【声劇台本】似顔絵
- 2022.01.29
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:5人以上
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、中世ファンタジー、シリアス
■キャスト
イリア
母親
他(男4、女1)
■台本
母親「あら、イリア、とっても絵が上手いのね。凄いわ。天才よ」
イリア(N)「母さんに絵を褒められた。……僕が絵を描き始めたのはそんな、些細なきっかけだった。今思えば、母さんのリップサービスか、単なる親バカか……。それでも僕は嬉しかった。自分の描く絵で、みんなが喜んでくれる。本当に、ただ、それだけだった……」
場面転換。
紙に鉛筆を走らせる音。
イリア「できましたよ。どうでしょうか?」
女性「うわー、すごい、本当にそっくりね」
男性「早い上に、ここまで正確な似顔絵は初めてみたよ。今度、友人も連れてきていいかな?」
イリア「もちろんです。お待ちしています」
二人が去っていく。
イリア「……さてと。そろそろ、店じまいしようかな」
男「君がイリアさんですね。少し、お話があるのですが」
イリア「はあ、なんでしょう?」
場面転換。
イリア「似顔絵を描いて欲しい……ですか?」
男「ええ。私は国王直々の組織です。……まあ、表には絶対に名前が出ることがない組織ですが」
イリア「そんな組織が、どうして僕に似顔絵の依頼を? それに誰の顔を描けばいいのでしょうか?」
男「反乱分子です」
イリア「……」
男「今、この国ではレジスタンスが結成されつつあることは知っていますか?」
イリア「噂程度には……」
男「そのメンバーを突き止めつつあるのです。そのメンバーの似顔絵を描いていただきたいのです」
イリア「何のためです?」
男「暗殺部隊に渡すためです。大勢に一度に一瞬でターゲットの顔を覚えさせるのには、似顔絵が一番なのです」
イリア「……殺す人たちの似顔絵を描けということですか?」
男「失礼ながら、イリアさん。あなたのことは調べさせていただきました。病気の母親がいますね? 薬代だけでも、かなりの費用がかかるようで……」
イリア「……」
男「これは国のためです。正義のための仕事なのです。決して後ろめたいものではありません」
イリア「……」
場面転換。
イリア(N)「結局、僕はその仕事を受けることにした。男に連れられ町へと出て、指定された人の顔を覚え、似顔絵を描く。別の男が取りに来きて、渡す。その繰り返し」
イリア「……似顔絵です」
男2「……確かに受け取りました。では」
イリア「あの、どうして、中を……絵を確認しないのですか?」
男2「私の仕事はこの絵を受け取って、人に渡すことです。それ以外のことは知らない方がいい」
イリア「そう……ですか」
男2「……本音を言うと、これから殺される人間の顔を……例え、絵だとしても見る気にはなりません。……あなたには失礼な話ですが」
イリア「いえ、その気持ちは痛いほどわかります……」
場面転換。
母親「また、町で殺人があったみたいよ。イリア。あなたも気を付けてね」
イリア「大丈夫だよ、母さん。最近はほとんど家にこもっているから」
母親「そうかい。それならいいのだけど。そういえば、仕事は順調かい? 久しぶりにイリアの絵が見たいわ」
イリア「はは。また今度ね」
イリア(N)「僕が似顔絵を描いた人たちが殺されていく。そのことに目を逸らして、僕は似顔絵を描き続けた。僕の絵は死を招く。そんな絵を母さんに見せるわけにはいかなかった」
場面転換。
母親「……イリア」
イリア「母さん、しっかりして!」
母親「……ありがとう、イリア。もういいのよ。ここまで生きれただけで十分」
イリア「嫌だ、母さん……」
母親「……イリア。ごめんね、お前の人生はずっと母さんが縛り続けたわ。私が死んだら……自由に生きなさい」
イリア「母さん!」
母親「ふふっ。もう一度、イリアの絵が見たかったわ。イリアの……温かい絵を」
イリア「……」
場面転換。
イリア「……似顔絵です」
男2「確かに受け取りました。それでは……」
イリア「……よろしくお願いします」
場面転換。
ドアがノックされる。
イリア「はい」
ドアを開ける。
男3「……間違いない。貴様だな」
イリア「……うっ」
ドス、と剣で刺され、倒れるイリア。
男3「反逆など考えるからだ。当然の報いだ」
イリア「……」
イリア(N)「やっとこれで終えることができる。もう、人に死を運ぶ絵を描かなくて済むんだ……」
終わり。
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