【声劇台本】玉座
- 2021.10.16
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:5人以上
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、中世ファンタジー、シリアス
■キャスト
セイル
ガイ
その他
■台本
セイル「く、くそ……」
男「この盗人が!」
男がセイルをボコボコに殴る音。
セイル「う……」
男「けっ! 殺されないだけ、感謝しろ」
男が立ち去っていく。
そこにガイが走って来る。
ガイ「セイル! 大丈夫か!?」
セイル「ガイ……。遅ぇぞ……」
ガイ「悪ぃ。けど、お前があの男を引き付けてくれてたおかげで、あいつの家からごっそり盗み出せた」
セイル「いてて……。じゃあ、今日は少し贅沢するか」
ガイ「ああ……」
場面転換。
貴族の男「待て! 待つんだ!」
セイル「けっ! 待てって言われて、待つ盗人がどの世界にいるんだよ」
セイルが路地裏へと入って来る。
場面転換。
セイル「ふう。撒いたか」
ガイ「セイル、お疲れ。上手くいったみたいだね」
セイル「ああ」
ガイ「……ねえ、セイル。いつまでこんな生活しなくっちゃならないのかな?」
セイル「ガイ。いいか。誰かがこの状況を救ってくれるわけはないんだ。この生活を抜け出すには、自力で抜け出すしかない。俺は必ずのし上がって見せるぞ。どんな手を使ってもな」
貴族の男「ふむ。その年で世の中のことが分かっているようだな」
セイル「な、くそ! 撒いたと思ったのに」
貴族の男「あー、待て待て。私はお前を捕まえに来たわけではない。チャンスを与えにきた」
セイル「チャンス?」
貴族の男「お前の顔は私の主(あるじ)である、第2皇子に瓜二つなのだ」
セイル「……影武者か?」
貴族の男「頭の回転もいい。皇子にも見習ってほしいくらいだ」
セイル「……いいぜ。行くよ。こんなチャンスは二度とないだろうから」
貴族の男「だがな。このことを知るのは私とお前、皇子の3人でなくてはならない」
ドスっと、ナイフが突き刺さる音。
ガイ「なっ……」
セイル「こういうことだろ?」
貴族の男「はは。肝も据わっている。増々気に入った」
ガイ「セ、セイル……」
セイル「悪ぃな。俺の為に死んでくれ」
貴族の男「行くぞ」
貴族の男とセイルが歩いて行く。
場面転換。
貴族の男「驚いたぞ。まさか、一年足らずで、私にさえ見分けがつかないくらいになるとはな」
セイル「俺はここにのし上がりに来たんだ。のし上がるためなら作法や兵法、帝王学、何でも身に着けるぜ」
貴族の男「ふふふ。頼もしいな。で、裏の情報だが、病にふせっていた王が、そろそろ限界らしい。それで……」
セイル「第一皇子を暗殺か」
貴族の男「はははは。いや、まいった。実に素晴らしい。影武者にしておくのは勿体ないな」
セイル「第一皇子を消せば、俺は国王の影武者になることができる。そうなれば、俺の目的は、ほぼ達成したと言っていい」
貴族の男「当たり前だが、第一皇子の警護は厳重だ。特に、国王が病にふせられてからはな。おそらく、毒殺なども無理だ」
セイル「なら、直接やるまでさ」
貴族の男「どうやって?」
セイル「警護が厳重だと言っても、自室の中にまでは兵は置いてないだろ?」
貴族の男「ああ。だが、部屋に入る際には、顔を見られるだろ」
セイル「見られずに入ればいいだけだろ。……城の見取り図を用意してくれ」
貴族の男「だが、仮に成功したとしても、この時期に第一皇子を暗殺したとなれば、我々、第二皇子側が疑われる」
セイル「証拠がなければ問題ない」
貴族の男「だが、証拠を消すとなっても」
セイル「俺を知っているのは、あんたと第二皇子だけだ」
貴族の男「……やれるのか?」
セイル「なんのために剣を習得したと思っているんだ?」
貴族の男「ふふ。本当に頼もしいな」
場面転換。
ドアの向こうから、貴族の男が走って来る。
バンとドアが開く。
貴族の男「どういうことだ!」
セイル「なにがだ?」
貴族の男「どうして……どうして、第二皇子まで殺した!」
セイル「ああ。邪魔だったからな」
貴族の男「どういうつもりだ!」
セイル「おいおい。国王の胸ぐらをつかむなよ」
貴族の男「所詮は下賤な血か。貴様などに、この国はやらんぞ」
セイル「第二皇子に影武者が『いた』ことは、もう、お前しか知らない」
貴族の男「……」
セイル「もし、お前が全てを告白したらどうなる? お前がこの城に下賤な血の俺を招いたんだ。その俺がこの国の皇子を二人とも殺した。果たして、責任を取るのは俺だけか?」
貴族の男「くっ!」
セイル「よく考えろ。本当のことを言ったら、お前だけではなく、一族、全員処刑……良くて追放か。俺はどちらでもいいぜ。ここに来た時点で命を捨てている。早いか遅いかの違いだ」
貴族の男「く、くそっ!」
セイル「あんたには、チャンスをもらい、そのおかげでここまでこれたんだ。その分の礼はするつもりさ。何しろ、俺は国王だからな」
貴族の男「……ありがとうございます。これからも王に忠誠を誓います」
セイル「ああ。頼りにしているぞ」
貴族の男「はい……」
場面転換。
セイルが机に座り、書類を読んでいる。
そこに、ごく小さな足音がする。
暗殺者「……暗殺は達成した」
セイル「御苦労。……屋敷は?」
暗殺者「言われた通り、火を放った」
セイル「金は里を通じて、近日中に払う」
暗殺者「……」
暗殺者がスッと消える。
セイル「……これで、俺のことを知る人間はいなくなった。くくく。これで、安心してこの玉座に座り続けることができる」
そのとき、慌ただしく、兵が走ってきて、ドアを勢いよく開く。
兵士「王! 大変です!」
セイル「どうした?」
兵士「反乱です!」
セイル「反乱? 市民たちが決起でもしたか? まあ、あれだけ税を上げれば、当然かもな。城に待機している騎士団で制圧しろ。ある程度は見せしめに殺していい」
兵士「それが……騎士団も反乱に加わっています」
セイル「どういうことだ!?」
兵士「反乱軍は、王が偽物だと主張し、近隣の貴族たちもまとめ上げられています。もう、城壁も持ちません。時期に、ここにまで攻めてくるはずです」
セイル「偽物……? バカな。それを知る者はいないはずだ」
ザシュっと剣で斬りつける音。
兵士「ぐあっ!」
セイル「なっ!」
ガイ「いるよ。知っている奴がもう一人ね」
セイル「……ガイ。生きてたのか?」
ガイ「確かにセイルの言う通りだったよ。あの地獄のような生活は自力で抜け出さなきゃならない。どんな手を使ってもね」
セイル「なっ……」
ガイ「セイルみたいに王様は無理でも、貴族にしてもらえる。まあ、僕にはこれくらいが丁度いいかな」
セイル「ま、待て!」
ドスっという剣がセイルを貫く音。
セイル「あ……あが……」
ガイ「悪いね。さよなら、セイル」
セイル「く、くそ……俺の……玉座……が」
もう一度、ザシュと剣で斬られる音が響く。
終わり。
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