【声劇台本】電波と霊界の間に
- 2021.08.29
- ボイスドラマ(10分)
■関連シナリオ
■概要
人数:2人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
真(まこと)
羽村 美夜(はむら みや)
■台本
真(N)「宇宙人と話をしたい。最初はただ、あいつの願いを叶えたかっただけ。毎日、毎日、真剣に交信をしようと試みているあいつの姿を見て、その願いが叶って欲しい、叶えてやりたいと思ったのがきっかけだった。トランシーバーを使って交信する方法を教えて……俺が宇宙人のフリをすることであいつの願いを叶えた。……だが、これはあいつを騙す行為だ。あいつの願いを叶えるために、俺はあいつをだまし続ける。果たしてそれは、あいつにとって、喜ばしいことなんだろうか?」
ザザっというトランシーバーのノイズ音。
美夜「……どうかしたの?」
真「え? いや、なんでもない」
美夜「何か悩み事があるなら、聞くよ?」
真「いや、大丈夫だ。宇宙人に悩みなんかない」
美夜「そう……」
真「それより、羽村のことが聞きたいな」
美夜「なにが聞きたいの?」
真「そうだなぁ。小学校のときのこと、聞いていいか?」
美夜「うん。でも、あんまり今と変わらないかも……」
場面転換。
学校のチャイム。
階段を上る真。
真「……はっくしゅん。うう、風邪かな」
ガチャリとドアを開けて、屋上に出る。
真「よお、羽村……って、なにやってんだ? 変な棒持って」
美夜「……ダウジング。幸せを見つけようと思って」
真「へー。幸せを見つけられるのか。すげーな」
美夜「うん。宇宙の技術」
真「なんでもありだな、宇宙人」
美夜「宇宙人はすごいの」
真「けど、なんで急に幸せなんか探そうと思ったんだ?」
美夜「真にプレゼントしようと思って」
真「え?」
美夜「最近、なんか悩んでるみたいだから。元気出してもらいたくて」
真「な、何言ってんだよ。俺はいつも元気だって。それより、羽村、雑誌、新しいの出てたぞ」
ガサガサとカバンを漁って、一冊の本を出す。
真「月刊オカルト。いつも読んでただろ?」
美夜「ありがとう。でも、これ、霊界通信の方」
真「へ?」
美夜「月刊オカルトには銀河通信と霊界通信があるの。霊界通信は幽霊の特集が載ってる」
真「え? あ、ホントだ。幽霊とか妖怪の話ばっかだ。くそ、間違った」
美夜「似てるからしかたないよ」
真「……羽村は幽霊って信じてるのか?」
美夜「……うん。わかんない。宇宙人にしか興味なかったから」
真「そっか……。興味なかったか」
美夜「でもいると思う」
真「え?」
美夜「宇宙人がいるなら、幽霊もいると思う」
真「……あー、確かに。宇宙人がいるなら、幽霊もいそうだよな……はっくしゅん」
美夜「……風邪ひいたの?」
真「いや、大したことないよ。それじゃ、俺はそろそろ行こうかな。羽村は今日も宇宙人と話すんだろ?」
美夜「……うん」
場面転換。
トランシーバーのノイズ音。
真「我は宇宙じ……はっくしゅん!」
美夜「……風邪、大丈夫?」
真「いや、風邪じゃない。宇宙人は風邪ひかないからな」
美夜「そんなことない。宇宙風邪っていうのがある」
真「え? そうなの? じゃ、じゃあそれかな」
美夜「無理しない方がいい。今日は帰って寝た方が良いよ」
真「あー、そうだな。そうするよ」
美夜「駅前の薬局に売ってる、超ユッケルがすごく効くよ」
真「ありがとう。買って帰るよ。じゃあな」
美夜「うん」
場面転換。
ドアを開けて、真が部屋に入って来る。
真「はっくしゅん! あー、やべえ。本格的に悪化してきたか? さっそく、超ユッケル飲むか……」
ガタンとトランシーバーを落とす真。
真「くそ、トランシーバーが。……あれ? やべ! 宇宙人用の周波数から変わっちまった。どれだっけ?」
カチカチとチャンネルを動かす真。
ザザザとトランシーバのノイズ音。
女の声「……寂しい。寂しいな」
真「うわっ! なんか、繋がった」
女の声「え? 今日はもう帰ったはずじゃ」
真「あー、すいません。チャンネル動かしてたら繋がってしまったみたいです。間違い電話……じゃなくて、間違い電波です」
女の声「……」
真「じゃ、じゃあ、切りますね」
女の声「……私は幽霊」
真「え? ゆ、幽霊?」
女の声「そう。このチャンネルは霊界に繋がる周波数」
真「……マジか。ホントにいたんだ、幽霊」
女の声「……今、何か悩みがあるの?」
真「え? な、なんで知ってるんだ?」
女の声「幽霊はすごいの。何でも知ってる」
真「……宇宙人みたいだな」
女の声「悩みってなに?」
真「いや、でも、見ず知らずの幽霊に悩みを相談するっていうのもな……」
女の声「見ず知らずだから、相談しやすいと思う。誰にもバレないし」
真「ああ、そっか。なるほど。じゃあ、聞いてもらおうかな。えっと……俺、今、気になっている奴がいるんだ」
女の声「……うん」
真「俺、そいつの願いを叶えるためっていってさ、嘘付いたんだ」
女の声「嘘?」
真「ああ……。そいつはさ、宇宙人と話すのが夢だったんだ。だからさ、俺、宇宙人のフリして、そいつと話してるんだよ。……でもさ、これって、おかしいよな。あいつを喜ばせるために、俺は嘘を付いてる。あいつの笑顔を見るために、あいつを傷つけてるんだ」
女の声「……」
真「きっと、いつかバレると思う。でもさ、嘘だってわかったら、あいつ……きっと落ち込む。もちろん、俺は嫌われると思う。それくらいのことをしてるからな。でも、あいつが、夢が叶ったのが嘘だって知って、落ち込むのは嫌なんだ。あいつ、喜んでたんだよ、願いが叶ったって」
女の声「……」
真「あー、くそ。どうして、俺はあんなことしちまったんだろ。あいつの喜ぶ顔が見たいってだけで、あんな嘘を……」
女の声「大丈夫」
真「え?」
女の声「その子は傷ついてない。真……あなたのその気持ちが嬉しいと思う」
真「い、いや、わかんないだろ、そんなこと」
女の声「わかる。だって、幽霊は凄いから」
真「……信じていいのか?」
女の声「うん。だから、あなたは気にしなくていい。たくさん、その子とお話してあげて」
真「わかった。ありがとな。……えっと、その、もう少し相談に乗ってくれないか? そいつとどういう話をしたら喜ぶかとか、色々聞きたいんだ」
女の声「……でも、風邪は?」
真「悩みが解消したらよくなった」
女の声「そう。じゃあ、いっぱい、話そ」
真「ああ。それでさ……」
場面転換。
学校のチャイム。
屋上にやって来る真。
真「羽村、聞いてくれ! お前の言うとおり幽霊いたぞ! トランシーバーで通話できたんだ」
美夜「すごいね」
真「ああ。今日も話す約束してるんだ……って、あ!」
美夜「どうしたの?」
真「羽村、宇宙人と話すんだよな」
美夜「大丈夫。宇宙人は宇宙風邪でしばらくお休みだから」
真「そっか。よかった。じゃあ、俺、これから幽霊と話すから、行くな」
美夜「うん」
場面転換。
ガラガラと教室のドアを開ける真。
放課後なので誰もいないので、静か。
真が机に座り、トランシーバーのスイッチを入れる。
ザザザというノイズ音が響く。
しばらくした後、プツという繋がる音。
女の声「……私は幽霊」
終わり。
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