【フリー台本】不思議な館のアリス 地平線の向こう
- 2022.05.26
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:1人
時間:10分程度
■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス
■キャスト
アリス
■台本
アリス「いらっしゃいませ。アリスの不思議な館へようこそ」
アリス「最近は色々と忙しいようですね。妹から聞いていますよ」
アリス「勤勉というのは素晴らしいですが、それで身体を壊してしまったら、元も子もうありません」
アリス「それに身体はもちろんですが、疲れていると心も弱ってくるものです」
アリス「なにか、リフレッシュすることをお勧めします」
アリス「あなたには何か趣味のようなものはないのですか?」
アリス「……なるほど、旅行ですか」
アリス「どういうところに行ったりするのですか?」
アリス「……ふふ。実にあなたらしいですね。旅行に行きたいというだけで、実際にはほとんど行ったことがないというわけですか」
アリス「では、どういうところに行ってみたい、などはありますか?」
アリス「……どこか、遠くの外国、ですか」
アリス「随分と抽象的ですね。具体的に、どこ、というのはないのですか?」
アリス「……なるほど。とにかく、今の、この状況から離れたい、というわけですね」
アリス「なので、とにかく、遠くの外国というわけですか」
アリス「確かに、遠い場所というのは、今いるところとは環境が違うことが多いですね」
アリス「……ですが、思ったほど違わない場合もあるのですよ」
アリス「では、本日はある青年についてのお話をしましょう」
アリス「それは遥か昔の出来事です」
アリス「ある青年は小さい頃に、自分の家の倉にあった、一冊の本を見つけます」
アリス「その本には遥か遠い地平線の先に、国があると描かれていました」
アリス「正確な場所さえも書かれてなく、本当にそんな国があるのかさえ、わからない状態でした」
アリス「それでも、その本を読んだ青年は感化され、幼いころから好奇心旺盛となり、一人で遠くまで行っては、迷子になって親に怒られていたそうです」
アリス「ですが、その青年はどんなに怒られても、止められても、知らないものを見るという好奇心には勝てず、いつも周りに心配ばかりかけていました」
アリス「そんな青年もいつしか成人し、親元から離れて暮らすようになります」
アリス「そして、青年はその時をずっと待っていたようです」
アリス「それは地平線の向こうまで旅をすることでした」
アリス「時折、村にやって来る旅人や行商人でさえも行ったことのない、小さい頃に見つけた本に描かれた遥か遠くの国よりももっと遠くへ行きたいと思っていたようです」
アリス「青年はほぼ強引に両親と話をつけ、ついに旅立てることになりました」
アリス「もちろん、その旅は過酷を極めたようです」
アリス「何度も危機的状況に陥りましたが、決して歩みを止めることはありませんでした」
アリス「青年にとっては、旅の苦しさよりも、新しいものを見られる喜びや、新しい人たちとの出会いの楽しさの方が勝っていたようです」
アリス「そして、数十年という年月が過ぎ去った際に、その青年……いえ、男はようやく見つけることに成功しました」
アリス「幼いころに読んだ、地平線の向こうにある国を」
アリス「ですが、男は喜びよりも困惑の方が強かったそうです」
アリス「……なぜならば」
アリス「その国の文化がその男がいた町とほとんど同じだったからです」
アリス「そこで、男は色々と情報を集めました。そして、こんな話を聞くのです」
アリス「遥か昔、ある男が地平線の向こうに行くといって旅立ち、数十年後に辿り着いた地で、町を築いたのだと」
アリス「つまり、男がいた町が、この国から来た男が作ったということですね」
アリス「なので、その国に対して男は既視感を覚えたというわけです」
アリス「その感覚を男はこう表現したそうです。この国は、私がいた町の住人を入れ替えただけのような場所だ、と」
アリス「男は何十年という長い時間を使い、見たことのないものを見るために、この国を目指していました」
アリス「ですが、ついてみれば、結局は自分がいたところと似た場所だったわけです」
アリス「そんな状況に、男は絶望し……たりはしませんでした」
アリス「これが、その男が残した言葉です」
アリス「長い時間を費やし、辿り着いた場所は私を満足させるにはいたらなかった。だが、私には旅してきた中での思い出や様々な出会いがあった。それがあれば、私の旅は十分、満足させるものになったのだ、と」
アリス「いかがだったでしょうか? 旅というのは、その場所に行くことだけではなく、その過程も楽しめるものなのかもしれませんね」
アリス「なので、あなたも、どこか遠くの場所に行くことを目的にせず、行く過程を楽しんでみてはいかがでしょうか」
アリス「今回のお話はこれで終わりです」
アリス「それではまたのお越しをお待ちしております」
終わり。
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