【声劇台本】ヒロインは遅れてやってくる
- 2021.11.11
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:3人
時間:10分程度
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
史郎(しろう)
セキナ
その他
■台本
バキと殴られる音。
史郎「ぐはっ」
男「おら! まだだ、立てよ!」
史郎「く、くそ……」
史郎(N)「あいつはいつも、突然現れて、得意げな顔をして、こう言うんだ」
セキナ「はあっ!」
男 「ぐべっ!」
セキナに殴られて吹っ飛ぶ男。
セキナ「大丈夫だった、史郎?」
史郎「……セキナ。どうして……?」
セキナ「ふふっ! ヒロインは遅れてやってくるって言うでしょ?」
場面転換。
空手の型をしている史郎。
史郎「はっ! はっ! はっ!」
そこにセキナがやってくる。
セキナ「あ、史郎だ。なにしてるの?」
手を止めて。
史郎「何って、空手の型だけど」
セキナ「なんで?」
史郎「なんでって……。強くなりたいから」
セキナ「強くなってどうするの?」
史郎「……いつも、セキナに助けてもらってるからさ。自分でなんとかできるようになりたいんだ」
セキナ「……別に強くならなくても、毎回あたしが助けてあげるのに」
史郎「いや、毎回来てくれるとは限らないでしょ。一緒にいることなんてほとんどないんだから」
セキナ「うーん。でもさ、強くなる努力より、絡まれないようにする努力をしたら?」
史郎「うっ! それは色々試してダメだったから諦めたよ。……絡まれやすいのは、もう生まれつきの運の悪さなんだよ」
セキナ「あー、でもわかるなー。絡む方の気持ちもさ」
史郎「え? 本当? どこ? ボク、どこが悪いの?」
セキナ「いや、悪いんじゃなくて、いいことだと思うんだけどね。なんていうかな。ついイジメたくなるっていうか、泣きそうにな顔が、こう、もっと見たいって思わせるんだよね」
史郎「……それ、どう考えても悪いことだと思うけど。それって、鍛えたら、変われるかな?」
セキナ「私としては変わらないでいてほしいけどね」
史郎「いや、苦労するのはボクなんだけど」
セキナ「でもまあ、なんかあったら助けてあげるって。今までもほら、史郎のピンチには全部駆け付けてるでしょ?」
史郎「え? まあ……確かに……」
セキナ「ならいいじゃない」
史郎「うーん」
セキナ「ふふ。まあ、史郎が強くなりたいっていうなら、止めないけど。じゃあ、あたしは帰るね。史郎も絡まれないうちに帰りなよ」
史郎「う、うん」
セキナが歩いて行く。
史郎(N)「そう。そうなのだ。セキナ、ボクがピンチのときは必ず助けにきてくれる。それこそ、漫画のヒーローのように」
場面転換。
セキナがオロオロとしている。
セキナ「あれ? どこに行ったんだろ?」
史郎「あ、セキナ」
セキナ「え? あ、史郎」
史郎「どうかしたの? 探し物?」
セキナ「あー、いや、なんでもない。それより、史郎はどこにいたの?」
史郎「ボク? ああ、ちょっと、そこの路地裏にあるお店に寄ってたんだ。テーピングとかサポーターが安いんだ」
セキナ「あー、なるほどね」
史郎「ねえ、セキナはこの後暇?」
セキナ「へ? あたしか? えっと、う、うん。暇だけど」
史郎「一緒に帰らない?」
セキナ「い、一緒に? うん、いいけど……。帰るだけ?」
史郎「どこか寄りたいところあるの?」
セキナ「いや、別にないない。いいよ。一緒に帰ろう」
史郎「うん」
二人が並んで歩く。
セキナ「な、なんか緊張するよね」
史郎「え? どうして?」
セキナ「ほら、あんまりこうやって一緒に帰るなんてことはないからさ」
史郎「あー、そういえばそうだね。セキナと一緒のときって、いつもボクがピンチのときだもんね」
セキナ「そうそう。そうなんだよね」
史郎「ねえ、一つ聞いてもいいかな?」
セキナ「な、なに?」
史郎「どうして、いつもボクがピンチの時に来てくれるの?」
セキナ「そ、それは史郎が困っているのに放っておけないでしょ」
史郎「でもさ、いつも絶対来てくれるよね? どうして、ボクのピンチが分かるのかなって思って」
セキナ「あー、それね。なんていうかなー。えっと、ピンとくるってやる」
史郎「ピンとくる?」
セキナ「なんとなく、今、史郎がピンチだなって感じるんだ」
史郎「ええー。ボク、そんな電波みたいなの飛ばしてるの?」
セキナ「まあ、そんなに深刻に考えなくていいんじゃない? 困ることじゃないし」
史郎「そ、そりゃそうだけど……」
セキナ「それよりさ、あたしからも聞いていい?」
史郎「なに?」
セキナ「……どうして、あたしと、こうやって普通に話してくれるの?」
史郎「え? どうしてって言われてもな―。……もしかして、話しかけられるの、嫌だった?」
セキナ「ううん。逆、逆。ほら、あたしってさ、他の女の子と比べてガタイいいし、喧嘩っ早いし。普通は敬遠するかなって。実際、今まで会った人ってそうだったし。男でも女でも」
史郎「うーん。ボクは他の人がどうして、セキナを避けるのかわからないけどね。でも、ボクはセキナと話してると楽しいよ」
セキナ「え? ほ、ほんと?」
史郎「うん。でも、まあ、あんまり話す機会はないけどね」
セキナ「そ、そうだね」
史郎「それにさ、最初に助けてくれたときに思ったんだ。格好いいって」
セキナ「格好いい?」
史郎「うん。ボクに絡んでくる不良をやっつけてくれるセキナが格好いいって、それに……綺麗だなって思ったんだ」
セキナ「き、綺麗?」
史郎「うん。セキナが綺麗だと思うよ」
セキナ「ちょ、ちょっと! からかわないでよ」
史郎「からかってなんかない。ホントだよ」
セキナ「嘘だよ、そんなの。たとえば、あたしから好きだ、なんて言われても困るでしょ?」
史郎「え? 困らないよ。全然。嬉しいくらいだよ」
セキナ「……あのさ、本当のこと、教えてあげようか?」
史郎「本当のこと? なんの?」
セキナ「あたしが、いつも史郎のピンチに現れる理由」
史郎「うん。教えてほしい」
セキナ「あ、でも、一つだけ約束してくれたら、教えるよ」
史郎「なに?」
セキナ「ずっと、あたしと一緒にいてくれるっていうなら、教えるよ」
史郎「そんなんでいいの? いいよ。約束する」
セキナ「……ずっと見てたから」
史郎「え?」
セキナ「史郎のこと、遠くからずっと見てたから、いつも、助けに行けたってわけ……」
史郎「……」
セキナ「……やっぱり引くよね。遠くからずっと見てたなんてさ」
史郎「ううん。見られてたと思ったら、恥ずかしくって。ボク、変な行動とかしてなかったよね?」
セキナ「うん。絡まれてるだけだったよ」
史郎「うう……恥ずかしい」
史郎(N)「それからはセキナから、ヒロインは遅れてやってくる、というセリフは聞くことはなくなった。なぜなら、ずっとボクの隣にいてくれるのだから」
終わり。
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