異世界ではスローライフはやらない

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■概要
人数:5人以上
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、ファンタジー、シリアス

■キャスト
ケンジ
女神
カヤ
母親
女の子
ならず者
騎士

■台本

ガチャリとドアが開く音。

ケンジ「ただいまー」

カバンをドサッと置く音。

ケンジ「遊びに行ってくるからー」

母親「ケンジ! 待ちなさない!」

ケンジ「……なんだよ?」

母親「今、繁忙期だってわかってるでしょ? お父さんの手伝いをしてきなさい!」」

ケンジ「全部、機械でやるんだからいいじゃん。俺が手伝うことなんてないって」

母親「何言ってるのよ。あんたには高校卒業したら、うちを継いでもらうんだから、今からしっかり、お父さんに習っておきなさい」

ケンジ「継ぐときでいいじゃん! せめて高校行ってるときは、自由に遊ばせてくれよ」

母親「我儘言うんじゃないの!」

ケンジ「……」

場面転換。

ガチャリとドアを開け、ケンジが部屋に入って来る。

そして、ベッドの上に寝転がる。

ケンジ「あー、くそ、疲れた……」

寝返りを打つ。

ケンジ「……ただでさえ、田舎暮らしで、学校から帰ったら農作業……。あー、くそ、やってらんねー! ……はあ、俺の人生、ずーっとこんな刺激のないままなんだろうか? いっそ、異世界にでも転生して派手な人生を送りたいものだぜ」

女神「本当ですか?」

ケンジ「え? な、なんだ? どこから?」

女神「今、あなたの頭の中に直接話しかけています。……先ほど、あなたは異世界に行きたいという発言をしましたよね?」

ケンジ「え? あ、ああ……」

女神「よかったです。では、異世界に転生してくれませんか? 今期、ノルマの達成が危なくて……」

ケンジ「……ノルマなんてあるのか。てか、こういうのって、事故にあったり、病気になったりして、死なないと転生できないもんじゃないの?」

女神「え? なんですか、それ? 死んだら、死んじゃうじゃないですか」

ケンジ「ま、まあ、そうなんだけど」

女神「とにかく、異世界に行っていいという人を勧誘しているんです。協力してくれませんか?」

ケンジ「もちろん! オッケーだ!」

場面転換。

ケンジが街中を歩いている。

ケンジ「んー。確かにファンタジーな世界だけど、なんか、アトラクションっぽい感じなんだよなー。実感がわかないというか、なんというか……」

女の子「は、離してください!」

ならず者「あははは。いいじゃねーか、ねーちゃん。少し、俺と付き合えよ」

ケンジ「……まあ、なんていうか、コテコテで古典的なイベントだな。よし、女神に貰った、スキルって奴を試させてもらうか」

女の子「きゃー!」

ならず者「がはははは」

ケンジ「おい! やめろ!」

ならず者「ああ? なんだてめえは?」

ケンジ「うわ……。普通に怖い」

ならず者「けっ! ビビり野郎はすっこんでろ」

ケンジ「え、えっと。すぐにその子の手を離さないと、スキルを撃ちますよ」

ならず者「はあ? なんだそりゃ? やれるもんならやってみろや!」

ケンジ「えーっと、確か、こうやって……こう!」

派手な爆発音がする。

ならず者「……すげえ」

ケンジ「……すごい」

ならず者「は?」

ケンジ「え? あ、と、とにかく、次は当てられたくなかったら、さっさと消えろ」

ならず者「……は、はい」

ならず者が走って逃げていく。

女の子「あ、あの! ありがとうございました!」

ケンジ「えへへへ。お礼なんていいよ」

女の子「それじゃ、失礼します」

ケンジ「え?」

女の子がスタスタと歩き去って行く。

ケンジ「あれ? こういうのって、ヒロインになるとかの展開じゃないの? ……まあいいや。とにかく、スキルはチートっぽいから、これからファンタジー世界で大暴れしてやるぜ!」

場面転換。

ドラゴンの咆哮。

ケンジ「うわああああああ!」

騎士「ケンジ殿! 私が奴を引き付けますので、渾身の一撃をお願いします」

ケンジ「いや、無理無理! 無理ですって!」

騎士「何を言ってるんですか! 王国のために命をかけると宣言したではありませんか」

ケンジ「いや、あれは形式的な……」

騎士「とにかく、早くしてください! このままでは全滅してしまいます!」

ケンジ「無理だって! 失敗したら死ぬって!」

騎士「ですから、ここで命を捧げてください!」

ケンジ「いーやーだー!」

場面転換。

店内。

ケンジ「……マントとマスク、あと、眼帯もだな。……よし、おばちゃん、会計お願いします」

おばちゃん「はいよ。……って、あれ? あんたの顔、どっかで見たような……」

ケンジ「代金、ここに置いていきます! 釣りはいらないんで!」

ケンジが物を抱えて、店内へと飛び出す。

場面転換。

階段を上る音。

ケンジ「くそ。俺の手配書がこんなところまで回ってるのか。この町にも長居はできないな……」

ガチャリとドアを開く音。

ケンジ「明日の朝、すぐにチャックアウトするか……って、え? あれ? 俺の荷物がない! あっ! 窓が破られてる!」

場面転換。

森の中。

フクロウが鳴いている。

ケンジ「……うう。どうしてこんなことに。異世界なんて、全然楽しくねーじゃねーか」

ガサガサと草の根が掻き分けられる音。

ケンジ「だ、誰だ! ……って、タヌキか」

フクロウの鳴く声。

ケンジ「……はあ。おちおち、休んでもいられないのかよ」

場面転換。

山道を歩く音。

ケンジ「……確かに、こっちの世界に来てからは刺激的なことばかりだった。だけど、それは良いことってわけじゃないんだな……。なんにもない、平和な毎日……。そんな当たり前な日常が幸せだったのかもな」

山道を歩く音。

ケンジ「はあ、くそ。腹減った。けど、金は尽きたし……。その辺で食える物を探すしかないか」

ガサガサと草の根を分ける音。

ケンジ「……え? あれ? これって……麦? 誰かの畑……ってわけでもなさそうだな。野生の麦なのか? この世界独特の品種なのかもしれない……。よし、一か八か、やってみるか!」

場面転換。

畑を耕す音。

そこにカヤがやってくる。

カヤ「ケンジさん、こんにちは」

ケンジ「あ、カヤさん、こんにちは」

カヤ「あの、お肉とミルク、日用品を持って来ました」

ケンジ「ありがとうございます。ホント、助かりますよ」

カヤ「いえいえ。ケンジさんの作る、野菜や麦、お米はとても美味しいって、町でも評判なんですよ」

ケンジ「ははは。そう言って貰えると嬉しいです」

カヤ「あの……。ケンジさんは転生者なんですよね?」

ケンジ「ええ、まあ」

カヤ「他の転生者は、戦ってばかりですが、ケンジさんはそうじゃないんですね」

ケンジ「いや、ははは。恥ずかしながら」

カヤ「あ、いえ! 別に非難しているわけじゃないんです! ……ただ、その……ずっと農作業ばかりでつまらなくないのかな、と……。私の周りの男の人も、みんなつまらなそうに、農作業してるので……」

ケンジ「楽しいですよ」

カヤ「え?」

ケンジ「実は、俺、元の世界で農家だったんですけど、そのときはつまらないって思ってました」

カヤ「……」

ケンジ「でも、この世界に来て、怖い思いや嫌なことをたくさん経験して……。でも、今は農作業っていう日常が楽しいって思うようになったんです」

カヤ「そうなんですか……」

ケンジ「それに、植物といっても、どれも個性があって、同じ品種なのに育ち方が違うんですよ。……こんなこと、元の世界にいたときは気づかなかった……いえ、気付けなかった。とにかく、今は、とても充実してますよ」

カヤ「そうですか。よかったです。あ、そうだ。今度、お手伝いさせてくれませんか?」

ケンジ「え? いいですよ。そんな」

カヤ「いえ、手伝わさせてください。いつも、サービスしてもらってますし」

ケンジ「気にしないでください。カヤさんが来てくれるので、生活できているんですから」

カヤ「……もしかして、迷惑ですか?」

ケンジ「いえ、そんなことありません。……嬉しいです」

カヤ「それじゃ、また明日、手伝いに来ますね!」

ケンジ「ありがとうございます」

ケンジ(N)「元の世界にいたときは、スローライフなんて絶対にやならない、やりたくないって思っていたけど、今はスローライフも悪くないって思っている」

終わり。

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