待ち続ける理由
- 2022.08.19
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:3人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、中世、シリアス
■キャスト
ジル
カーラ
男
■台本
猛吹雪の音。
ガタガタと風で窓が鳴る。
カーラ「さてと。そろそろ、行こうかしら」
ジル「ちょっと、母さん。外、凄い吹雪だよ。行くの止めなって」
カーラ「吹雪だからこそ、行くのよ」
ジル「あのさぁ、こんな天気の中、船を出すバカなんていないって。行く意味ないよ」
カーラ「でも、いるかもしれないでしょ?」
ジル「こんな天気の中、船を出す方が悪いよ。そんなの自業自得だって!」
カーラ「……ジル」
ジル「……あ、その、ごめんなさい」
カーラ「ジルは家で待ってなさい。お母さんが一人で行くから」
ジル「いいよ。私も行く」
カーラ「そんなに心配しなくてもいいに。大丈夫、すぐに帰って来るから」
ジル「……父さんも同じこと言った」
カーラ「……そうね。じゃあ、一緒に行こうか。暖かくしなさいよ」
ジル「お母さんもね」
場面転換。
外。吹雪の物凄い音の中、雪を進む足音。
カーラ「ジル、大丈夫? 絶対に手を離しちゃダメよ」
ジル「う、うん。分かってる」
カーラ「もうすぐ着くから、頑張って」
ジル「それ、もう、30分くらい前から言ってる!」
吹雪の中、突き進んでいくカーラとジル。
場面転換。
重い扉が開く音と、中にカーラとジルが入って来る音。
ジル「ぷはー。やっと着いたー」
カーラ「お疲れ様。でも、着いて終わりじゃないのよ」
ジル「わかってるって」
場面転換。
ボッと火が点火する音。
カーラ「付いたわ」
ジル「あー、暖かい。生き返る―」
吹雪の風の音。
カーラ「あら、大分、風が弱くなってきたわね」
ジル「タイミング悪―い! もう少し早くしてよね」
カーラ「でも、風が弱まったおかげで、明かりが遠くまで見えるはずよ」
ジル「……ねえ、お母さん」
カーラ「なに?」
ジル「お母さんは辞めようと思ったことないの? 灯台守り」
カーラ「一度もないわね」
ジル「どうして? 港だって移動しちゃったし、村で船を出してる人なんて、もうほとんどいないんだよ? 辞めたって誰も文句言う人なんかいないって」
カーラ「……そうね」
ジル「お母さん。……お父さんはもう、戻っては来ないよ」
カーラ「ジル」
ジル「お父さんが海で遭難してから、もう5年! 5年だよ! 沈没するところを見たって人もいるんだよ! お願い! お願いだから受け入れてよ!」
カーラ「……ジル。お母さんがこの灯台を守っているのは、お父さんを待っているだけじゃないの」
ジル「え? じゃあ、なんのために? って、あれ? 船!?
カーラ「本当! こっちに上陸するわ! ジル! ソリの用意と、お湯を沸かす準備」
ジル「うん、わかった!」
場面転換。
家の中。暖炉の火の音。
飲み物をすする音。
男「うー。暖かさが身に染みる!」
カーラ「舌を火傷しないようにゆっくり飲んでくださいね」
コップを置いて、頭を下げる音。
男「いやあ、まさか、こんな状況の中、灯台の光りを見つけられるなんて、夢にも思わなかったよ」
ジル「……この吹雪の中、船を出すなんて自殺行為じゃない?」
男「ははは……。返す言葉もない。娘の誕生日が近くてね。娘の喜ぶ顔を想像して、つい、欲を出してしまった」
ジル「それで、帰れなくなったら、元もこうもないでしょ」
カーラ「返って、娘さんを悲しませる結果になるところでしたね」
男「ははは……。耳が痛いです」
カーラ「これからは、無茶しないでくださいね」
男「はい。肝に銘じておきます。……っと、風が止んだみたいですね。そろそろ行きます」
カーラ「あら。今日はゆっくりしていってください。お疲れでしょう?」
男「いやあ、これ以上、お世話になるわけにはいきません。村まで行って、宿を探します」
ガチャリとドアを開く音。
カーラ「まだ雪は降ってますので、気を付けてくださいね」
男「あの……本当にありがとうございました! あの灯台の光りが見えなかったら、娘や妻、家族に二度と会うことができなくなるところでした! 本当に! 本当に! ありがとうございました!」
ジル「……」
カーラ「そう言っていただけただけで、東大を守ってきた甲斐があります」
男「失礼します」
ザクザクと男が雪の中を歩いて行く音。
カーラ「あれだけ元気なら、大丈夫そうね」
ジル「ねえ、お母さん」
カーラ「ん?」
ジル「お母さんが、お父さんのことだけじゃないって言ったこと、分かった気がする」
カーラ「そう」
ジル「……私達みたいな人を増やさないためだったんだね」
カーラ「……さ、家に入ろうか。暖かい物でも作るわ」
ジル「うん」
カーラとジルが家に入り、バタンとドアが閉まる音。
終わり。