【声劇台本】地味な学校生活

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■概要
人数:3人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
真田 達彦(さなだ たつひこ)
昌弘(まさひろ)
原田 雫(はらだ しずく)

■台本

学校のチャイム。

達彦「……」

紙をかさかさと作業をする音。

そのとき、ガラガラとドアが開く。

昌弘「おう、やってるな」

達彦「あ、先生」

昌弘「あれ? 真田。他の奴らは?」

達彦「帰りました」

昌弘「……それで、お前だけで学園祭の準備作業をやってるのか?」

達彦「ええ」

昌弘「……お前は帰らないのか?」

達彦「僕まで帰ったら、作品が完成しませんから」

昌弘「……別にいいんじゃないか? 他の奴らの分までお前がやる必要ないだろ」

達彦「……先生が言うことですか?」

昌弘「はは。教師としては失格の台詞だな。けど、人生の先輩としては正しいと思う」

達彦「……」

昌弘「真田。嫌なことは嫌とハッキリ言わないとダメだぞ」

達彦「こういう作業、好きですから」

昌弘「そうなのか?」

達彦「ええ。他の人と協力してやるより、一人でやる方が楽しいです」

昌弘「そっか……。じゃあ、ここで先生が手伝うのは返って迷惑か?」

達彦「いえ。楽しいと言っても、このままだと終わるのは夜になりそうなので、助かります」

昌弘「なら、手伝うよ。何をすればいいか、指示をくれ」

達彦「じゃあ、これを線に沿って切って、箱を作っていってください」

昌弘「これはまた、細かい作業だな」

作業をする二人。

達彦「……」

昌弘「……真田。お前、学校、楽しいか?」

達彦「つまらないですね」

昌弘「即答か」

達彦「でも……なにか思い出がほしいなとは思います」

昌弘「どんなことをしたいんだ?」

達彦「まだ、見つけれませんが、なにか派手なことがいいなと思います。みんながあっと驚くような派手なこと……。そうすれば、僕の学校の生活も輝くような気がします」

昌弘「人それぞれでいいんじゃないか?」

達彦「……どういうことですか?」

昌弘「例え、他人にはくだらないことだったとしても、お前自身が楽しいというものを見つけられればいいと思うんだ」

達彦「……」

昌弘「お前の学校生活はお前のものなんだ。他人なんて、どうでもいいじゃないか」

達彦「地味なままは嫌なんです」

昌弘「地味……ね。だけどさ、真田自身が地味だと思っていても、他人から見たら、輝いて見えることもあるかもしれないぞ。お前が気づいてないだけで」

達彦「……他人が僕をどう思っていても、僕自身が嫌だから、嫌なんです」

昌弘「……去年、先生の生徒でな、真田と同じように、自分が地味だって悩んでいた生徒がいたんだよ。だから、どうにか派手になろうと努力していたんだ」

達彦「……」

昌弘「でも、全然上手くいかなくて、相談されたんだ。それでな、先生は地味とか派手は他人によって違うんじゃないかって思うって言ったんだ」

達彦「……」

昌弘「その生徒はな、作文が上手いというのと、本を読むことが好きだったんだ。それで、小説を書いてみたらどうだ、と提案したんだよ。そしたら、あんまり考えてなかったってことで書き始めたんだ」

達彦「……」

昌弘「小説を書くって言うことが新鮮だったらしい。その生徒は凄く生き生きするようになったよ。外見は全く変わっていなくても、生活が派手になったって喜んでたぞ」

達彦「僕にもそういうのを見つけろと?」

昌弘「そういうことだ」

達彦「でも、僕には何も趣味なんか無いし」

昌弘「これから見つければいいじゃないか。真田は手先が器用なのと、根気がある。きっと、自分に合うことが見つかるさ」

達彦「……先生は僕を買いかぶり過ぎですよ。僕の取り柄なんてないです」

昌弘「……それは自分で気づいてないだけだと思うんだけどな……」

達彦「……」

場面転換。

学校祭。周りは賑やか。

達彦「……」

ガラガラとドアが開き、昌弘が入ってくる。

昌弘「あれ? 真田、まだ、クラスの出し物の受付してるのか? そろそろ変わって貰って、学園祭を見て回ったらどうだ?」

達彦「いえ、いいです。別に見て回りたいわけでもないですし」

昌弘「……はあ。まあいい。それじゃ、何か買って来て持ってきてやるよ」

達彦「あ、別に……」

ガラガラとドアを開け、昌弘が出ていく。

達彦「……」

すぐにガラガラとドアが開き、雫が入って来る。

雫「あの……。B組の展示物、見せてもらってもいいですか?」

達彦「……どうぞ」

てくてくと歩いて見て回る雫。

雫「あの……創作物ってこの一つだけですか?」

達彦「ええ。それだけです」

雫「ふーん……」

達彦「……」

雫「……とても綺麗」

達彦「え?」

雫「凄いですね、これ。どうやって作ったんですか?」

達彦「えっと……」

そのとき、ガラガラとドアが開く。

昌弘「おう、真田、買って来たぞ……」

雫「あ、先生」

昌弘「お、原田か。見に来てくれたんだな」

雫「はい」

昌弘「一つしかなけど、いいだろ、それ。そこにいる真田が一人で作ったんだ」

雫「これを一人で? 凄いですね」

達彦「……」

昌弘「……原田は一人で回ってるのか?」

雫「はい、そうですけど」

昌弘「なあ、真田もつれて見て回ってくれないか?」

達彦「ちょ、先生!」

昌弘「いいからいいから。こっからは先生が受け付けやるから。な、頼む、原田」

雫「先生が言うなら、いいですよ」

場面転換。

達彦と雫が歩いている。

雫「……もしかして、真田くんて、毎日がつまらないって思ってたりする?」

達彦「え? あ……う、うん。どうしてわかったの?」

雫「私も一緒だったから。でも、先生のおかげで、毎日が楽しくなったよ」

達彦「へえ……」

雫「真田くんは自分に何も取り柄がないと思ってるでしょ?」

達彦「え? どうして?」

雫「ふふ。そういうところも私と同じだね」

達彦「……同じ?」

雫「私もね、なにも取り柄が無いって思ってた。でも、何か派手なことしたい、派手になりたいなんて考えてたんだ」

達彦「……」

雫「でも、先生のおかげで、自分の取り柄を知ることができたの。……だから、真田くんのこともなんとなくわかるんだ」

達彦「……」

雫「真田くんは、細かい作業を黙々とすることが好きでしょ?」

達彦「え? あ、うん」

雫「やっぱり。あの展示物、すごくきれいだったよ。あれをもっと作ってみたら?」

達彦「いや、あんなの……作ったところで意味はないよ。誰も見てくれないし」

雫「そんなことないよ。少なくても私は、あの作品を見て、綺麗だと思った。見てよかったと思うし、もっと見たいと思ったよ」

達彦「……」

雫「ねえ、それじゃ、こうしない? お互い、作品を作ったら見せ合うの」

達彦「見せ合う?」

雫「そう。私、小説を書いてるんだけど、呼んでくれる人がいなくて……。だから、お互い、作ったものを見せられる相手があれば、楽しくなると思うの。どうかな?」

達彦「……それって、原田さんが単に、自分の小説を見て欲しいってだけじゃないの?」

雫「あー、そう思われちゃうか。でも、あの作品が綺麗だと思ったのは本当だよ」

達彦「……」

雫「まあ、無理強いはしないから、考えてみてね」

達彦「……わかった」

場面転換。

学校のチャイム。

ガラガラとドアが開き、昌弘が入って来る。

昌弘「真田、そろそろ下校時間だぞ」

達彦「あ、すいません。片付けます」

昌弘「……今回もまた、凝ったの作ってるな」

達彦「ええ。原田さんに負けてられませんから」

昌弘「そういえば、作品を見せ合ってるんだったな」

達彦「はい」

昌弘「……作業は相変わらず地味だな」

達彦「ええ。作品作りは地味な作業の繰り返しですから」

昌弘「そうか……」

達彦「はい」

昌弘「どうだ、真田。……学校生活は?」

達彦「……楽しいです」

昌弘「それはよかった」

終わり。

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