【声劇台本】夢中だったあの頃

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■概要
人数:5人以上
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
蒼真(そうま)
千佳(ちか)
男性
その他

■台本

蒼真「ふっふっふ。この俺に戦いを挑んだことが間違いだったのだ。この右手に宿りし、魔性の力の前にひれ伏すがいい! はあああ!」

パチンとめんこを叩き付けて、相手のめんこがひっくり返る。

子供1「うわー、やられた」

子供2「お兄ちゃん、強いなー」

蒼真「当たり前だ。このめんこの王、蒼真様が負けるわけがなかろう」

子供1「けど、お兄ちゃん、高校生だろ? 小学生に本気になるなよ」

蒼真「獅子搏兎(ししはくと)。王たる者は、どんな弱者であろうと全力で狩る。それが相手への礼儀なのだ」

子供2「おお、お兄ちゃん、格好いい!」

蒼真「ふふん。そうだろう?」

子供1「でもさー。めんこって、こんなに面白いのに、どうしてみんなやらないんだろう?」

蒼真「ふむ。めんこは古(いにしえ)の遊戯だからな。今のものたちには、受け入れられないのかもな」

子供2「めんこの大会とかあったら、お兄ちゃん、優勝できるんじゃない?」

蒼真「当然だろう。何しろ、我はめんこの王なのだからな」

子供1「ねえ、お兄ちゃん、もう一回やろうよ!」

場面転換。

千佳「……真くん、蒼真くん!」

蒼真「ん? ……おお、千佳か。どうした?」

千佳「また、店番しながら居眠りして」

蒼真「問題ないだろう。ほとんど客が来ないのだからな」

千佳「……胸張っていうことじゃないでしょ。店長として自覚あるの?」

蒼真「うむ……。カードショップというのは、あまり儲からないもんだな」

千佳「しょうがないわよ。今は何でもデジタルデータの時代だもん。現物を手に入れたいなんて、コアなファンだけよ」

蒼真「……ふむ。で、千佳はなんのようだ?」

千佳「いや、何の用って……。人にお使い頼んでおいてその言い草はなによ」

ドンとカードが入った箱をテーブルに置く。

千佳「今日発売のマジックファイターズのオフィシャルカード。なんとか、3箱買えたわよ」

蒼真「そうだった。すまないな。これを売ってなんとか現金を作らないとな」

千佳「でも、いまだにこのカードは人気があるのは凄いわよね。私も買うのに凄い並んだもん」

蒼真「……人気がある、か。つまり、カードに価値があれば……。あっ! そうだ」

千佳「ん? どうしたの?」

蒼真がカードの袋を破いて開ける。

千佳「ちょっと! なに袋開けてるのよ! それじゃ売り物にならないじゃない!」

蒼真「……売り方を変える」

千佳「え?」

場面転換。

店内には大勢の人が集まっている。

バンとカードを叩き付ける蒼真。

子供3「あっ!」

蒼真「ふふふ。私の勝ちだな」

子供4「次、俺!」

蒼真「よかろう! かかってこい!」

場面転換。

蒼真「ふう、さすがに少し疲れたな」

千佳「大成功ね。まさか、カードをめんこにして勝負するなんてね」

蒼真「勝負1回、50円で、勝ったらめんこのカードが貰える。ふふ、なかなか勝負心をくすぐるだろ?」

千佳「でも、50円は安すぎない? もう少し高くしたら? 利益にならないわよ」

蒼真「いや、利益が目的じゃない。だから、正直、10円でもいいと思ってる」

千佳「どういうこと?」

蒼真「めんこを体験させることで、めんこの楽しさを知ってもらうのが目的だ」

千佳「話が見えないんだけど」

蒼真「子供たちは、めんこをやりにこの店に来るようになる。そのために、子供たち同士でめんこができるスペースを作ったからな」

千佳「つまり、めんこで集客するってこと?」

蒼真「ああ。店にさえ来てくれれば、何かとカードや他の商品も売れるからな。その証拠に今日の売り上げは、いつもの10倍だ」

千佳「やるじゃない」

蒼真「それに、俺に勝つために通ってくる客も出てくるだろう。つまり、リピーターも発生してくる」

場面転換。

店の中は多くの人で賑わっている。

子供3「おねーさん、これください」

千佳「はいはい。えっと……。ねえ、蒼真、これいくら?」

蒼真「385円だ」

そこに男性が店に入ってくる。

男性「あなたが、店長ですね?」

蒼真「……ああ、そうだが」

男性「少し、話をさせてください」

場面転換。

蒼真「めんこの大会をやる、だと?」

男性「ええ。あなたの店から、めんこが流行りつつあります。流行は巡ると言いますからね。古い遊びが子供の親にも飛び火して、さらに人気に火がついてます」

千佳「蒼真、やったじゃない!」

男性「そこで、あなたには私たちと協力していただきたい。このめんこブームの先駆者として、この業界を牛耳ります」

蒼真「どうやってだ? 仮に大会をやったとしても、他が便乗するだろ?」

男性「だから、新しいルールを我々で作るんです。それを公式として大会をやれば、我々が、新しいめんこの公式になる」

蒼真「……なるほど。いいだろう。のった」

場面転換。

アナウンサー「第一回、めんこデュエルバトル全国大会の優勝者は蒼真選手に決定!」

わーっと、歓声が上がる。

場面転換。

千佳「やったね、蒼真」

蒼真「ふふ。当然だ。王たる俺が破れるわけがない」

男性「おめでとうございます。今回の大会はテレビはもちろん、ネットでも話題です」

千佳「にしても、凄いわね。めんことカードバトルを組み合わせるなんて」

男性「ええ。素晴らしい発想です。めんこのデッキを組むことで、戦略の幅が広がりました。完全に新しいゲームとして認知されましたよ」

蒼真「ふふふ。まあな!」

男性「つきましては、あなたにはこれから、絶対的なチャンピオンとして王座にずっとついていてもらいたいです」

蒼真「無論だ。俺に勝てるやつなど存在しない」

場面転換。

アナウンサー「強い、強い、強い! まさに絶対王者! 蒼真選手、6連覇だ!」

ワーッと歓声が上がる。

場面転換。

千佳「やったね、蒼真!」

蒼真「……」

男性「今日は、かなり危なかったですね」

蒼真「……ああ。最近はかなり、レベルが上がってる。今日、勝てたのはラッキーだ」

男性「……蒼真さん、ちょっといいですか?」

場面転換。

男性「次からは大会でこのカードを使ってください」

蒼真「……これは。規定の物より、重い」

男性「はい。これなら負けることはありません。見た目的にもバレないです」

蒼真「冗談じゃない。不正なんか……」

男性「今、あなたに負けてもらっては困るんです。あなた王者だからこそ、流行を保ってられるんです。今、負ければ、ブームは終わるでしょう」

蒼真「……」

男性「ブームが終われば、あなたはまた、客が来ないカード屋の店長に戻るだけですよ」

蒼真「……」

場面転換。

アナウンサー「強ーい! 誰か、この絶対王者を倒せないのかー! 蒼真選手、10連覇達成だー!」

ワーっと歓声が上がる。

場面転換。

千佳「やったね、蒼真!」

蒼真「……」

千佳「どうしたの? 10連覇だよ?」

蒼真「すまん。ちょっと一人になりたい」

場面転換。

バンと壁を殴る蒼真。

蒼真「くそ、くそ、くそ……」

場面転換。

アナウンサー「いやー。どこまで勝ち続けるのか、絶対王者、蒼真選手。前人未到の15連覇だ!」

場面転換。

道を歩く蒼真。

道で、めんこをやっている子供たちがいる。

子供4「えい!」

子供5「あっ! やられた」

蒼真「……普通のめんこ、か?」

子供4「あ、チャンピオンだ!」

蒼真「……めんこデュエルバトルをやらないのか?」

子供5「僕たち、家が貧乏でさ。デッキ、組めるほどめんこ、持ってないんだ」

蒼真「そうか。じゃあ、俺のを分けてやる」

子供4「ううん。いらない」

蒼真「なぜだ?」

子供4「普通のめんこでも楽しいもん」

蒼真「……」

子供5「えへへ。まあ、公式のルールがよくわからないっていうのがあるんだけどね」

蒼真「……そうか。うん、そうだよな」

子供4「……ん?」

蒼真「そうだよ! めんこは楽しいんだ!」

子供5「……チャンピオン?」

場面転換。

千佳「……見事に貧乏店長に逆戻りね」

蒼真「俺にはこれくらいがちょうどいいさ」

千佳「そういえば、蒼真の代わりのチャンピオン、決まったみたいね」

蒼真「ふーん」

千佳「ふーん、て。興味ないの?」

蒼真「ないな」

ウィーンと店のドアが開く。

子供4「店長! めんこ勝負しよ!」

蒼真「ふふふ! いいだろう! 敗北という絶望に叩き込んでやる!」

子供4「いくよ! えい!」

蒼真「ほう、やるな! だが、甘い! はあああ!」

千佳「……まったく。子供相手に本気になっちゃって。でもま、それがあんたらしいわ」

終わり。

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