぁ……」

ひかり「そもそも、恋愛したことのない翔琉がラブストーリーなんて書けるわけないのよ」

翔琉「ひかりだって、そうだろ?」

ひかり「……」

翔琉「お互い、恋愛ものは無理ってことか」

ひかり「……一つ、手案があるわ」

翔琉「提案?」

ひかり「小説家を目指してるのに、恋愛系が書けないって致命的だと思うのよ。別にラブストーリーじゃなくても、恋愛要素って、大体入ってるでしょ?」

翔琉「まあ……そうだな」

ひかり「つまり、恋愛は避けて通れないのよ」

翔琉「じゃあ、どうするんだよ?」

ひかり「恋を経験するしかないわ」

翔琉「今まで全然興味なかったんだぞ。急に恋をしろなんて言われてもなぁ」

ひかり「確かにこのままじゃ無理よ。だから、もっと積極的に強引に行くしかないわ」

翔琉「強引に行くって、どうするんだよ? 告白して回るのか?」

ひかり「それじゃ、意味ないわ。付き合うことが目的じゃなくて、恋することが目的なのよ」

翔琉「まあ、そうだな」

ひかり「だから、私とあんたで、お互いを惚れさせるのよ」

翔琉「……は? どういうことだ?」

ひかり「だーかーら! 私が、あんたを私に惚れさせるの。で、あんたは、私をあんたに惚れさせるのよ」

翔琉「……付き合ってみるってことか?」

ひかり「違う違う。あくまで、相手を自分に惚れさせるのが目的よ」

翔琉「なるほど。恋をするのを待つんじゃなくて、強引に恋に落とすってわけか」

ひかり「そういうこと」

翔琉「上手くいくか、それ?」

ひかり「なに? 自信ないの? 私はあるわよ。あんたを落とすのなんて、速攻ね」

翔琉「へー。おもしれえ。やってやろうじゃねーか。絶対、お前を俺に惚れさせる!」

ひかり「はいはい。精々頑張って。無理だって思っても途中で諦めたりしないでよ。約束だからね」

翔琉「はいはい。わかったよ」

場面転換。

映画館。辺りが、少し、ざわざわしている。

ひかり「……で、なんで映画館?」

翔琉「デートと言えば、映画だろ」

ひかり「ベタベタね」

翔琉「いいんだよ。王道は最強だからな」

場面転換。

喫茶店。

ひかり「やっぱり、あそこで主人公は挫折しないとダメよ。じゃないと、感情の波がおきないわよ」

翔琉「いや、シーンの構成と、主人公の性格を考えるとあれが正しいって」

ひかり「はあ? あんた、センスないわ」

翔琉「お前こそ!」

ひかり「……ねえ」

翔琉「なんだ?」

ひかり「これじゃ、いつもと変わらなくない?」

翔琉「……」

場面転換。

お祭りの会場。

ひかり「お待たせ!」

翔琉「……お!」

ひかり「あれ? どうしたの? もしかして、私の浴衣姿に惚れちゃった?」

翔琉「……んなわけねーよ。全然だね」

ひかり「そっか。けど、あんたの浴衣姿はまあまあよ。惚れるほどじゃないけどね」

翔琉「さてと、出店回ろうぜ」

ひかり「うん。夏祭りはやっぱり、デートって感じするわよね」

翔琉「そうだな」

ひかり「……えい!」

翔琉「おわっ! なんだよ、急に」

ひかり「デートなら、手を繋ぐのは当然でしょ? それとも、翔琉には刺激が強かった? いいのよ、私に惚れちゃって」

翔琉「ふん。手を繋ぐくらいなんてことねーよ」

場面転換。

打ち上げ花火の音。

ひかり「……綺麗」

翔琉「そうだな……」

ひかり「今日は、凄く楽しかった」

翔琉「ああ……」

ひかり「今まで、勿体なかったなぁ」

翔琉「だな。また来年も一緒に来ようぜ」

ひかり「ふふ。来年まで、私に惚れずにいられる?」

翔琉「……余裕だよ」

場面転換。

神社。ざわざわと人で賑わっている。

ひかり「うう……寒いし、疲れた。初詣って結構、大変なのね」

翔琉「まあ、こういう行事は抑えておかないとな」

ひかり「お参りで、何をお願いしたの?」

翔琉「今年こそは恋ができますように」

ひかり「そんなこと言って、もう私に惚れてるんでしょ? 正直に言いなさいよ」

翔琉「いやいや。ないない。全然、惚れてないよ」

ひかり「ふーん。ま、いいけど」

場面転換。

タオルを絞る音。

ひかり「……大丈夫?」

翔琉「……ごめん」

ひかり「なにが?」

翔琉「今日、夏祭りだったのにさ」

ひかり「うーん。バカは風邪ひかないっていうのは嘘だったって証明されたわね」

翔琉「ひでえな」

ひかり「だけど、こうやって、家でゆっくりするのもたまにはいいんじゃない? いつも、出かけてばっかりだし」

翔琉「……もう一年以上経つんだよな」

ひかり「ん?」

翔琉「ほら、お互い、相手に恋をさせるやつ」

ひかり「そうね。意外と惚れないものね。ずっと一緒にいたのにさ」

翔琉「……ひかりは、俺に惚れないのか?」

ひかり「うん。全然」

翔琉「……全然かよ」

場面転換。

通学路。並んで歩く翔琉とひかり。

翔琉「はあ……」

ひかり「どうしたの? 最近、ため息、多くない?」

翔琉「いや、もうすぐ卒業だなってさ」

ひかり「そうね。もう3年経っちゃったんだ。早かったなぁ。まあ、それだけ楽しかったってことなんだと思うけど」

翔琉「ひかりは女子大、決まったんだよな?」

ひかり「うん。推薦で」

翔琉「……引っ越すんだよな?」

ひかり「さすがに今の場所から通うのは辛いかな」

翔琉「……」

場面転換。

学校のチャイム。

ひかり「あーあ、卒業か。なんか実感わかないなぁ」

翔琉「ここにはもう、来ることはないんだよな」

ひかり「まあ、卒業したからね」

翔琉「なあ、ひかり」

ひかり「なに?」

翔琉「俺……。お前のこと、好きだ。好きになってた。ずっと……前から」

ひかり「やっぱりね。おめでとう。これで、翔琉は恋愛もの、書けるね」

翔琉「……ひかりは? ひかりは、俺のこと……俺に惚れてくれたか?」

ひかり「……ううん。全然。やっぱり、翔琉には荷が重たかったかな」

翔琉「……そっか。俺には無理だったか」

ひかり「うん」

翔琉「……」

場面転換。

カタカタとキーボードを打つ音。

だが、ピタリと止まる。

翔琉「……恋と失恋、か。ふふ。今の俺なら、どっちも余裕で書けるぜ! ……はあ。けど、全然書く気がしねえ。……失恋って、ホント、ヤバいな……」

そのとき、チャイムの音が鳴る。

場面転換。

翔琉「はいはい」

ガチャリとドアが開く音。

翔琉「……ひかり? どうして?」

ひかり「いや、どうして、じゃなくって! あんた、ちょっと無責任過ぎるわよ」

翔琉「……え?」

ひかり「最初に約束したでしょ! 途中で諦めるじゃないわよって!」

翔琉「……確かに、そんな約束したな」

ひかり「私、まだあんたに恋してないんだから、ちゃんと最後まで責任取りなさいよ! 私があんたに惚れるまで、付き合ってもらうからね!」

翔琉「あ、ああ……。わかった。これからも、お前が俺に惚れるまで、会いに行くよ」

終わり。

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