【声劇台本】不思議な館のアリス 兄弟愛

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■概要
人数:1人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス

■キャスト
アリス

■台本

アリス「いらっしゃいませ。アリスの不思議な館へようこそ」

アリス「……ああ、この顔の傷ですか? 妹と喧嘩をしましてね。いつもであれば、口喧嘩ですむのですが、今回は妙に怒らせてしまったようで、手を出させてしまいました」

アリス「妹には悪いことをしてしまいました」

アリス「え? やられた側なのに、妹を庇うのか、ですか? そうですね。喧嘩の原因を作ってしまったのは私ですし、なにより妹に悪意はないとわかってますから」

アリス「苦しいのは、傷ついた私ではなく、私を傷つけてしまった妹の罪悪感のほうでしょうから」

アリス「ええ。昔から、兄妹仲はいいと言われてましたね。いつも、妹は私にべったりで……って、こういうことを言うから喧嘩になってしまうんですよね」

アリス「私の悪い癖です」

アリス「……そうだ、どうでしょう? 今日は一風変わった兄弟のお話でも、しましょうか」

アリス「その兄弟は、ある国の国王の息子……つまり王子でした」

アリス「年が近かった兄弟は、とても仲がよく、いつも一緒だったといいます」

アリス「特に何事もなく、その兄弟は成長していきます。もちろん、王子ですから、兄の方がやがては王になり、国を治めることになります」

アリス「弟の方はそのことに納得していて、特に玉座を狙うなどはしなかったようです。逆に王になる兄を支えられることに喜びさえ感じていたようです」

アリス「小さい頃から兄を慕い、兄に仕え続けることを誇りに思っていたようです」

アリス「兄の方もけして驕ることはせず、弟のことをとても可愛がっていました」

アリス「ですが、そんな二人の運命を大きく変える出来事が起こります」

アリス「それは、弟への結婚の打診でした。隣国では、王位継承権を持つ、男子が生まれなかったことと、そもそもその隣国は、兄弟の国から独立した小国で、血筋を辿れば同じになるようです」

アリス「弟の方を国に欲しいという願いにたいして、兄弟の親である国王は了承しました」

アリス「縁談はとんとん拍子に決まり、弟は国を出て隣の国へと向かうことになります」

アリス「そのとき、弟の方はちゃんと納得していたようです。隣国から兄を支えることはできると考えていたからだそうです」

アリス「皮肉にも、兄よりも先に玉座にすわることになった弟……」

アリス「常に、王になるであろう兄にどう尽くすかばかりを考えていたようです」

アリス「それから、10年の月日が経ちます。兄は弟のいない生活にも慣れ、王に相応しい人物になろうと勉学にも力をいれていたそうです」

アリス「そして、運命の日がやってきます。きっかけは、国王の死、です。国王が死去したことで、その次の王位に、兄がつくことになります」

アリス「兄が王位についた、その日。隣国の王である弟が兵を率いて、兄の国に攻めてきました」

アリス「兄の方は混乱しました。一体、なぜこんなことをするのかと」

アリス「兄は弟に何度も、侵攻を止めるように説得しますが、弟の方は聞く耳をもたなかったそうです」

アリス「ただ、侵攻といえども、兵士の数は少なく、各地で小競り合いがある程度だったらしいです」

アリス「小競り合いとはいえ、常に弟からの侵略に頭を悩ませていたそうです」

アリス「弟の方も、一気に兵士を投入することもなく、常に小競り合い程度に収めていました」

アリス「そんな状態のまま、10年、20年と月日は流れていきます」

アリス「その間も兄の方は、弟に停戦を呼びかけますが、一向に聞く耳を持たない状態だったようです。ですが、さらに兵を投入するでもなく、あくまで小競り合いばかりをしてくることに、兄は、弟が一体何を考えているのかがわからなくなります」

アリス「そして、そんなある日、兄の方が流行り病にかかってしまいます」

アリス「そのことはもちろん、隣国の王である弟の耳にも入っていました」

アリス「それでも弟は兄を心配する言葉を送るでもなく、小競り合いをさらに多く仕掛けていきました」

アリス「兄の方は病に侵されながらも、ずっと弟のことを考えていたそうです」

アリス「そして、ついに兄の方は病で亡くなってしまいます」

アリス「その悲報は隣国の弟の耳にも入ってきました」

アリス「すると弟の方は兄の国との停戦を求め、さらに賠償金を払ったそうです」

アリス「その後、弟の方は王の座を退き、今までの責任を取るということで、自害してしまいました」

アリス「これで、この話は終わりです」

アリス「え? 弟は一体何を考えていたのか、ですか?」

アリス「さあ? 死んでしまわれた今では、理由を聞くこともできませんから」

アリス「……ふふ。申し訳ありません。確かに、これでは気になってしまいますよね」

アリス「これはあくまで、私の考えなので合っているかはわかりません」

アリス「私が思うに、弟はずっと兄のことを慕っていたのだと思います」

アリス「……ええ。そうですね。では、その理由を話します」

アリス「おそらく、弟の方は、兄にずっと自分のことを考えていた欲しかったのではないでしょうか」

アリス「離れ離れで暮らす兄弟。やがて兄は弟のいない生活に慣れて、弟のことを思い出すことも少なくなっていきます」

アリス「きっと、弟はそれが許せなかったのではないでしょうか」

アリス「例え、恨みの感情でもいい。常に自分のことを考えていて欲しい。そう思ったのではないでしょうか」

アリス「その考えに沿ってみると、小競り合いばかりを続けていたということに納得ができます」

アリス「あくまで自分のことを考えていてほしいだけですからね。本当に侵略してしまっては意味がないというわけです」

アリス「さて、どうでしたか?」

アリス「今回は愛情が強すぎるというのは、返って人を苦しめてしまう、という話でした」

アリス「ふふ。それでは、今度こそ、今日のお話はこれで終わりです」

アリス「またのお越しをお待ちしております」

終わり。

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