【声劇台本】ほんの僅かな差
- 2021.11.12
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:4人
時間:10分程度
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
陸斗(りくと)
青空(あおぞら)
海斗(かいと)
その他
■台本
陸斗(N)「俺と海斗は双子だ。生まれた時間はもちろん、顔も体格もほとんど同じ。たった一つ違うところと言えば……才能だ」
陸斗と青空が歩いている。
陸斗「ふわぁー!」
青空「陸斗、随分眠そうだね」
陸斗「昨日、遅くまで素振りしてたからな」
青空「そんなに根詰めて大丈夫なの? 体壊したら意味ないよ?」
陸斗「今日、レギュラーを決めるテストがあるからさ。今回こそは、絶対に四番を取るつもりだ」
青空「でもさ、レギュラーになれるだけでも凄いんだから、別に四番にこだわらなくてもいいんじゃない?」
陸斗「青空はマネージャだからそんなこと言えるんだよ。選手なら、目指すは一番上だ」
青空「そんなこと言って、海斗に対抗してるだけなんじゃないの?」
陸斗「悪いかよ……」
青空「あんまり、海斗と比べるのもどうかと思うよ?」
陸斗「ピッチャーで四番なんて、舐めた真似、絶対させるかよ」
青空「……」
場面転換。
野球の練習の声がしている。
海斗「おっす、陸、調子はどうだ?」
陸斗「守備でエラー1。この分はバッティングで取り返すさ」
海斗「まあ、陸なら、そんなに気を張らなくてもレギュラーは確実だって」
陸斗「……目標はあくまで四番だ」
海斗「そっか……」
陸斗「そういうお前は? さっき、ピッチングのテストだっただろ?」
海斗「3凡打に7三振」
陸斗「……エースは確実だな」
海斗「まあ、な」
陸斗「いいか、海斗。俺は絶対にバッティングでお前に勝つ」
海斗「宣戦布告ってやつか。いいぜ。乗った」
陸斗「じゃあな」
海斗「……ああ、ちょっと待った」
陸斗「なんだよ?」
海斗「この勝負で、賭けしないか?」
陸斗「賭け?」
海斗「四番になった方が、青空に告白する」
陸斗「なっ! そんなの!」
海斗「なんだよ? 勝てる自信がないのか? いや、青空に告白する自信がないのか?」
陸斗「……いいぜ。受けてやる!」
海斗「そうこなくっちゃ」
場面転換。
キンと金属バットで球を打つ音。
陸斗(N)「ふう……。ヒット5に凡打2、ホームラン2……。次打てれば、かなり有利に立てるはずだ」
陸斗「さあ、こい!」
ビュッとボールが投げられる音。
陸斗「よし!」
キンとバットで打つ音。
陸斗「ちっ! 力んじまった!」
陸斗が走る。
選手「アウト!」
陸斗「くそ……。けど、悪くはない。大丈夫だ。勝てるはずだ……」
場面転換。
河川敷。川が緩やかに流れる音。
陸斗「……」
海斗「こんなところにいたのか」
陸斗「なんだよ。笑いに来たのか?」
海斗「5番でもクリーンナップだ。十分すごいって」
陸斗「嫌味かよ。エースで四番」
海斗「なあ、陸。俺達、双子だろ。いがみ合わなくていいんじゃねーか」
陸斗「双子だからだよ」
海斗「どういうことだよ?」
陸斗「俺はずっとずっとずーっと、お前と比べられてきた。何をやっても、全部お前の方が上。こんな惨めなことがあると思うか?」
海斗「そんなの気にすることないって」
陸斗「お前が言うなっ! お前には俺の気持ちなんかわかりっこねーよ」
海斗「……はあ。まあ、そうだよな。双子で、顔も体格も性格もほとんど同じなのに、お互いの思っていることはわからない……」
陸斗「……」
海斗「実は、俺も必死だったって知ってるか?」
陸斗「なにがだよ?」
海斗「お前に負けないようにするのがさ」
陸斗「……」
海斗「いつもギリギリだよ。ほんの少しの差だったんだ。今回だって」
陸斗「けど、お前が全部勝ってきたことには間違いないだろ」
海斗「お前はさ、いつも俺の方が才能があるっていうけど、才能なんて言葉で片付けるなよ。俺は練習量じゃ、絶対にお前に負けることはないはずだ」
陸斗「……お前だって、俺がどれだけ努力してきたかなんて、知らないだろ」
海斗「まあ、俺が言ったところでお前は信じないかもしれないけどさ。監督はお前の方が才能あるって言ってぞ」
陸斗「ふん。信じられるかよ。なら、なんで四番に選ばなかったんだ」
海斗「満足するから、だってさ」
陸斗「……」
海斗「お前さ、俺に勝つことばかり考えただろ? その目標がなくなったら、お前がダメになるかもしれない。そう考えてたらしいぜ。お前は追う側でいるほうが伸びるってさ」
陸斗「……納得いかねえよ」
海斗「ま、信じるかどうかはお前に任せるよ。けどさ、お前は、全部俺が勝ってるっていうけど、一つだけ勝てないもんがあるんだよ」
陸斗「……なんだよ、それ?」
海斗「正直言ってさ、それさえ勝てれば、他は全部負けたっていいんだ。でも、どうやってもそれだけは勝てなかった。だから、他では絶対にお前に勝とうって思ってたんだよ」
陸斗「だから、なんだよ、俺が勝ってることって」
海斗「賭けのこと、覚えてるか?」
陸斗「賭け? ……あ」
海斗「さてと、そろそろ、俺は行くわ」
陸斗「待てよ! 青空に告白したのか? どうだったんだよ?」
海斗「じゃあな……」
陸斗「待てって!」
海斗が立ち去る。
陸斗「なんなんだよ、あいつ……」
青空「やっぱり、ここか」
陸斗「青空……」
青空「陸斗って、落ち込んだときはいっつもここで泣くもんね」
陸斗「泣いてねえよ」
青空「レギュラーおめでとう」
陸斗「四番じゃねえよ」
青空「五番でも立派じゃない」
陸斗「今回だけは……どうしても勝ちたかったんだよ」
青空「どうして?」
陸斗「……お前さ、海斗と付き合うのか?」
青空「あのさあ、私の気持ちも考えないで、勝手に賭けしないでくれる?」
陸斗「ごめん……」
青空「断ったよ、告白」
陸斗「え?」
青空「好きな人がいるから」
陸斗「え? だ、誰だよ?」
青空「私が好きな人はね、いつも負けてばっかりだけど、それでもいつも一生懸命頑張ってる人」
陸斗「……」
青空「でも、無茶はしちゃダメだからね」
陸斗「あ、ああ……」
陸斗(N)「確かに、この勝負に勝てれば、他で負けてもいいと思えるな。……きっと、青空は負けた方だからこそ、好きになってくれたんだと思う。それでも、その差はほんの僅かなはずだ。これからも、俺は海斗と僅かな差を争い続けることになるだろう」
終わり。
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