【声劇台本】腕の中で
- 2021.10.15
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:4人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス
■キャスト
レイ
カイン
レオン
その他
■台本
男「ま、待ってくれ! 助けてくれ! 金なら払う!」
レイ「……」
ドンと銃を撃つ音。
そして、レイが歩く。
通信のノイズ。
レイ「こちらレイ。任務完了しました」
レオンの声「御苦労。相変わらず早いな」
レイ「……簡単な任務でしたから」
レオンの声「簡単……ね。あの警備の中、そう言えるなんて、お前くらいだよ。いやー、ホント、お前がもう一人いれば、うちもだいぶ楽なんだがな」
レイ「……」
場面転換。
レイが路地裏を歩いている。
赤ちゃんの泣き声。
レイがピタリと立ち止まる。
レイ(N)「捨て子。いつもだったら、完全に無視していたと思う」
回想。
レオンの声「お前がもう一人いれば、うちもだいぶ楽なんだがな」
回想終わり。
レイ(N)「それは本当に、ただ、何となくだった。私がしてきた訓練を、そのままこの赤ん坊に施せば、私と同じ実力の人間が誕生するのではないか。……ふと、そんな思いが頭を過った」
赤ん坊の泣き声。
レイ(N)「……もしかしたら、ただ人の人生を終わらせていくだけの人生の中で、何かを残したいという思いがあったのかもしれない……」
場面転換。
レオン「お子さん、いくつになったんだ?」
レイ「拾ってから5年ですね」
レオン「それにしても、お前さんが子供を育てるなんて言ったときには驚いたぞ」
レイ「3年くらいはほぼ、ベビーシッターにお願いしてましたから」
レオン「ふむ……。なあ、レイ。お前、引退しないか?」
レイ「……なぜですか? 今のところ、身体能力の衰えは出ていません。任務達成率も問題ないかと」
レオン「いやいや、そういうことじゃなくて。本格的に子育てをしてみたらどうだ?」
レイ「子育て……ですか?」
レオン「今更、幸せになれとは言わない。だが、大切な人間と過ごす時間というのも、人生には必要なことだ」
レイ「……わかりました。それでは、お言葉に甘えさせていただきます」
レオン「ああ。しっかりと愛情を注いでやれよ」
レイ「……」
レイ(N)「愛情……。そんな感情は私の中にはない。ないものを与えることはできない。私ができることは、私がもっているものを与えることだけだ」
場面転換。
レイ「いい? 今の相手を見て撃つのではダメよ。相手の動きを予測して、その動きの先を狙って撃つの」
カイル「相手の動きを予測……? 無理だよ、お母さん。野生のオオカミの動きなんて予測できない」
レイ「できない、じゃない。やるの」
カイル「うう……」
ダンという銃声が響く。
カイル「に、逃げられちゃった」
レイ「勘に頼ってはダメ。外れたら、ターゲットに逃げられてしまう。それはつまり、失敗を意味するの」
カイル「……」
レイ「いい? 相手の意思の先を読むの。五感をフルに使って、意思を感じ取る。……そして、撃つ」
ダンという銃声と、オオカミの悲鳴が響く。
レイ「あとは撃つときには、殺気を出さないこと。殺気を感じ取る相手もいる」
カイル「難しいよ、お母さん」
レイ「大丈夫。カイル、あなたならできる」
カイル「う、うん! 頑張る」
場面転換。
ダンという銃声と、オオカミの悲鳴が響く。
カイル「やった……。やったよ、お母さん」
レイ「今のは良かったわ。ちゃんと相手の意思を感じ取れてたわね」
カイル「うん。……ねえ、お母さん。できたご褒美に、頭……撫でてくれないかな?」
レイ「頭を? なぜ? 親しい人間だろうと、無暗に急所を晒すのは止めなさい」
カイル「……ごめんなさい」
場面転換。
10年後。
組手をしているレイとカイル。
レイ「接近戦でもやることは同じ。相手の意思を感じ取り、予測してそれに対処する」
カイン「わかってる」
カインがレイを掴んで投げる。
レイ「ぐっ!」
カイン「どう? こんな感じで」
レイ「……完璧よ。ついに私を超えたわね」
カイン「へへへ」
レイ「じゃあ、そろそろ、任務についてもいい頃ね」
カイン「任務……」
レイ「技術は完璧。でも、実際に人に向けて引き金を引き、命を奪うことは経験しないと慣れていかない」
カイン「ねえ、母さん。俺が……その……人を殺しても、なんとも思わないの?」
レイ「……あなたを一流のアサシンにするために今まで、育てたのよ」
カイン「……そう……だよね」
場面転換。
レオン「……レイ。どういうことだ?」
レイ「カインの技術はすでに私を超えました。あとは実際の経験を積むだけです」
レオン「……まさか、子供に殺しの技術を教え込んでいたなんて思わなかったな」
レイ「……私がもう一人いれば楽。そう言ってましたよね?」
レオン「違う! 違うんだ! お前には普通に親子として子供に接してほしかった」
レイ「普通……。普通とはなんですか?」
レオン「ごく、一般的な家族のことだよ」
レイ「……」
場面転換。
公園。色々な人が遊んでいる。
子供「お母さんー! あっ!」
子供が転ぶ。
母親「あら、大丈夫? よしよし!」
子供を抱き上げる母親。
レイ(N)「転んだら抱き上げる。上手くできたら頭を撫でてやる。……それが普通。……私はカインに、そう接するべきだったのだろうか」
場面転換。
レイが歩いてくる。
レイ「カインがチームを全滅させたというのは、どういうことですか?」
レオン「テロリストのアジトを制圧させる任務だったんだが、その中に親子がいたんだ」
レイ「親子……ですか?」
レオン「ああ。一般人の母親と子供だ。その二人を手違いで殺してしまったらしい。それがきっかけで、カインの精神が崩壊した」
レイ「……それで、テロリストだけではなく、味方のチーム全員を殺した、と」
レオン「……今、新たにチームを編成している。悪いが、庇いきれん。カインは始末させてもらうぞ」
レイ「チームの編成はいりません」
レオン「お、おい! レイ!」
レイが歩き去っていく。
場面転換。
レイとカインの銃撃戦。
レイ「カイン。自決しなさい」
カイン「あははははは! あんたらしいな! そうだよな! あんたはそうやって俺を育てた! だが、嫌だね! 俺は! 俺は! これから自由に生きる!」
銃の弾が切れる。
カイン「ちっ! 弾切れか。まあ、いい。確実にナイフで仕留める」
カインがナイフを出すと、レイも銃を捨ててナイフを出す。
カイン「無駄だ。俺はもうあんたを超してる。あんたの負けだ」
レイ「……」
ナイフが空を切る音やナイフ同士がぶつかる音。
カイン「おらおらおら! 俺の意思を読んでみろよ!」
レイ「くっ!」
カイン「おらおらおらおら!」
レイ「……」
カイン「止めだ!」
レイ「……カイン。本当に強くなったわね」
カイン「っ!」
ドスっとナイフが深々と刺さる音。
カイン「ぐっ……」
レイ「カイン。どうして……?」
カイン「はは……。どのみち、俺は始末される。それに……母さんは……殺せない」
カインが倒れ込む。
レイ「カイン!」
カイン「……はは。母さんに初めて、抱いてもらったよ」
レイ「……そうね」
カイン「ねえ、母さん。最後に……頭を撫でてくれないかな?」
レイ「カイン……。今まで、よく頑張ったわね」
カイン「へへへへ……」
レイ(N)「こんな簡単なことをどうしてできなかったんだろう。私がやるべきだったのは、カインに銃を握らせることじゃなかった。こうやって頭を撫でてやることだったんだ」
カイン「母さん。……俺、眠くなって来た」
レイ「うん。……お休みなさい」
カイン「……」
レイ「お母さんも、すぐにそっちに行くから。そしたら、今度こそ、本当の親子になろうね」
終わり。
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