【声劇台本】熱い視線

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■概要
人数:3人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ

■キャスト
高城 智和(たかしろ ともかず)
南出 詩音(みなみで しおん)
教師

■台本

智和(N)「僕には好きな人がいる。中学生の時から、ずっと思い続けている人が。その人を追って、この高校に来たくらいだ。そして2年生になったとき、同じクラスになった。僕はこれは運命なんじゃないかと思ったんだ」

授業中の教室内。

教師「じゃあ、ここに入る数字を……南出」

詩音「はい。5Aです」

教師「正解だ」

智和「さすが詩音さん。完璧すぎる。容姿端麗で勉強も学年のトップクラス。もちろん、男からの人気も絶大だ。毎週、一人は詩音さんにアタックして敗北している。まあ、そりゃそうだろう。いきなり知らない人間から好きだと言われても引くに決まっている。負けが確定している相手に突っ込むようなものだ。当然、僕はそんな愚行はしない。まず、ここで重要なのが僕という存在を詩音さんに認識してもらわないとならない。その他多数の中から、一歩前に出ることが肝心だ。スタートと言っていい。じゃあ、それをするにはどうしたらいいか。無理やり話しかける? 論外。気持ち悪がられて終了だ。誕生日や記念日にプレゼントを渡す? アウト。ストーカー扱いされて近づくことすら不可能になる。では、どうするか? ここで発想の転換が必要になる。こちら側からアクションを起こすのでは、ハードルが高すぎる。だから、相手の方からこちら側にアクションをしてもらう、つまり気になる存在になることだ。ただ、相手に気になってもらうのは、かなりハードルが高い。考えられる例としては勉強で好成績を収めたり、体育の授業などのスポーツで活躍することだ。確かにそれは目立ちやすく、詩音さんに認識してもらいやすいだろう。だが、それはハッキリ言って現実的ではない。勉強で詩音さんより高い点数を取れるわけがないし、体育の成績が2の僕が活躍できる競技なんて存在しない。じゃあ、どうするか? それはごく自然に、彼女の視線に入ることだ。何度も視界に入ることで、無意識に僕という存在が刷り込まれる。本当に潜在的でいいんだ。潜在意識に潜り込めれば、第二段階の話しかけるは高確率で成功するだろう。さあ、ここで本題だ。どうやって彼女の視界に入るか。彼女の前をうろちょろすればいいという話ではない。そんなことをすれば奇行しているようにしか見えない。まあ、変な人間として認識されるかもしれないが、それでは本末転倒だ。この問題を解決するには、ここでも発想の転換が必要になる。こちらが彼女の視界に入るのではなく、彼女の方から僕を見て貰えばいい。……結論を言おう。ふとした瞬間、誰かに見られているような感覚に陥ることはないだろうか? そのときはどうする? そう。その視線を感じる方向を見るのではないだろうか? つまり、僕の作戦は常に彼女に対して、強い視線を向けることだ。そうすれば、彼女は僕の視線を感じて僕の方を見る。それを何度も繰り返せば、彼女の意思で、僕を何度も見る、という状況が生まれる。もしかすれば、僕のことが気になっていると思い込んでくれれば、なおよしだ」

教師「……城。高城!」

智和「え? あ、はい」

教師「ここに入る記号は?」

智和「え、えっと……5Bです」

教師「記号だと言ってるだろ。×(かける)だ」

ドッと、教室内に笑いが起こる。

智和(N)「くそー。あの腐れ教師。恥をかかせやがって。あとで呪いかけてやる……。って、あ、詩音さんも笑ってぞ。……よし! 俺という存在をアピールできた。質問、間違ってよかったな」

場面転換。

スズメの鳴く声。

智和(N)「学校が休みの日でも、もちろんやることはある。……というより、どちらかというと休みの日の方が重要だ。学校内で僕がいるということは当たり前だろう。だけど街中で会えば、どうだろうか? そこには偶然という要素が入る。その偶然が何度も続けば、それは奇跡だ。だが、奇跡なんてものは待っていても起こらない。奇跡は待つのではなく、起こすものなのだ。ということで、休みの日は朝から詩音さんが出かけるのを尾行するために、家の前に張り込みをする。そして、出かけた先で、詩音さんの近くを通り過ぎるのだ。ここで大きなポイントが一つ。それは話しかけないこと。話しかけると途端に嘘くさくなる。ここは敢えて、こちらは気づかないフリをするクレバーさが必要なのだ」

ガチャリと家のドアが開き、詩音が出てくる。

智和(N)「よし、出て来た。尾行開始」

場面転換。

ファストフード店。

店内は賑わっている。

智和(N)「まさか、詩音さんがジャンクフードを食べるなんて。まさかの意外性。こういうギャップはますます好きになる。……そして、ここは大きなチャンスだ。なにより、ファストフード店に僕がいるという状況はごく自然なことだからだ。これが図書館の中だと、僕がそんなところにいること自体、違和感にしかならない。とにかく、絶好のチャンス。……彼女に、強くて熱い視線を送る!」

店内の賑わいの音。

智和(N)「よし! 気付いた! こっちを見るぞ。……ここで敢えてこっちの視線は逸らす。あくまでこっちは気づいていないテイが必要だ」

店内の賑わいの音。

智和(N)「ふふ。成功だ。確実に彼女はこっちを見た。つまり僕の存在に気付いたはず」

店内の賑わいの音。

智和(N)「……あれ? なんか、ずっと視線を感じる。……まさか。……やっぱり、詩音さん、ずっとこっちを見てる。……え? なんで? なんで、そんなに僕を見るの? 一回、認識してくれればそれでいいのに」

店内の賑わいの音。

智和(N)「ヤバい、まだ見てる。……もしかすると僕の作戦、思ったより進行してるのか? もしかすると、もう、詩音さんの中で僕という存在は認知され、気になり始めてるとか? ヤバいヤバいヤバい。マジか。ということは、気になっている僕が偶然、ここにいることに関して、運命を感じてるとか? リアルにあるかもしれない。だって、すごい見てるもん。まだ見てるよ。あー、これもう確定だね。僕に惚れちゃってるね。だとすると、もう動くべきだ。第二段階の話しかけるに移行しよう。上手くいけば、今日中に付き合うまでいけるかもしれない」

立ち上がり、詩音の方へ歩く智和。

智和「やあ、詩音さん。偶然だね。よく、この店、来るの?」

詩音「え? あ、やっぱり、知ってる方でしたか」

詩音がガサガサとカバンを漁り、眼鏡ケースを出して眼鏡をかける。

詩音「ごめんなさい。さっき、コンタクトが外れてしまって……」

智和「詩音さんの眼鏡姿……。可愛い」

詩音「えっと……あの……どちら様ですか?」

智和「……へ?」

終わり。

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