【声劇台本】恋の登坂

〈前の10枚シナリオへ〉   〈次の10枚シナリオへ〉

〈声劇用の台本一覧へ〉

■概要
人数:4人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、恋愛

■キャスト
流士(りゅうじ)
実乃梨(みのり)
雅史(まさし)
香田 由紀(こうだ ゆき)

■台本

登坂を、自転車を漕ぐ流士。

流士「はあ、はあ、はあ……」

実乃梨「大丈夫、流士? 降りようか?」

流士「いや、実乃梨はそのまま乗っててくれ。意地でも、この坂を上りきる」

実乃梨「もう……。なんで、男って、変なところでプライド高いよね」

流士「男にとって、プライドは自信のようなものだからな」

実乃梨「自信ね……。あれ? そういえば、いつもの自転車と違わなくない?」

流士「ああ。電動自転車は貸してるんだ」

実乃梨「貸してる? 誰に? 雅史くん?」

流士「いや、幸田さん」

実乃梨「え? 由紀ちゃん? 流士と由紀ちゃんって知り合いだっけ?」

流士「いや……。昨日まで話したことなかったな」

実乃梨「……じゃあ、どういうこと?」

流士「ああ、それはな……」

場面転換。

流士「なあ、雅史。いい加減に諦めたらどうだ?」

雅史「そりゃ、俺には釣り合わないっていうのはわかってるよ! でも……好きなんだ。どうしても諦めきれない……」

流士「あ、いやいや。諦めろって言ったのは、香田さんのことじゃなくて、恋の上り坂の方だよ」

雅史「……」

流士「彼女を後ろにのせて、坂を上り切ったら、二人は付き合えるって都市伝説……信じてるんだろ?」

雅史「悪いかよ……」

流士「けど、あの坂はヤバいって。お前、何回か、失敗してるんだろ?」

雅史「しっかり特訓してきた。今度こそいける!」

流士「もし、失敗したらどうするんだ? もうすぐ卒業だ。別の大学になるだろうし、告白できるチャンスは少ないぞ」

雅史「……でも、俺、自信ないんだ。香田さんに相応しいかどうか……。だから、自信が欲しいんだ。それがくだらない都市伝説だったとしても」

流士「失敗したら、告白するチャンスが減るんだぞ」

雅史「……わかってる。だから、絶対に成功させる」

流士「まったく。知らないぞ」

場面転換。

廊下を歩く流士。

由紀「あ、あの……」

流士「え? あ、幸田さん。どうしたの?」

由紀「急にごめんなさい。お願いがあるんですけど……」

場面転換。

学校のチャイム。

由紀が走って来る。

由紀「雅史くん、お待たせ」

雅史「ううん。俺も丁度今、来たところだから」

歩き出す二人。

由紀「そういえば、今日は、特訓……だったっけ?」

雅史「ああ、うん。卒業式の日にさ、二人乗りで坂を自転車で、誰が一番早く登れるかっていう勝負があるんだ。それの特訓。……ごめんね。変なことに付き合ってもらっちゃって」

由紀「ううん。いいよ。でも、変な勝負だね」

雅史「ははは……。男って、そういうくだらない勝負をするもんなんだよ」

ピタリと立ち止まる雅史と由紀。

雅史「……あれ? 俺の自転車……」

由紀「パンクしてるね」

雅史「うわ……。どうしよう……」

由紀「ねえ、私の自転車使う?」

雅史「え? 香田さんって、自転車通学だったっけ?」

由紀「あ、ううん。違うんだけど、今日はたまたま自転車で来たの」

雅史「そうなんだ? じゃあ、その……借りてもいい?」

由紀「うん。いいよ」

場面転換。

自転車で坂を上る雅史。

雅史「はあ、はあ、はあ……」

由紀「頑張って、雅史くん」

雅史「く……。も、もう……」

由紀「諦めないで!」

ガバッと後ろから抱き着く由紀。

そして、カチリとスイッチが押される音。

由紀「大丈夫。雅史くんなら、できるよ。自信もって」

雅史「う、うん。うおおおお!」

由紀「もう少し! もう少しだよ!」

雅史「おおおおおおお!」

自転車を漕ぐ雅史。

由紀「やった! やったよ、雅史くん!」

雅史「はあ、はあ、はあ、はあ……」

由紀「雅史くん、頑張ったね」

雅史「はあ、はあ、はあ、はあ……。あ、あの……。香田さん」

由紀「は、はい……」

雅史「す、好き……です。付き合ってください」

由紀「……はい!」

場面転換。

自転車を漕ぐ流士。

流士「はあ、はあ、はあ……。ってなわけ」

実乃梨「ふーん。じゃあ、流士の自転車を由紀が借りて、途中で電動のスイッチを入れたってことか」

流士「そういうこと……。学校で電動のを持ってるの、俺くらい……だからな」

実乃梨「じゃあ、この自転車は? 誰の?」

流士「雅史の。……パンクじゃなくて、空気抜いただけだから……」

実乃梨「結局……由紀は、雅史くんのことが好きだったってことだね。それで、告白を待ってたってわけか」

流士「ああ。香田さんも、今回が最後のチャンスだと思ったから……俺に自転車を借りたってわけ……」

実乃梨「……ったく、まどろっこしいわね」

流士「ま、そんなまどろっこしいことも、恋愛の醍醐味って奴だろ?」

実乃梨「まあ……ね。女って、頑張ってる男の子を見ると胸がキュンとなるのよね。自分のことで頑張ってくれるなら、尚更ね」

流士「そうか……」

実乃梨「そう考えると、その、恋の登坂っていうのも、なんとなく気持ち、わかるかな。自分をのせて、登り切ったら、思わずOKしちゃいそう」

流士「……おおおお!」

自転車を思い切り漕ぐ、流士。

実乃梨「おお、ここで加速するんだ? すごいね、頑張れ、流士!」

流士「おおおおー!」

自転車を漕ぐ流士。

実乃梨「やったー! 登り切った! すごいね、流士」

流士「はあ、はあ、はあ、はあ」

実乃梨「お疲れ様、流士。少し、カッコよかったよ」

流士「なあ、実乃梨」

実乃梨「なに?」

流士「俺と付き合ってくれないか?」

実乃梨「へ? ……あ、この坂って……」

流士「……」

実乃梨「もう、ズルいなぁ。これじゃ、OKするしかないじゃん」

流士「はは。……都市伝説も案外、捨てたもんじゃないな」

終わり。

〈前の10枚シナリオへ〉   〈次の10枚シナリオへ〉