【声劇台本】不思議な館のアリス  人生の分岐点

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■概要
人数:1人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス

■キャスト
アリス

■台本

アリス「いらっしゃいませ。アリスの不思議な館へようこそ」

アリス「ふふふ。そろそろ来てくれる頃だと思っていました」

アリス「さて、本日も変わったお話をしましょうか」

アリス「……」

アリス「え? すみません。なんだか、感傷的になってしまいました」

アリス「いえ……感傷的、というと語弊がありますね」

アリス「どちらかというと、不思議、と言った方がいいでしょうか」

アリス「あなたの依頼で、今まで様々な不思議な話をしてきました」

アリス「そのおかげで、今まで関わってきたお客様のことを思い出してきたわけですが……」

アリス「もし、あなたがいらっしゃらなかったら、私はそのお客様たちのことを思い出すことはあったのか、と思ってしまいましてね」

アリス「忘れることはないとは思いますが、このように思い出す、ということはしなかったのではないかと思ったわけです」

アリス「ふふふ。あなたにとっては大した問題ではないですか?」

アリス「私としては結構、重要なことなのですが……」

アリス「ああ、そういえば、あなたは今まで生きてきた中で、人生の分岐点というものを経験したことがありますか?」

アリス「簡単に言うと、『あのとき、ああしていれば、人生が変わっていた』というポイントです」

アリス「例えば、あのときに、勇気を出していれば、ですとか、あのときに、あっちに賭けていれば、ですとか、ああしていれば……というようなことです」

アリス「ふふふ。その顔は何回かあったようですね」

アリス「もし、あなたがその人生の分岐点に戻れるとしたら、戻りたいですか?」

アリス「戻れるのは、その分岐点の行動する瞬間だけです」

アリス「もしかしたら、今のあなたとは全くの別の人生を歩いているかもしれません」

アリス「どうですか? 戻ってみたいですか?」

アリス「今回は、人生の分岐点に戻った人のお話になります」

アリス「その男性は生きて来た人生の中で、3つの大きな分岐点があったそうです」

アリス「いつも、そのときの選択を悔やんで生きていたとのことでした」

アリス「そんなときでした。ある占い師に分岐点に戻れる時計というものを譲ってもらいました」

アリス「その時計は、分岐点に戻れるというより、指定した時間に1時間だけ戻れるというものでした」

アリス「男性はずっと後悔して生きてきましたので、その分岐点のことは詳細に覚えていたようです」

アリス「男性は早速、分岐点に戻りました」

アリス「戻ったのは、10年前の会社でのプレゼンのときです」

アリス「どちらの方向でプレゼンをするかを迷っていたとのことでした」

アリス「もちろん、戻ったときは、選ばなかった方向性でのプレゼンをしたそうです」

アリス「戻った時間で、プレゼンを成功に収めた男性は、人生が大きく変わっているだろうと思い、元の時間へ戻ってきました」

アリス「ですが、男性の人生は変わっていませんでした」

アリス「……いえ。変えた世界線が繁栄されなかったわけではありません」

アリス「調べてみると、ちゃんと、過去のプレゼンは成功を収めていると記録されていました」

アリス「……ええ。そうですね。こういう場合、よくあるのが、歴史の修正の力です」

アリス「世界が大きく変わるような行動をした場合は、世界は辻褄があうように修正する……というのがありますね」

アリス「その男性はそれが起こったと思い、もっと前の時間の人生の分岐点に戻ったそうです」

アリス「それは……学生の頃、好きな女性に告白するかどうか迷っていて、結局できなかったという、よくあるお話ですね」

アリス「10数年後に、その女性は他の男性と結婚されていたのですが、話を聞くと、当時はその男性のことが好きだったというのです」

アリス「男性は学生の頃に戻り、その女性に告白したようです」

アリス「もちろん、告白は成功し、女性と付き合うことになりました」

アリス「男性は、その女性と結婚しているはずだと思い、元の時間に戻ってきましたが……」

アリス「結果は変わらず、その女性は他の男性と結婚していたそうです」

アリス「その女性に話を聞いたところ、お付き合いはしたそうですが、一か月も経たずに別れたとのことでした」

アリス「絶望した男性は、今度は5歳の頃、両親がお受験をするかどうかで悩んでいたときに、男性は絶対に嫌だと言ったのを、変えることにしました」

アリス「そこから変えれば、必ず人生が大きく変わっているはずだと……」

アリス「ですが、結果は変わりませんでした」

アリス「親に聞いたところ、最初はやる気を出していたようですが、それも2ヵ月も続かず、やがて諦めたとのことでした」

アリス「……あなたは、このことをどう思いますか?」

アリス「やはり、世界が歴史を変えないように修正力というものが働いたと思いますか?」

アリス「……私ですか?」

アリス「私はそうは思いません」

アリス「人、一人の人生が変わったところで、世界の歴史などそう変わることはありませんからね。世界も修正しようとは思わないのではないでしょうか?」

アリス「では、なぜ、人生の分岐点を変えたのに、人生が変わらなかったのか……」

アリス「それはそのときだけ変えてもダメなのではないでしょうか?」

アリス「確かに、その瞬間の選択が合っていたとしても、その成功を糧に、人生を変え続けるようなことをしていかないと、人生は変わらないのではないでしょうか?」

アリス「ある著名な方の言葉に、こんなものがあります」

アリス「未来は、今の自分の行動が決める」

アリス「それは瞬間的な行動ではなく、未来に向かう道のりの間、ずっと行動し続けることで、初めて未来が変わるのではないでしょうか」

アリス「あなた自身が変わらない限りは、あなた自身の未来は変わらないということです」

アリス「まあ、これはあくまで私の個人的な考えなのですが」

アリス「どうですか?」

アリス「あなたは人生の分岐点に戻れるとしたなら、戻りたいと思いますか?」

アリス「私は過去に戻るよりも、今、あなた自身が変わる行動をすることをお勧めします」

アリス「これで、今回のお話は終わりです」

アリス「それではまたのお越しをお待ちしております」

終わり。