【声劇台本】異世界のふるさと
- 2021.07.23
- ボイスドラマ(10分)
■概要
主要人数:5人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
旭(あさひ)
圭太(けいた)
良子(りょうこ)
その他
■台本
旭(N)「……それは、ある夏の日に起こった奇妙な出来事。きっかけは思い出せないが、俺たちは里帰りをしようということになった。小学校の頃、大人たちの勝手な事情で、俺たちは故郷である宮倉村を出ることになる。……あの時代、景気が良かったのか、国は公共事業の一環で、やたらと山奥にダムの建設を始めた。その建設に邪魔になった村は廃村にされ、住んでいる住民は反強制的に村を追い出された。……俺たちみたいな村は多いと聞いたことがある。だけど、それからは一気に、景気が悪くなり、ダム建設のほとんどは中止となった。それを聞いた当時、俺は何のために村を追い出されたのかと、腹を立てたものだ」
場面転換。
車で山道を運転している圭太。
助手席に乗っている旭。
圭太「あれ? おかしいな」
旭「おい、圭太。近くまで来ればわかるんじゃなかったのかよ?」
圭太「旭だって、ダムの跡地に向かって進めば大丈夫だって、言ってたじゃねーかよ」
旭「……まあ、15年くらい経ってるしな」
圭太「……ああ。それに、小学生のときの記憶だからな」
旭「あんまり、山道で迷ってると、異世界に行っちまうぞ」
圭太「あははは。あったなー、そんな都市伝説っていうか、村伝説」
旭「一時期、ハマってやってたよな。確か、村の外れに札を埋めて、結界貼るんだよな」
圭太「そうそう。それで、村の外を3回ぐるぐると回って村に入り直すんだよな」
旭「あんな嘘くさいこと、よく真剣にやれたよな。……って、お、家だ。ここで道、聞いてみようぜ」
圭太「そうだな」
場面転換。
インターフォンの音。
女性1「はーい」
ドアが開き女性が出来る。
旭「すいません。宮倉村って、どっちですか?」
女性1「……宮倉村?」
圭太「ダム建設のせいで、廃村になったところです」
女性1「ダム建設……ああ! はいはい。あそこね。ここをずーっと真っすぐに行って、分かれ道があるから、そこを左側に行けばいいわ」
旭「ありがとうございました」
場面転換。
再び運転をしている圭太。
圭太「やべえ。全然、こんな道、覚えてねーわ」
旭「そうだな……って、おい、前、段差あるぞ」
圭太「へ?」
ドン! と音を立てて、段差を通過する。
旭「ビックリした―。危ねえな」
圭太「あ、見ろよ! 村だ!」
旭「おおー! 懐かしー……って、あれ? おい! なんか、人がいるぞ」
圭太「ホントだ……。廃村になってたはずなのに……」
場面転換。
バタンと車のドアを閉める圭太と旭。
旭「どうなってるんだ? 普通に人が住んでるみたいだぞ」
圭太「聞いてみようぜ。あのー」
女性2「はい?」
旭「ここって、廃村になりませんでしたっけ?」
女性2「え?」
圭太「いや、その……ダム建設で……」
女性2「……ああ。一度はダム建設で廃村になったけど、すぐにダム建設が中止になったでしょ? だから、出てった人が戻ってきてたのよ」
旭「そ、そうなんですか……」
場面転換。
道を歩く旭と圭太。
旭「村に戻れるなんて話、聞いたことあったか?」
圭太「聞いてたら、こんなショック受けてねーよ」
旭「だよな。みんな戻って来るなら、俺も戻りたかったな。俺、この村、好きだったし」
圭太「お前が好きだったのは良子ちゃんだろ? あの頃は、お前、こんなシケた村、早く出たいとか言ってたじゃねーか」
旭「うるせーな……」
圭太「そんなに好きなら、引っ越すときに連絡先、交換しておけばよかったのに」
旭「……だよなー。なんで、小学生って、変に格好つけたがろうとするだろうな? 引っ越すときも、良子ちゃんのこと、興味ないフリなんかしてさ。意味わかんねーよな。なんもいいことねーじゃん。どうせ、だったら思い切って、連絡先交換しておけばよかったんだよな。断られたって、顔合わせることないんだしさ」
圭太「ま、ガキだったってことだな」
旭「はあ……。良子ちゃん……」
圭太「後悔してたって意味ねーだろ。それより、せっかく来たんだ。思い出の場所を巡ろーぜ」
旭「そうだな」
場面転換。
立ち止まる旭と圭太。
旭「おいおいおい……。校舎が違うぞ」
圭太「立て替えたんじゃねーのか? 15年経ってるし」
旭「マジか……。くそ、俺たちの思い出の場所が……」
圭太「まあ、しょーがねーって。他に行こうぜ」
旭「あ、ああ……」
場面転換。
道を歩く旭と圭太。
旭「なあ、圭太……」
圭太「ああ。……やべーな」
旭「こんなに変わるもんかな?」
圭太「いや、15年経ってたとしても、記憶にある場所が一つもない、なんてことはないだろ」
旭「だよな。……なんだよ、ここ。まるで、別のとこだよ。すげー、気持ち悪い感じがする」
圭太「も、もう帰ろうぜ」
旭「そうだな」
場面転換。
旭「……嘘だろ?」
圭太「なんでだよ! 車、この駐車場に止めたよな? な?」
旭「車が無くなるなんて、有りかよ……」
圭太「もう、訳わかんねーよ! 廃村になったはずなのに、人がいるし、村が全然違うものになってるし、車までなくなってるし! なんなんだよ! こんなとこ、ふるさとでも、なんでもねーよ!」
旭「……もしかして、異世界に来ちまったかも」
圭太「は?」
旭「ほら、小学生の時、流行っただろ? 異世界に行く方法」
圭太「あったけど、別に、あの方法してない……あっ!」
旭「そう。多分。小学生の頃にやった、結界が生きてるんだと思う。それで、俺たち、ここに来るときに迷っただろ? あのとき、3回、村の周りを回っちゃんだよ」
圭太「そんなバカな……」
旭「いや、でもそう考えたら辻褄が合うんだ。村に人が戻ってきてるとか、村が全然違うものになってたりとか、……車、なくなってたりとか……」
圭太「嘘だろ? 異世界なんて……。どうやって帰るんだよ!」
旭「待ってくれ! 今、思い出す。……確か、異世界でも、一人だけ、元の世界にいる人がこの村の中にいるはずだ。その人に会って、戻してくださいって言えば、戻れるはず」
圭太「いや、元の世界にいる人って、誰だよ?」
旭「知らねーよ。とにかく、村に誰がいたか、思い出せ。じゃねーと帰れねーぞ」
圭太「思い出せるわけねーだろ! 15年前だぞ! 小学校のときだぞ!」
旭「俺に当たったって、しょうがねーだろ! とにかく、思い出せって」
圭太「無理だって!」
良子「あのー。どうかしたんですか? 大声出して」
圭太「あ、すいません。……って、あっ!」
良子「え?」
旭「……もしかして、良子ちゃん?」
良子「……あっ! 圭太くんと旭くん?」
圭太「元の世界と同じ人って、良子ちゃんだったのか」
旭「よかったー。助かった」
良子「え? なになに?」
旭「良子ちゃん。お願い。俺たちを元の世界に戻してくれ」
良子「は?」
旭「あ、いきなりごめん。実は……」
場面転換。
良子「ふふふふ。あはははははは!」
旭「良子ちゃん?」
良子「無理よ」
旭「え?」
良子「二人を異世界から戻すことはできない」
圭太「そ、そんな……どうして?」
良子「だって、ここ、異世界じゃないから」
旭「ど、どいうこと?」
良子「ふふふ。ここ、宮倉村じゃないよ。宮倉村は隣の県」
旭「は?」
旭(N)「つまり、俺たちは、全然違う村に来て、見覚えがないと騒いでただけだった。……そりゃ、村の中に見覚えがないのも、ここに来るのに迷ったのも当たり前だ。ちなみに、村に駐車場は2つあって、俺たちが車を止めた駐車場は、村の反対側らしい。村をうろついている内に、単に迷っただけだった。……はあ。とんだ、里帰りだったな。……まあ、唯一、良かったことは、良子ちゃんに再会できたことだ」
終わり。
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