【声劇台本】アルバイト

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■概要
人数:5人以上
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
亮平(りょうへい)
リーダー
愛乃(あいの)
佳祐(けいすけ)
その他

■台本

人々のざわざわと騒めく音。

亮平「……結構、人多いな」

リーダー「亮平くん、来てくれ。みんなに紹介する」

亮平「あ、はい!」

亮平がリーダーの方へ歩いて行く。

リーダー「みんな! 前から話していた亮平くんだ。今回、アルバイトとして参加してくれる」

その言葉を聞いて、さらにざわざわが大きくなる。

男1「……なんで、あんなやつが」

男2「いくら人手がないからって、大丈夫なのか?」

佳祐「あの、リーダー! 別にバイトなんて使わなくたって、俺たちだけでやれます!」

そうだ、そうだ!と他からも声が上がる。

リーダー「佳祐やみんなの言いたいこともわかる。だが、考えてもみてくれ! 今回の作戦が失敗すれば、我々は家を失う! またここみたいな場所が見つかるとは限らない。プライドを優先している場合じゃないはずだ」

佳祐「……そ、そりゃそうだけど」

リーダー「逆に言えば、今回の作戦が上手く行けば、ここの取り壊しの話もなくなるはずだ」

佳祐「……」

リーダー「みんな。ここは正念場だ。思うことはあるだろうが、飲み込んで、協力してくれないだろうか」

佳祐「……わかったよ。おい! お前!」

亮平「え? あ、はい」

佳祐「バイトだからって……自分とは関係ないからって、手を抜いたら承知しないぞ。失敗したら……わかってるだろうな?」

亮平「……頑張ります」

佳祐「ちっ!」

場面転換。

フクロウの鳴き声や犬の遠吠えが聞こえてくる。

亮平「あの……相手が今晩来るって、確かなんですか?」

佳祐「ああ。梅さんが聞いていたから、間違いない」

亮平「梅さん?」

佳祐「ほら、あそこにいる8歳くらいで着物着てる人。あれが梅さんだ」

亮平「……あの人は、すごいですね」

佳祐「お? わかるか? 梅さんは200年の大ベテランだからな」

亮平「200年、それは凄いですね。でも、あの人がいれば、わざわざ俺が手伝うまでもないかと思うんですが……」

佳祐「そうでもねえ。来る奴らが全員、霊能者って保証がないからな」

亮平「あ、そっか」

佳祐「霊能者だけ見えててもインパクトは少ない。逆に普通の人間全員が怪奇現象に遭えば、信ぴょう性が増すだろ?」

亮平「確かに……。でも、あんまり派手にやると、逆に人が集まってきませんか? 心霊スポットとして」

佳祐「だから、徹底的にやる。本当にここはヤバいと思わせるんだ」

亮平「なるほど」

佳祐「絶対に、取り壊しなんてさせねえぞ。こんな廃屋なんて、日本中探しても滅多にねえからな」

亮平「廃屋ってわからないくらいですもんね」

佳祐「……もし、今回上手くいったら、お前も住んでいいぜ」

亮平「あー、いや、遠慮します」

佳祐「お……。来たみたいだぞ。作戦開始だ。……念を押しておくが、お前の役目は裏方だからな。絶対に見られるなよ!」

亮平「……わかってます」

場面転換。

中年男性「愛乃先生、ここです」

愛乃「……なるほど。雰囲気ありますね」

中年男性「もう少し行くとテーマパークがありましてね。ここはそのホテルです。で、このテーマパークの会社の社長が政治家と裏でつながっていることがバレましてね。オープン前に閉鎖、ってわけです」

愛乃「ということは、ここで何か事件があったとか、事故があったというわけではないんですね」

中年男性「ええ。そうなんです」

愛乃「それなのに幽霊が出るという噂が出たと?」

中年男性「はい。ここを取り壊して、新しいホテルを経営したいんですけどね。取り壊しの業者がやたらと怪奇現象に遭ったみたいで」

愛乃「……ふむふむ。ということは、低級霊の集まりという可能性が高いですね」

中年男性「低級霊……ですか?」

愛乃「ええ。たまに、こういう綺麗な廃屋に集まるんですよ。住みかとして。ですが、地縛霊でも悪霊でもない、ただの幽霊。大した霊力も持っていない輩でしょう。せいぜい、変な音が聞こえた気がしたり、寒気がするくらいが関の山でしょう」

中年男性「ええ。確かに大した被害はないのですが、頻繁らしくて」

愛乃「いいでしょう。私がささっと除霊してあげます」

中年男性「さすが愛乃先生。よろしくお願いいたします」

場面転換。

ドアを開けて、中年男性と愛乃が入って来る。

中年男性「あのー。外でパパ―っと除霊は出来ないんですか? 中に入る必要はあるんでしょうか?」

愛乃「まあ、結界を張って、追い出すという方法がありますが、結界の効果が切れたら、また戻ってきてしまうんですよね。だから、建物の中に入って、結界で追い詰めてから一掃する方が確実でしょう」

中年男性「な、なるほど……。あの、ホントに危険はないんですよね?」

愛乃「ええ。霊感が強い人でも、少し声が聞こえたり、体を触られるような感覚になるくらいです。危害を加えるようなことはできませんよ」

中年男性「そ、それならいいのですが」

突然、バタンと扉が閉まる音。

中年男性「ひい!」

愛乃「え?」

中年男性「ど、ドアがかかか勝手にしましましたが、だだ大丈夫なんですよね?」

愛乃「意外とそこそこの霊力を持った霊がいるみたいですね。私の傍から離れないでください」

中年男性「は、はひぃ」

女の子の声「きゃははははははは」

愛乃「……今の声、聞こえました?」

中年男性「へ? なにがですか?」

愛乃「……確かに、今の声はそこそこ霊力がこもっていた。だけど、社長さんが聞こえない程度。それなら、除霊は可能……」

ダダダダと人が走る音。

中年男性「い、今の、声じゃないですよね?」

愛乃「……社長さんでも聞こえる音を立てられるってことは、さらに上ってこと? でも、除霊道具を全部使えば……」

ガシャンと窓が割れる音。

中年男性「ひいいい!」

愛乃「……」

ヒュッと物が飛び交う音。

それが何度も起こる。

中年男性「こ、こ、これはポルタ―ガイスト……ってやつですか?」

愛乃「無理無理無理! 物を動かせるほどの霊は無理よ!」

ダダダと走り出す愛乃。

中年男性「ああ! 愛乃先生! 待ってくださいよー!」

中年男性も走っていく。

場面転換。

リーダー「いやー、上手くいったね。ありがとう! バッチリだ!」

亮平「いえいえ……」

リーダー「これで、ここは当分の間、取り壊されることはないはずだ」

亮平「じゃあ、俺は仕掛けを回収して帰りますね」

リーダー「ああ、そうだ。いけないいけない。大事なものを渡し忘れるところだった。はい、これ。今日のバイト代」

亮平「ありがとうございます。……って、いいんですか? こんなに?」

リーダー「まあ、我々には必要のないものだからね。貰っておいてよ」

亮平「じゃあ、お言葉に甘えて」

リーダー「また何かあったら頼むね」

亮平「はい。……でも、あの……。このお金はどうやって手に入れてるんですか?」

リーダー「はっはっは。亮平くん。世の中には知らない方がいいこともあるんだ。……わかるね?」

亮平「は、はい……」

終わり。

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