【声劇台本】不思議な館の亜梨珠 偽物のドア
- 2021.09.04
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:1人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス
■キャスト
亜梨珠(ありす)
■台本
亜梨珠「いらっしゃい。亜梨珠の不思議な館へようこそ」
亜梨珠「さて、今日はどんな話をしようかしらね」
亜梨珠「……って、どうしたの? 随分と暗い表情をしているようだけど」
亜梨珠「……ふーん。なるほどね。昔からの知り合いが独立したの」
亜梨珠「いいことじゃない。祝ってあげたらどうかしら?」
亜梨珠「……まあ、気持ちはわからなくもないけど、あまり他人と比べてもいいことはないわよ?」
亜梨珠「それに、独立したからといって、いいことばかりじゃないわよ。会社員は会社が責任を負うけど、独立したら自分で責任を負わなきゃならないの。これって結構なプレッシャーだと思わない?」
亜梨珠「……え? 自由なのが羨ましい? ……そうね。大抵の人は独立した人を見て、自由なところを羨ましがることが多いわよね」
亜梨珠「でも、考えてみて。会社員の場合、休日は文字通りお休みすることができるけど、独立した場合は休日だからって休めるわけじゃないのよ。下手をすれば、ずっと休みを取らない、なんてこともあるかもしれないわね。働くか、休むか、文字通り自由なんでしょうけど」
亜梨珠「ふふふ。その自由が羨ましいのかしら?」
亜梨珠「でも、昔から言うでしょ? 隣の芝生は青いって。大概は隣に住んでみたら、草木がぼうぼうで荒れ果ててた、なんて結構ざらなのよ?」
亜梨珠「……それでも納得できないかしら?」
亜梨珠「……うーん。そうね。あなたは今の状態は不自由のように言っているけど、今のあなただって自由よ」
亜梨珠「大体、自由なんてものは意識が決めるものなよ。どんなに他の人から見て、自由気ままそうに見える人だって、その人の中で自由を感じていなければ、自由じゃないし、その逆もしかりよ」
亜梨珠「どんなに忙しそうに動き回っている人だって、ふとした瞬間に自由を感じられれば、それは自由というわけよ」
亜梨珠「つまり、その人の意識次第ってわけ」
亜梨珠「だから、あなたも、自分は自由だと思っていれば、自由なのよ」
亜梨珠「ふふ。まだ全然、納得していないようね」
亜梨珠「そうね……。それじゃ、今日は自由に関するお話をしましょうか」
亜梨珠「これはある世界に存在する施設に住む子供たちのお話よ」
亜梨珠「その施設の外の世界は様々な原因で、人が生きられないような状態になっているの」
亜梨珠「こっちの世界でいうと……高い放射線量が残っているという感じかしら」
亜梨珠「とにかく、施設を管理している大人たちは何とか子供たちを施設から出ないようにさせないといけないというわけよ」
亜梨珠「あなたならどうするかしら?」
亜梨珠「……そうね。説明して外に出ないように注意する……。確かにそれは大人に対しては有効だとは思うけれど、子供にとってはどうかしら?」
亜梨珠「行ってはいけないという場所に行きたがるのが子供なのよ」
亜梨珠「最初、大人たちは絶対に外に出てはいけないと言って、施設のありとあらゆる出入り口を封鎖したの」
亜梨珠「それでも子供たちは何とか外に出ようと新たに出入り口を作ったり、抜け道を探したりと、外に出たがる子供が続出したというわけ」
亜梨珠「中には外に出られない、自分の生活ががんじがらめに縛られていると感じで心を病む子供もいたみたいね」
亜梨珠「そこで、施設の人とたちはどうししたかというと……」
亜梨珠「ドアを作ったの」
亜梨珠「正確に言うとドアの張りぼてね。もちろん、子供たちから見たら本物と区別がつかないくらいものよ」
亜梨珠「そして、さらに子供たちにこう言ったのよ。あのドアからなら自由に外に出られる。でも、一度、外に出たらここには戻ってこられない、と説明したの」
亜梨珠「するとどうなったと思うかしら? ぴたりと外に出ようとする子供たちはいなくなったそうよ」
亜梨珠「いつでも自由に外に行けるという意識が強いから、今じゃなくてもいいと思ってしまうのね」
亜梨珠「例えていうなら、そうね……。見たいテレビ番組があって、だけどちょうど用事があって、見られないから録画をしておくの。録画ならいつでも見られるでしょ? でも、返っていつでも見られると思うと、今じゃなくてもいいって思ってしまうことってないかしら?」
亜梨珠「人間ていうのは面白いものよね。やるなと言われれば、やりたくなるし、逆にやって良いと言われると、途端に面倒くさくなってやらない。そんな経験、あなたにもないかしら?」
亜梨珠「とにかく、施設では脱走する子供はほぼいなくなったのだけど、もう一つ関連した話なんだけど……」
亜梨珠「ある日ね、ちょっとした事故で、その張りぼてのドアが壊れてしまったの。それで、そのドアを修理するまで、外には出られないと説明したわ」
亜梨珠「それで……どうなったと思うかしら?」
亜梨珠「ええ。予想通り、脱走を試みる子供たちが出て来たのよ」
亜梨珠「しかも、自分たちの自由が奪われたと言って、施設の大人に対して抗議をしたり、授業をボイコットしたりと、色々大変だったようよ」
亜梨珠「……でも考えてみて。子供たちから見れば、状況は何一つ変わっていないのよ」
亜梨珠「張りぼてのドアから外には行けるわけもないからね」
亜梨珠「でも、その偽物のドアが無くなると大騒ぎになったというわけ」
亜梨珠「その子供たちは偽物のドアがあるだけで、自由を感じていて、でも無くなれば、不自由と思ってしまったの」
亜梨珠「ふふ。言いたいことは伝わったかしら?」
亜梨珠「そう。つまりは自由なんて状況は変わらなくても心の持ちようで自由になれることもあるというわけよ」
亜梨珠「だからあなたも考えてみて。あなたは自由よ。あなたが羨ましいと思う自由は本当に、会社に所属していると得られないものかしら?」
亜梨珠「案外、独立したその人よりも、あなたの方がずっと自由かもしれないわよ?」
亜梨珠「はい、これで、今回のお話は終わりよ」
亜梨珠「よかったら、また来てね。さよなら」
終わり。
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