【声劇台本】解放
- 2021.10.11
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:3人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
智也(ともや)
美弥(みや)
麻衣子(まいこ)
■台本
ピンポーンというインターフォンの音。
智也「はーい」
ガチャリとドアを開ける智也。
智也「美弥ちゃん、いらっしゃい」
美弥「ごめんなさい、智也さん。本当に来ちゃいました」
智也「なんで謝るの? 僕が呼んだんだから、遠慮しなくていいよ。ほら、入って」
美弥「お邪魔します……」
廊下を歩き、ドアを開ける智也。
智也「今、お茶でも淹れるから、適当に座ってて」
美弥「はい、それでは……」
ソファーに座る美弥。
智也「コーヒー、お茶、紅茶、どれがいい?」
美弥「えっと、じゃあ、紅茶で」
智也「はいはーい。美味しいの淹れるから、ちょっと待っててね」
美弥「……部屋の中、随分とさっぱりしてますね」
智也「ああ。あいつのもの、大分、処分したからね」
美弥「……よかったんですか? その……捨ててしまって」
智也「いいのいいの。いらないものばっかりだったからさ。あいつ、すぐ物買ったりしてたから、邪魔くさくって」
回想。
麻衣子「ねえ、智也。肩こり酷いって言ってたでしょ? マッサージ器、安かったら買ってみたんだ」
智也「お前なぁ、また、いらんもの買って」
回想終わり。
ガサガサと戸棚を漁る智也。
智也「……って、あれ?」
美弥「どうしたんですか?」
智也「紅茶、見当たらないなぁ。あいつ、買い置きしてあるって言ってたんだけど」
美弥「あの、それじゃ、お茶でいいですよ」
智也「……えっと、冷たいのでいい?」
美弥「構いませんよ」
智也「悪いね」
冷蔵庫を開けて、ペットボトルを取り出し、コップにお茶を注ぐ。
智也「お待たせ」
智也が歩いて来る。
美弥「ありがとうございます」
智也「いやー、ダメだね。普段、あいつに任せっぱなしだったからさ。美夜ちゃんが使う時は、自由に配置しちゃっていいからね」
美弥「あの、ちょっと気が早い気が」
智也「あれ? 早い? そう?」
美弥「だって、その……まだ、四十九日も過ぎてないですよね?」
智也「美弥ちゃんは古いなぁ。そういう迷信っぽいの信じてないんだよね、僕」
美弥「でも、その、周りの人とかに何か言われてたりは……?」
智也「言いたい奴には言わせておけばいいじゃん。別に法律に引っかかるわけじゃないんだし、悪いことはしてないよ?」
美弥「それは、そうですけど……」
智也「なになに? やっぱり、僕とは付き合いたくないとか?」
美弥「そんなことはないです!」
智也「なら、オッケーじゃん。ようやく、あいつから解放されたんだからさ。これからは目いっぱい、楽しむんだ」
美弥「あの……奥さんとは仲が悪かったんですか?」
智也「んー。仲が悪いっていうのは違うかな。僕とあいつは、中学からの付き合いでさ。なんていうかな、あいつは恋人っていうよりは、口うるさい保護者っぽい感じだったかな」
美弥「保護者?」
智也「僕ってさ、なんだかんだ、ズボラでだらしないじゃん?」
美弥「ああー、そうですね」
智也「そこは否定してよー」
美弥「あ、ごめんなさい」
智也「……やっぱり、だらしないんだな、僕は」
美弥「ごめんなさい」
智也「いいのいいの。本当のことだからさ。で、あいつは何かと、世話してくれてたんだよ。中学の頃からずーっと。それが社会人になってからも続いて、で、ある時、もう結婚しようって押し切られたってわけ」
美弥「……断れなかったんですか?」
智也「んー。まあ、僕のやることには一切口出ししないっていう約束をしたからさ、まあいいかなって」
美弥「……それで、智也さんは結婚してるのに、女性との噂が絶えなかったんですね」智也「ちょっと、ちょっと! 変な言い方しないでよ。浮気なんて、2、3回だよ。それにすごく短い期間だったんだから」
美弥「……」
智也「あー、ちょっと待って! 今後は絶対浮気はしないよ、美弥ちゃんだけ! 約束!」
美弥「信じてますから」
智也「うん、うん。信じて信じて!」
美弥「奥さんは本当に何も言わなかったんですか?」
智也「ああ。そういう約束だったからね。あ、そうだ、お腹空かない? 何か作るよ」
美弥「え? 智也さん、お料理できるですか?」
智也「意外でしょ? 実はできるんだよ。材料は買ってあるから、ちょっと待ってね」
場面転換。
華麗に食材を切る音。
智也「……」
回想。
麻衣子「相変わらず、包丁さばきだけは上手いよね」
智也「だけとはなんだよ、だけとは」
麻衣子「だって、味とかヤバいでしょ」
智也「んなことねーって。お前の舌がヤバいんだって」
麻衣子「あっ! ちょっと、生ごみは三角コーナーに入れてって言ってるのに」
智也「うるせーな」
回想終わり。
智也の手が止まっている。
智也「……」
美弥「手伝いましょうか?」
智也「あ、いや、いいよ。座ってて」
場面転換。
美弥「智也さん、食後のコーヒー、どうですか? 見つけたので淹れたんですけど」
智也「ありがとう! いただくよ」
ズズーっとコーヒーを飲む、智也。
智也「……」
回想。
智也「うーん。68点」
麻衣子「えー? この前、80点って言ってたのと、同じブレンドなんだけど」
智也「その日の気分で違うんだよ。どんな料理食べたかで、舌も違ってくるだろ」
麻衣子「要するにその日の気分ってことでしょ?」
智也「ちげーって」
回想終わり。
美弥「どうですか?」
智也「……ん? ああ、美味しいよ」
美弥「よかったです。じゃあ、私もいただきますね。……コップは、お揃いのを使っていいですか?」
智也「……あ、いや、ごめん。そっちの青いの使ってくれるかな?」
美弥「……わかりました」
場面転換。
美弥「あ、もう、こんな時間……」
智也「今日は泊まっ……」
回想。
麻衣子「あー、もうこんな時間。そろそろ寝ようかな」
智也「随分と早いな」
麻衣子「智也、明日、早いんでしょ? 私が寝坊するわけにはいかないから、早めに寝ておくの」
智也「ふーん。おやすみー」
麻衣子「お休みなさい」
回想終わり。
美弥「……智也さん?」
智也「……あ、いや、ごめん。タクシー呼んでおくね」
美弥「え? あ、はい。ありがとうございます」
場面転換。
美弥「今日は楽しかったです」
智也「気を付けて帰ってね」
美弥「はい。おやすみなさい」
智也「おやすみ」
パタンとドアが閉まる。
智也「……」
歩いて、リビングに戻り、ソファーに座る。
智也「……」
回想。
ドアが開く音。
智也「あれ? 寝たんじゃないのか?」
麻衣子「なんか寝れなくて。ねえ、少しお話しない?」
智也「なんだよ、急に」
麻衣子「たまにはいいでしょ?」
智也「お前と話すことなんてないぞ」
麻衣子「そう? あ、そういえば、高校の時さ……」
回想終わり。
智也「……う、うう……。なんだよ、これ? やっと、あいつから解放されて嬉しいはずなのに……。なんで、涙が止まらねえんだよ。……ちくしょう。お前なんかいなくたって、絶対、幸せになってやるからな! 俺を置いて行ったこと、絶対に後悔させてやるからな! ……うう、くそー!」
終わり。
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